マイクロ法人で社会保険料はいくら安くなる?仕組みと役員報酬の決め方
国民健康保険と厚生年金の違いから、社会保険料が変わる仕組みと役員報酬の比較方法を、令和8年度(2026年度)・東京の公式料率で解説します。
令和8年度・東京・公式一次ソース準拠マイクロ法人を検討する理由の一つが社会保険料の違いです。個人事業主のときの負担を、法人化と役員報酬の設定によって抑えられる場合があります。この記事では、その仕組み、本人・会社の負担、役員報酬の比較方法、注意点を整理します。
マイクロ法人とは
マイクロ法人とは、主に社会保険の負担比較や事業の分散を目的に、ひとりまたは少人数で小規模に設立する法人の通称です。法律上の正式な区分ではなく、株式会社や合同会社を小さく使うイメージです。個人事業主が事業の一部を法人化したり、会社員が副業を法人化したりするケースもこれに含まれます。
なぜ社会保険料が下がるのか
ポイントは、加入する社会保険の種類と、保険料の決まり方の違いです。
個人事業主:国民健康保険+国民年金(所得に連動)
個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入します。国民健康保険は前年の所得に応じて保険料が上がるのが特徴で、新宿区の令和8年度は所得割の合計が40歳未満で10.58%、40〜64歳で13.01%です。賦課限度額の合計は40歳未満が95.7万円、介護分を含む40〜64歳が112.7万円で、国民年金は令和8年度で月17,920円(年間約21.5万円)の定額です。
つまり所得が高いほど、社会保険の負担も重くなります。
マイクロ法人:健康保険+厚生年金(報酬に連動)
法人で役員報酬を受け、使用関係が認められる役員は健康保険と厚生年金の加入対象になります。これらの保険料は役員報酬を等級へ当てはめた標準報酬月額にもとづいて決まるため、報酬を低めにすると抑えられる場合があります。ただし厚生年金の標準報酬月額には8.8万円の最低等級があり、報酬をそれ未満にしても厚生年金保険料が同じ割合で下がり続けるわけではありません。
標準報酬月額は入社時だけで固定されるわけではなく、毎年の算定基礎届や報酬が大きく変わったときの月額変更届で見直されます。詳しくは標準報酬月額の改定(算定基礎届・月額変更届)を参照してください。
協会けんぽ東京の令和8年度の料率は、健康保険9.85%、介護保険1.62%(40〜64歳)、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%です。健康保険・介護保険・支援金・厚生年金の保険料は、原則として会社と本人で折半します。健康保険料率は都道府県ごとに異なり、他の都道府県の料率は協会けんぽの都道府県差で確認できます。
保険料の比較だけでなく、病気・出産で働けなくなったときの給付にも違いがあります。▶ 法人化すると傷病手当金・出産手当金がもらえる
厚生年金に加入すると、万一のときの遺族年金も国民年金だけの場合と変わります(遺族年金、自営業者と法人化後の違い)。役員本人が出産するときの保険料免除は、産前産後休業と育児休業で扱いが分かれます(一人社長・役員の産休と育休で社会保険料は免除されるか)。
実際にどのくらい安くなるか
東京・単身・40歳未満で、事業所得(青色申告特別控除65万円を引いた後)が約435万円のケースを例にします。
- 個人事業主の場合:国民健康保険が約48万円+国民年金が約21.5万円=約70万円(年間)
- マイクロ法人で役員報酬を月8.8万円(年105.6万円)に抑えた場合:社会保険料は本人・会社合計で約30万円(年間)
社会保険料だけを比べると、この例では年間で約40万円の差になります。ただし、これは社会保険料だけを取り出した比較です。実際の手取りは、所得税・住民税・法人税まで含めて変わるため、シミュレーターでも本人手取りと会社資金を分けて確認してください。
役員報酬の比較方法
役員報酬を上げると、個人の所得税・社会保険料は増えますが、給与所得控除(最低74万円)が使えます。逆に下げると、社会保険料は減る場合があるものの、法人に残る利益が増えて法人税がかかります。年齢・所在地・他社給与などの前提を固定して、本人の手取りと法人の税引後利益の合計を比較します。
本業の勤務先ですでに社会保険へ加入していても、副業法人から役員報酬を受け、両事業所で加入要件を満たす場合は「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」が必要です。両事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、保険料を各事業所の報酬に応じて按分します。
法人事業所は、代表者1人だけの場合を含めて原則として強制適用事業所です。ただし、無報酬の役員しかおらず被保険者となる人がいない場合は、この適用事業所の要件を満たさないと日本年金機構は案内しています(出典:日本年金機構)。
役員報酬をゼロにする設計では、副業法人から報酬を受けないことと実際の勤務実態を踏まえて、被保険者資格に該当するかを個別に確認する必要があります。金銭以外の報酬、勤務実態、報酬の開始など事実が変われば扱いも変わるため、年金事務所への確認をおすすめします。役員報酬は原則として事業年度開始から3か月以内に決める定期同額給与のルールにも注意します。
なお、個人事業を畳んで全部を法人にするのではなく、個人事業を続けながら別の事業だけを法人にする「二刀流」という組み合わせ方もあります。全部を法人化しない理由や課税の仕組みは二刀流の解説で整理しています。法人化せずに国民健康保険料そのものを抑える方法は国民健康保険料はいくら・安くする方法で解説しています。
デメリット・注意点
- 赤字でも法人住民税の均等割がかかる。東京23区の年7万円は、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下などの最小区分
- 役員報酬を出すと社会保険の会社負担(折半分)が発生する
- 法人の決算・申告は個人より複雑で、税理士費用がかかるのが一般的(自分で申告する場合の書類・提出先・期限は法人の決算・申告の流れ)
- 本業で加入済みでも、副業法人でも加入要件を満たせば二以上事業所勤務の手続きと保険料負担が生じる
- 厚生年金には標準報酬月額8.8万円の最低等級があり、報酬を下げても保険料が際限なく下がるわけではない
- 実態の伴わない極端な報酬設定や事業分散は、税務上問題となる可能性がある
- 配偶者や家族を従業員として給与を払う場合、持株割合と経営への関与によっては「みなし役員」として扱われ、給与の増減に役員給与のルールがかかることがある
役員報酬の等級ごとに老齢厚生年金がいくら増えるかは、マイクロ法人の役員報酬で増える老齢厚生年金の額で加入年数別に試算しています。
個人事業のまま従業員だけを社会保険に入れる「任意適用」の要件は個人事業所の社会保険の任意適用で整理しています。
まとめ
マイクロ法人では、前年所得に連動する国民健康保険から、標準報酬月額にもとづく健康保険・厚生年金へ変わることで、条件により社会保険料を抑えられます。ただし最低等級、会社負担、法人税、均等割、二以上事業所勤務を含め、本人手取りと会社所有・出口課税前の資金を分けて判断することが大切です。自分の条件での内訳は、下のシミュレーターで確認できます。
法人化せず個人事業主のまま社会保険を安くする方法もあわせて確認してください。保険料負担だけでなく、万一のときの障害年金にも国民年金と厚生年金で対象範囲の違いがあります(障害年金、自営業者は3級だと無支給)。
健康保険に加入すると、配偶者や親を被扶養者にできる場合もあります。国民健康保険にはない仕組みのため、詳しくは法人化後の配偶者・親の健康保険の扶養で解説しています。
よくある質問
- マイクロ法人にすると社会保険料はどのくらい安くなりますか?
- 例えば東京・単身・40歳未満で事業所得が約435万円の場合、個人事業主の国民健康保険約48万円+国民年金約21.5万円=約70万円に対し、マイクロ法人で役員報酬を月8.8万円とした社会保険料は本人・会社合計で約30万円となり、社会保険料だけで年間約40万円の差が出ます(令和8年度・概算)。ただし会社所有の利益には法人税、個人へ移す際には出口課税があり、本人手取りと分けて確認します。
- 役員報酬はゼロにできますか?
- 役員報酬をゼロにする設計自体はありますが、本業で社会保険に加入済みかどうかだけでは判断できません。副業法人から報酬を受けて両事業所で加入要件を満たす場合は二以上事業所勤務の手続きが必要です。報酬の有無と実際の勤務実態を踏まえ、被保険者資格を年金事務所等へ確認してください。
- マイクロ法人のデメリットは何ですか?
- 赤字でも法人住民税の均等割がかかること、社会保険の会社負担、厚生年金の最低等級、決算・申告の事務負担などが挙げられます。東京23区の年7万円は資本金等1,000万円以下・従業者50人以下などの最小区分です。