ガイド

法人成りすると雇用保険の失業給付・育児休業給付金はもらえない?代表者・役員の扱い

法人成りをして代表取締役や取締役になると、雇用保険の失業給付(基本手当)・育児休業給付金の扱いはどう変わるのかを、雇用保険法の条文とハローワークの公式情報にもとづき整理します。

厚生労働省の制度
編集:法人成りシミュレーション編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

法人成りをして自分が代表取締役に就任すると、原則として雇用保険の被保険者ではなくなり、失業したときの基本手当(いわゆる失業給付)も、育児休業給付金も受けられなくなります。個人事業主だったときも雇用保険の対象外だった点は変わりませんが、法人成りをきっかけに従業員から役員になる人や、配偶者を役員に迎える人にとっては見落としやすい変化です。

この記事では、法人の役員が雇用保険の被保険者にならない原則と、例外的に被保険者になれる「使用人兼務役員」の考え方を、ハローワークの公式情報と雇用保険法の条文にもとづき整理します。法人成りの労働保険の手続き全体は法人成りの労働保険の引継ぎ、雇用保険の事業所番号の扱いは雇用保険の事業所番号の引き継ぎを参照してください。

原則:代表取締役・役員は雇用保険の被保険者にならない

雇用保険の被保険者とは、適用事業に雇用される労働者を指します。ハローワークが公表している「被保険者とならない方」の具体例には、法人の取締役等が明記されており、代表取締役および業務執行権を有する取締役は被保険者となりません。それ以外の取締役等の役員も、会社と委任関係にあるため、原則として被保険者となりません。

これは会社との関係が「雇用契約」ではなく「委任契約」であることによります。法人成りをして自分が代表取締役になる場合はもちろん、配偶者や家族を取締役に迎える場合も、原則としてこのルールが適用されます。

被保険者でなければ基本手当(失業給付)は受けられない

雇用保険法第13条は、「基本手当は、被保険者が失業した場合において…支給する」と定めています。基本手当は被保険者であったことが支給の前提のため、そもそも被保険者でない代表取締役・役員は、法人を廃業したり役員を退任したりしても、基本手当(失業給付)を受け取ることはできません。

個人事業を廃業して法人成りする場合、個人事業主自身は雇用保険の対象外だったため、この点は法人成りの前後で状況が変わらない人がほとんどです。一方、会社員から独立して法人を設立し、自分が代表取締役に就任する場合は、それまで積み上げていた雇用保険の被保険者期間があっても、退任時に新たに基本手当を受給できるわけではない点に注意が必要です。

被保険者でなければ育児休業給付金も受けられない

育児休業給付金も同様に、被保険者であることが前提です。雇用保険法第61条の7第1項は、「育児休業給付金は、被保険者…が…育児休業をした場合において…支給する」と定めています。代表取締役や業務執行権を有する取締役は被保険者にならないため、育児休業を取得しても育児休業給付金の対象にはなりません。

法人成り後に出産・育児を控えている代表者や役員は、雇用保険の育児休業給付金ではなく、健康保険(協会けんぽ等)の出産手当金・出産育児一時金など、別の制度で対応できるかどうかを確認する必要があります。健康保険の給付は雇用保険とは別の制度で、被保険者資格の判定基準も異なります。

例外:「使用人兼務役員」なら被保険者になれる場合がある

取締役等の役員がすべて雇用保険の対象外というわけではありません。ハローワークの公式情報は、部長・支店長・工場長等で従業員としての身分を有し、賃金・役員報酬の支払われ方や就業規則の適用状況などからみて労働者的性格が強く、雇用関係があると認められる方に限り、被保険者となるとしています。これがいわゆる「使用人兼務役員」の扱いです。

代表取締役および業務執行権を有する取締役は、この例外の対象にはなりません。使用人兼務役員になり得るのは、代表権・業務執行権を持たない役員のうち、実質的に従業員として働いている人に限られます。労働者的性格が強いかどうかの実質判断が必要になるため、該当するかどうかは管轄のハローワークまたは社会保険労務士に確認してください。

個人事業主だったときとの違い

個人事業主自身は、そもそも「雇用される労働者」ではないため、法人成りの前から雇用保険の被保険者ではありません。この点では、代表取締役になっても状況は変わりません。

変化が生じやすいのは、法人成りにあわせて配偶者や家族を役員にする場合です。個人事業のときに従業員として雇用保険に加入していた配偶者が、法人成り後に取締役に就任すると、原則として被保険者資格を失います。

なお、個人事業の事業主と同居している親族は原則として被保険者にならず、法人の代表者と同居している親族についても、原則として被保険者にならないとハローワークの公式情報に明記されています。役員にせず従業員のまま雇用を続ける場合でも、同居の親族であれば別途この原則が関わる点に注意してください。

まとめ

  • 代表取締役および業務執行権を有する取締役は、原則として雇用保険の被保険者にならない。
  • 被保険者でなければ、雇用保険法第13条にもとづく基本手当(失業給付)、同法第61条の7にもとづく育児休業給付金のいずれも受けられない。
  • 部長・支店長・工場長等の従業員としての身分を併せ持ち、労働者的性格が強いと認められる「使用人兼務役員」は例外的に被保険者になれる場合がある(代表取締役・業務執行権を有する取締役は対象外)。
  • 個人事業主自身は法人成りの前後で状況は変わらないが、配偶者や家族を役員にする場合は被保険者資格を失う可能性がある。同居の親族は役員でなくても原則として被保険者にならない。

公式一次情報

  • 北海道ハローワーク「雇用保険の被保険者の種類と要件」(代表取締役および業務執行権を有する取締役は被保険者とならないこと、その他の取締役等役員も原則として被保険者とならないこと、部長・支店長・工場長等で労働者的性格が強く雇用関係があると認められる場合に限り被保険者となること、個人事業の事業主・法人の代表者と同居している親族は原則として被保険者とならないことを明記。2026-09-06確認)
  • e-Gov法令検索「雇用保険法」(昭和四十九年法律第百十六号)(第13条:基本手当は被保険者が失業した場合に支給する旨、第61条の7第1項:育児休業給付金は被保険者が育児休業をした場合に支給する旨を条文本文で確認。2026-09-06確認)

よくある質問

法人成りして代表取締役になると、雇用保険の失業給付は必ずもらえなくなりますか?
代表取締役および業務執行権を有する取締役は、原則として雇用保険の被保険者にならないため、基本手当(失業給付)は受けられません。個人事業主だったときも雇用保険の対象外だったため、この点は法人成りの前後で変わらない人がほとんどです。
配偶者を取締役にすると、雇用保険はどうなりますか?
原則として被保険者資格を失います。従業員として雇用保険に加入していた配偶者が取締役に就任すると、会社との関係が雇用契約から委任関係に変わるためです。加えて、配偶者が代表者と同居している親族であれば、役員にしない場合でも原則として被保険者になりません。
役員でも雇用保険に入れる場合はありますか?
部長・支店長・工場長等で従業員としての身分を有し、賃金・役員報酬の支払われ方や就業規則の適用状況などからみて労働者的性格が強く、雇用関係があると認められる「使用人兼務役員」に限り、被保険者になれる場合があります。ただし代表取締役や業務執行権を有する取締役はこの例外の対象になりません。該当するかどうかの実質判断は、管轄のハローワークまたは社会保険労務士に確認してください。
育児休業給付金がもらえない場合、代わりに使える制度はありますか?
育児休業給付金は雇用保険の制度のため、被保険者でなければ対象外です。健康保険(協会けんぽ等)の出産手当金・出産育児一時金は雇用保険とは別の制度で、被保険者資格の判定基準も異なります。加入している健康保険の制度内容を別途確認してください。
本記事について。税理士監修前の概説です。使用人兼務役員に該当するかどうかは労働者的性格の実質判断が必要で、個別の事情によって判断が分かれます。実際の被保険者資格の判定は、管轄のハローワークまたは社会保険労務士にご確認ください。