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法人成りの労働保険の引継ぎ|保険関係成立届・個人事業側の精算と提出期限

従業員を雇っている個人事業が法人化するときの、労災保険・雇用保険の手続きを、個人事業側の精算と法人側の新規加入の両面から整理します。

厚生労働省の制度
編集:個人事業主のお金ラボ編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

従業員を雇っている個人事業が法人成りをすると、健康保険・厚生年金だけでなく、労災保険・雇用保険(あわせて労働保険)についても手続きが必要になります。事業主が個人から法人へ変わるため、個人事業時代の労働保険の関係をそのまま引き継ぐことはできず、法人として新たに手続きをするのが基本です。

期限を過ぎると保険給付や助成金の手続きに支障が出ることもあるため、法人成りのスケジュールに合わせて早めに準備しておく手続きと期限を整理します。従業員の退職金を国の制度で準備したい場合は、中退共の加入条件と掛金を参照してください。

個人事業と法人で労働保険の関係は別扱い

労働保険は、事業主(雇い主)ごとに保険関係が成立する仕組みです。個人事業主から法人へ法人成りすると、事業主が個人から法人という別の人格に変わるため、個人事業時代の労働保険の関係はそのまま引き継がれず、法人として新たに保険関係を成立させる手続きが基本になります。代表者1人(役員のみ)で従業員がいない場合は労働保険の加入義務自体が生じませんが、従業員を1人でも雇用していれば、法人としての手続きが必要です。

以下は、個人事業のときに労働保険へ未加入だった(今回の法人成りで初めて従業員を雇う)場合の新規手続きです。既に個人事業のときから労働保険に加入していた場合の扱いは、次の「個人事業のときから労働保険に加入済みの場合」で説明します。

個人事業のときから労働保険に加入済みの場合

個人事業のときから労災保険・雇用保険に加入しており、法人成りにより従業員の雇用実態が変わらない場合は、新規に保険関係を成立させるのではなく、既存の労働保険番号のまま「労働保険 名称、所在地等変更届」(労働保険徴収法施行規則第5条)を、変更を生じた日の翌日から10日以内に所轄の労働基準監督署・ハローワークへ提出する扱いになる場合があります(大阪労働局の公式案内)。添付書類として法人の履歴事項全部証明書が必要です。

ただし、法人成りと同時に代表者が交代する場合は、この名称変更届だけでは扱えません。この場合は、被保険者承継理由書・承継被保険者名簿など別の書類が必要になり、雇用契約の継続が確認できなければ資格喪失届の提出が必要になります(大阪労働局の公式案内)。名称変更届で足りるか新規成立が必要かは事業の実態によって判断が分かれるため、法人成りの前に所轄の労働基準監督署・ハローワークに確認することをおすすめします。

労災保険:保険関係成立届と概算保険料申告書

労災保険(労働者災害補償保険)は、次の2つの届出が必要です。

手続き提出期限提出先
保険関係成立届保険関係が成立した日から10日以内所轄の労働基準監督署
概算保険料申告書保険関係が成立した日から50日以内労働基準監督署・都道府県労働局・日本銀行(代理店等含む)

法人成りにより新たに労働者を雇い入れた日、または既存の従業員を法人として引き続き雇用することになった日が、保険関係の成立日の目安になります。実際の成立日の判定は個別事情によるため、所轄の労働基準監督署へ確認することをおすすめします。

保険関係成立届(様式第1号)の主な記入欄は次のとおりです(福岡労働局の記入例による)。

欄記入内容
事業主の住所又は所在地・名称法人成り後の本店所在地・法人名称を記入する。
事業の種類業種(卸売業・小売業など)を選び、事業の内容も具体的に記入する。
法人番号法人は国税庁から通知される13桁の法人番号を記入する。個人事業主の場合は13桁すべて「0」を記入する。
保険関係成立年月日法人として労働者を使用することになった日(保険関係が成立した日)を記入する。
常時使用労働者数その年度における1日平均使用労働者数(臨時・日雇いを含む)を記入する。
賃金総額の見込額保険関係が成立した日から保険年度末までの期間に使用する労働者に係る賃金総額の見込額を、1,000円未満切り捨てで記入する。

すでに労働保険の継続事業の一括の許可を受けている事業主が新たに事業を始める場合は、一括にかかる指定事業の所在地・名称も記入します。様式は所轄の労働基準監督署へ提出します。

概算保険料申告書はe-Govからの電子申請もできます。gBizIDプライムまたはgBizIDメンバーを取得していれば、電子証明書を別途添付せずに申請できます(従来の電子証明書を使う方法も引き続き利用できます)。電子申請では申告書に記載する労働保険番号・アクセスコードなどを入力し、アクセスコードを利用する場合は事業主の電子署名を省略できます。

電子納付(納付番号・確認番号・収納機関番号を使う方法)と、従来どおりの書面納付のどちらも選べます。

概算保険料は、概算保険料総額が40万円以上(労災保険・雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円以上)、または労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は、3回に分割して納付できます(延納)。各期の納付期限は、第1期(4月1日〜7月31日)が7月10日、第2期(8月1日〜11月30日)が10月31日、第3期(12月1日〜3月31日)が原則1月31日です(年度・曜日により前後することがあります)。新規に保険関係が成立した事業所は、第1期の期間・期限が異なります。

雇用保険:適用事業所設置届と資格取得届

雇用保険は、ハローワーク(公共職業安定所)への届出が必要です。

手続き提出期限提出先
雇用保険適用事業所設置届事業所設置日の翌日から起算して10日以内所轄のハローワーク
雇用保険被保険者資格取得届資格取得の事実があった日の属する月の翌月10日まで所轄のハローワーク

法人番号の記載欄があるため、法人設立登記が完了し法人番号が付与された後に届出をします。個人事業の労働保険の届出には法人番号欄はありませんが、法人としての届出では必須です。

なお、雇用保険の適用事業所番号自体は、要件を満たしハローワークから「同一の事業主」と認定を受ければ、新規取得せずに引き継げる場合があります。条件・必要書類は法人成りの雇用保険 事業所番号引き継ぎを参照してください。

また、代表取締役や業務執行権を有する取締役になる本人は、原則として雇用保険の被保険者にならず、失業給付・育児休業給付金の対象外になります。詳しくは法人成りと雇用保険の失業給付・育休給付を参照してください。健康保険・厚生年金の保険料についても、役員本人の産前産後休業と育児休業で免除の扱いが分かれます(一人社長・役員の産休と育休で社会保険料は免除されるか)。

個人事業側の手続き:保険関係の消滅と精算

以下は、個人事業のときに労働保険へ未加入で、法人として新たに保険関係を成立させる場合の精算手続きです。「個人事業のときから労働保険に加入済みの場合」で説明した名称、所在地等変更届で足りるケースでは、労働保険番号自体は消滅せず継続するため、以下の確定保険料申告書・還付請求書・適用事業所廃止届は生じません。

新規に保険関係を成立させる場合、法人として新たに加入する手続きと対で、個人事業として成立していた保険関係は、従業員が法人へ移った時点で消滅し、それまで見込みで納めていた概算保険料の精算が必要になります。「労働保険の引継ぎ」と呼ばれる実務は、実際にはこの個人事業側の精算と、法人側の新規手続きの組み合わせです。

手続き提出期限提出先
労働保険 確定保険料申告書(様式第6号)保険関係が消滅した日から50日以内所轄の労働基準監督署・都道府県労働局・日本銀行(代理店等含む)
労働保険料還付請求書(様式第8号)確定保険料申告書と同時(納付済みの概算保険料が確定額より多い場合)所轄の労働基準監督署・都道府県労働局
雇用保険適用事業所廃止届事業所を廃止した日の翌日から10日以内所轄のハローワーク

確定保険料申告書は、年度当初に見込みで申告・納付していた概算保険料を、確定保険料の額との差額で精算する手続きです。確定額が概算額より多ければ差額を同時に納付し、納付済みの概算額の方が多ければ還付請求書で戻してもらいます。個人事業側の消滅日と法人側の成立日をそろえておくと、従業員の保険が途切れる期間を作らずに済みます。

個人事業を続けながら法人も持つ場合の労働保険は、個人事業と法人を並行する場合の労働保険はどうなるか|継続事業の一括は使えないで解説しています。

設立日を例にした届出期限の日付表

期限を日付で見るために、個人事業の廃止日を2026年11月1日(日)、法人の設立日(保険関係の成立日・事業所の設置日)を2026年11月2日(月)とし、従業員は途切れなく引き続き雇用する例で並べます。日数は、初日を算入しない民法140条にしたがって数えた目安です。実際の期限は、所轄の労働基準監督署・ハローワークの案内で確認してください。

この例では、法人は設立日に事業を始めて従業員を使い始めるものとし、保険関係の成立日・事業所の設置日も設立日と同じとみなします。個人事業の廃止日は、個人事業を最後に営んだ日です。

保険関係の番号を引き継ぐ場合は、同一の事業主と認められてこの扱いになるときの例です。変更を生じた日も11月2日と仮定しており、ケースによって手続きは異なります。

手続き日付の数え方期限の例根拠
労働保険 名称、所在地等変更届変更を生じた日(11月2日)の翌日から起算して10日以内2026年11月12日(木)労働保険徴収法施行規則5条
雇用保険事業主事業所各種変更届(名称変更)同一の事業主と認められた後に提出日数の定めは東京ハローワークの資料に記載がなく、管轄で確認東京ハローワーク「同一の事業主と認められる事例」

新たに加入し、個人事業側を精算する場合は、個人事業側と法人側の両方で手続きが生じます。

側手続き日付の数え方期限の例根拠
個人事業雇用保険適用事業所廃止届廃止の日(11月1日)の翌日から起算して10日以内2026年11月11日(水)雇用保険法施行規則141条
個人事業雇用保険被保険者資格喪失届被保険者でなくなった事実のあった日の翌日から起算して10日以内事実のあった日に応じて計算(この例では省略)雇用保険法施行規則7条
個人事業労働保険 確定保険料申告書保険関係は廃止の翌日(11月2日)に消滅し、消滅した日から50日以内2026年12月22日(火)労働保険徴収法5条・19条
法人保険関係成立届成立した日(11月2日)から10日以内2026年11月12日(木)労働保険徴収法4条の2
法人概算保険料申告書成立した日(11月2日)から50日以内2026年12月22日(火)労働保険徴収法15条
法人雇用保険適用事業所設置届設置の日(11月2日)の翌日から起算して10日以内2026年11月12日(木)雇用保険法施行規則141条
法人雇用保険被保険者資格取得届事実のあった日(11月2日)の属する月の翌月10日まで2026年12月10日(木)雇用保険法施行規則6条

個人事業側の確定保険料申告書と法人側の概算保険料申告書は、この例ではどちらも2026年12月22日が期限です。個人事業の保険関係が消える日と法人の保険関係が成立する日が同じ11月2日になるためです。

条文は、労働保険徴収法が「成立した日から」、雇用保険法施行規則が「翌日から起算して」と書き分けています。どちらも初日は算入しない民法140条の数え方にそろえて計算しました。個人事業の廃止日、法人の設立日、保険関係の成立日や事業所の設置日がこの例と違えば、期限もそれに合わせて変わります。

従業員の雇用契約の扱い

労働保険の手続きとは別に、従業員との雇用契約も個人事業主から法人へ結び直すのが基本です。個人事業主との雇用契約は、法人の設立によって自動的に法人へ引き継がれるわけではありません。実務では、法人設立のタイミングで従業員へ説明し、新たな雇用契約書を取り交わすことが多く、給与・労働条件を実質的に変えない場合でも、退職金の算定に使う勤続年数の通算など、個別に確認しておきたい論点があります。

従業員へ事業そのものを引き継ぐ場合の雇用契約・雇用保険・社会保険の手順は、従業員へ事業を引き継ぐときの労務の引継ぎ手順でチェックリストにまとめられています。

結び直しにあたっては、労働基準法第15条第1項により、使用者は労働契約の締結に際して労働者に賃金・労働時間その他の労働条件を明示する必要があります。賃金・労働時間など厚生労働省令で定める事項は、原則として書面(労働条件通知書等)で交付する必要があり、労働者が希望した場合はFAX・電子メール等の方法によることもできます(労働基準法施行規則第5条第4項)。書面で出す項目と2024年4月の追加分は労働条件通知書の明示事項一覧にまとめています。

法人成りの場合に限定して労働条件通知書の再交付義務を案内する厚生労働省・労働局の公式ページは確認できておらず、実際の要否は所轄の労働基準監督署に確認してください。

年次有給休暇の付与日数を決める継続勤務年数の扱いは法人成り後の有給休暇の継続勤務年数の通算で整理しています。新規に保険関係を成立させる場合は、雇用契約を結び直すのと同じ考え方で、雇用保険・社会保険の被保険者としての資格も個人事業側でいったん外れ、法人側で新たに得る扱いになります。雇用保険は、被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内に個人事業側で資格喪失届の提出が必要です(前掲の雇用保険の届出一覧を参照)。

「個人事業のときから労働保険に加入済みの場合」の名称、所在地等変更届で足りるケースでは、資格喪失届・資格取得届を個々の従業員について出し直すのではなく、東京ハローワークの案内にある「同一の事業主と認められれば転勤の手続きで済む」という扱いに近い形になると考えられます。ただし必要書類はハローワークにより案内が異なり(大阪労働局は履歴事項全部証明書のみ、東京ハローワークは雇用保険被保険者名簿・従業員承継の覚書等も求める)、詳しくは法人成りの雇用保険 事業所番号引き継ぎで整理しています。管轄のハローワークに事前確認することをおすすめします。

東京ハローワークの資料「同一の事業主と認められる事例」は、④個人事業主の法人設立を事例に挙げ、提出先を法人の事業所を管轄するハローワークとして、次の4点を示しています。新旧事業実態証明書は、ハローワークでお渡ししている様式です(同ハローワークの「適用事業所に関するQ&A」Q8)。

  • 新旧事業実態証明書
  • 登記簿謄本(法人)
  • 雇用保険被保険者名簿
  • 従業員承継の覚書

同一の事業主と認められた後は、「雇用保険事業主事業所各種変更届」(名称変更)を提出します。他のハローワークでは案内が異なる場合があるため、管轄に問い合わせてください。

社会保険(健康保険・厚生年金)についても、個人事業側の事業所の手続きと従業員本人の資格喪失の手続きが必要になります。詳しい届出名と期限は法人成りの社会保険 全喪届・新規適用届を参照してください。

同居の親族を雇う場合の労働保険上の扱い

配偶者や親などの同居の親族を雇う場合は、労災保険・雇用保険とも扱いが異なります。事業主と同居の親族は、労災保険・雇用保険とも原則として対象になりません(厚生労働省労働局の公式案内)。私生活面での相互協力関係とみなされ、通常の労働契約とは区別されるためです。

ただし、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業で、次の3条件をすべて満たす場合は、労災保険・雇用保険いずれも対象になります。

  • 業務を行うにつき事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
  • 就労の実態が他の労働者と同様で、始業・終業の時刻や賃金の決定・計算・支払方法等が就業規則等により他の労働者と同様に管理されていること
  • 事業主と利益を一にする地位(役員等)にないこと

雇用保険は、これらを満たすことを公共職業安定所(ハローワーク)へ「同居の親族雇用実態証明書」等の書類で確認してもらう必要があります。

この(3)の「事業主と利益を一にする地位(役員等)にないこと」は、労働保険上の被保険者資格の判定基準であり、マイクロ法人の配偶者・家族のみなし役員の判定で解説している税務上の「みなし役員」の判定(持株割合・経営への関与)とは別の基準です。両者は連動しないため、それぞれ別に確認してください。

雇用保険については、法人の代表者と同居している親族の扱いは通常の判断と異なりませんが、形式的には法人であっても、実質的に代表者の個人事業と同様と認められる場合(税金対策のためだけの法人化、株式・出資の大部分を代表者や親族のみで保有し取締役会・株主総会がほとんど開催されていない場合など)は、個人事業主と同居の親族の場合と同様、原則として被保険者としないとされています(厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」)。マイクロ法人ではこちらの扱いに該当する可能性があるため、個別の要否はハローワークに確認してください。

外国人従業員がいる場合:出入国在留管理庁への届出

「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」など就労系の在留資格で働く外国人従業員を雇用している場合、労働保険とは別に、出入国在留管理庁への届出も確認が必要です。出入国在留管理庁「所属(契約)機関に関する届出」の対象者は、高度専門職1号イ・ロ、高度専門職2号(イ・ロ)、研究、技術・人文知識・国際業務、介護、興行(契約機関との契約に基づいて活動する場合に限る)、技能、特定技能の各在留資格です。

同庁の案内では、契約機関(会社など)が名称や所在地を変更した場合、消滅した場合、契約機関との契約が終了した場合、新たな契約を締結した場合は、14日以内に出入国在留管理庁長官へ届け出る必要があるとされています。届出はインターネット・郵送・地方出入国在留管理官署の窓口のいずれかで行えます。

要確認:個人事業から法人へ法人成りした場合に、契約機関(雇用先)の名称・法人格が変わることが、この「契約機関の変更」に該当し届出対象となるかどうかを名指しで案内する出入国在留管理庁の公式ページは、本記事の執筆時点で確認できませんでした。労働保険・雇用保険では事業主が個人から法人という別の人格に変わる点を理由に法人としての新規手続きが必要になりますが、出入国在留管理庁の届出についても同様に扱われるかは断定できません。対象となる在留資格で働く外国人従業員がいる場合は、法人成りの前に、最寄りの地方出入国在留管理官署または行政書士(申請取次)へ確認することをおすすめします。

労働者名簿・賃金台帳の引き継ぎと保存義務

労働基準法は、労働者名簿(107条)と賃金台帳(108条)について、それぞれ「使用者は、各事業場ごとに」調製しなければならないと定めています。法人成りで事業場の使用者が個人から法人という別の人格に変わるため、労働保険の手続きと同じ考え方で、法人としても労働者名簿・賃金台帳を新たに調製するのが基本です。個人事業時代の名簿・台帳をそのまま法人の名簿・台帳として使い続けられるわけではありません。

保存義務についても確認が必要です。労働基準法109条は、労働者名簿・賃金台帳及び雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならないと定めていますが、附則143条により、当分の間はこの「五年間」を「三年間」と読み替える経過措置が置かれています。そのため、現行の実際の保存期間は3年間です。

個人事業側の書類も保存が必要:法人として新しい名簿・台帳を作成しても、個人事業時代に作成した労働者名簿・賃金台帳等は、保存義務期間(3年間)が満了するまで、廃棄せず保存しておく必要があります。保存期間の起算点(退職日・最後の賃金支払日など、書類の種類ごとの扱い)や、法人設立後の名簿・台帳への記載の実務的な引き継ぎ方法(生年月日・履歴等の再記入の要否)についての明文の行政解釈は、本記事の執筆時点で確認できていません。

従業員の給与を前の事業年度より増やしたときに法人税から控除できる制度は、中小企業向け賃上げ促進税制で扱っています。

まとめ

  • 法人成りで事業主が個人から法人に変わるため、労働保険(労災・雇用保険)は原則として法人として新たに手続きが必要。
  • 個人事業のときから労働保険に加入済みで、法人成り後も雇用実態が変わらない場合は、新規成立でなく「名称、所在地等変更届」(10日以内)で足りる場合がある。代表者交代を伴う場合は別の手続きが必要。
  • 労災保険:保険関係成立届は成立日から10日以内、概算保険料申告書は50日以内に労働基準監督署へ。概算保険料申告書はe-Gov電子申請でも提出でき、gBizIDがあれば電子証明書は不要。
  • 概算保険料が40万円以上(労災か雇用保険のみ成立なら20万円以上)等の場合、3回に分割納付できる(延納。第1期7/10・第2期10/31・第3期1/31が原則の期限)。
  • 雇用保険:適用事業所設置届は設置日の翌日から10日以内にハローワークへ。
  • 個人事業側(新規に保険関係を成立させる場合):保険関係の消滅から50日以内に確定保険料申告書で概算保険料を精算し、雇用保険は廃止日の翌日から10日以内に適用事業所廃止届をハローワークへ。名称等変更届で足りる場合は保険関係自体が消滅しないため、この精算・廃止手続きは生じない。
  • 従業員との雇用契約も、法人との間で結び直すのが実務の基本。結び直しに伴い、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示(賃金・労働時間等は原則書面)も必要になる。
  • 同居の親族は労災保険・雇用保険とも原則対象外だが、指揮命令・就労実態・利益を一にする地位でないことの3条件を満たせば対象になる。この基準は税務上の「みなし役員」判定とは別物。
  • 技術・人文知識・国際業務、特定技能などの在留資格で働く外国人従業員がいる場合、契約機関の名称・所在地変更等は14日以内に出入国在留管理庁への届出が必要。法人成りがこれに該当するかは公式に明記されておらず要確認。
  • 労働者名簿・賃金台帳も、事業場ごとの使用者が変わるため法人として新たに調製するのが基本。個人事業時代の書類は保存義務期間(経過措置により現行3年間)中は保存が必要。

健康保険・厚生年金の新規適用手続きは法人化の手続きを、個人事業所側の「全喪届」の書き方(全喪年月日の記入方法・添付書類)は法人成りの社会保険 全喪届・新規適用届を、廃業時の届出は個人事業の廃業を参照してください。

加入後は毎年6月〜7月に労働保険の年度更新が必要になります。従業員の住民税は法人が天引きして納める特別徴収義務者になる点も別途確認してください(住民税の特別徴収義務者)。

時間外・休日労働をさせる場合の36協定、常時10人以上の場合の就業規則についても、法人としてあらためて手続きが必要になります(法人成りの36協定・就業規則)。従業員の給与から実際にいくら源泉徴収するかは源泉徴収税額表(月額表)の見方を、通勤手当の非課税限度額は法人成りで通勤手当を非課税にする距離区分を参照してください。従業員を雇うときの健康診断は従業員の健康診断の実施義務、就業規則に書く項目は就業規則の必要記載事項と作成・届出の手順で整理しています。

有期契約の従業員がいる場合、無期転換ルールの通算契約期間が法人成りでどう扱われるかは法人成りと無期転換ルールで解説しています。

ここでの労災保険は従業員向けで、代表者・役員自身は原則対象外です。代表者の労災保険については法人成りと労災保険(中小事業主等の特別加入)を参照してください。労災保険率を増減させる「メリット制」の実績が法人成りでどう扱われるかは法人成り後の労災保険のメリット制の引継ぎで整理しています。

e-Gov電子申請を法人名義で始める前に、法人成り時のGビズIDプライムの新規取得も確認してください。個人事業主のアカウントを法人用へ変更するのではなく、法人代表者として新しいプライムを取得し、必要に応じて従業員用のメンバーを作成します。

名簿・台帳の記載事項と保存期間は労働者名簿・賃金台帳・出勤簿で整理しています。

公式一次情報

  • 兵庫労働局「労働者を雇い入れたとき」(保険関係成立届は成立日から10日以内、概算保険料申告書は50日以内に所轄の労働基準監督署等へ提出すること。雇用保険適用事業所設置届は事業所設置日の翌日から起算して10日以内にハローワークへ提出すること)
  • 福岡労働局「保険関係成立届(様式第1号)記入例」(事業主の住所又は所在地・名称、事業の種類、法人番号〈個人事業主は13桁すべて0〉、保険関係成立年月日、常時使用労働者数〈1日平均使用労働者数〉、賃金総額の見込額〈1,000円未満切り捨て〉の各欄の記入方法を掲載)
  • e-Gov法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則第5条(変更事項の届出)」(事業主の氏名又は名称・住所又は所在地等に変更を生じた日の翌日から起算して10日以内に、所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長へ届書を提出しなければならないことを規定。2026-09-15確認)
  • 大阪労働局「雇用保険適用事業所及び事業主の変更手続きについて」(個人事業を営む場合であって法人成りする場合の必要書類〈履歴事項全部証明書〉、法人成りと同時に代表者が交代する場合の別の取扱い〈被保険者承継理由書等〉を掲載。2026-09-15確認)
  • 熊本労働局「労働保険対象者の範囲」(事業主と同居の親族は労災保険・雇用保険とも原則対象外であること、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業で3条件〈指揮命令に従う・就労実態が他の労働者と同様・事業主と利益を一にする地位にない〉を満たせば対象になることを掲載。2026-09-15確認)
  • 厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」(適用関係、20351「リ 同居の親族」)(法人の代表者と同居の親族について、実質的に代表者の個人事業と同様と認められる場合〈税金対策目的の法人化、株式・出資の大部分を代表者や親族のみで保有し取締役会等がほとんど開催されていない等〉は、個人事業主と同居の親族の場合と同様に原則被保険者としないことを規定。2026-09-15確認)
  • 福島労働局「労働保険とは、加入の手続き、年度更新、労働保険料の延納」(概算保険料総額が40万円以上〈労災保険・雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立の場合は20万円以上〉、または労働保険事務組合委託の場合は3回に分割納付できること、各期の納付期限〈第1期7月10日・第2期10月31日・第3期1月31日〉を掲載。2026-09-15確認)
  • e-Gov電子申請「労働保険適用徴収手続」(gBizIDプライム・メンバーがあれば電子証明書の添付なしで申請できること、労働保険番号・アクセスコードが必要なこと、電子納付ができることを掲載。2026-09-15確認)
  • 厚生労働省「雇用保険の各種手続きの一覧」(雇用保険適用事業所設置届は保険関係が成立した日の翌日から10日以内にハローワークへ提出すること。事業を廃止したときの雇用保険適用事業所廃止届は、廃止した日の翌日から10日以内に提出することを全国向けに案内)
  • 兵庫労働局「事業(労働者の雇用)を終了したとき」(事業を廃止した場合は保険関係が消滅するため、確定保険料申告書(様式第6号)を保険関係が消滅してから50日以内に所轄の労働基準監督署等へ提出して概算保険料を精算すること。納付済みの概算保険料が確定保険料より多い場合は労働保険料還付請求書(様式第8号)を同時に提出すること)
  • e-Gov法令検索「労働基準法」(第15条第1項:使用者は労働契約の締結に際し労働者に賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、賃金及び労働時間に関する事項その他厚生労働省令で定める事項は厚生労働省令で定める方法により明示しなければならないことを規定。第107条:使用者は各事業場ごとに労働者名簿を調製すること、第108条:使用者は各事業場ごとに賃金台帳を調製すること、第109条:労働者名簿・賃金台帳等の重要書類を五年間保存しなければならないこと、附則143条:第109条の「五年間」は当分の間「三年間」と読み替える経過措置を掲載。2026-09-12第15条を追記確認)
  • e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」(第5条第4項:労働基準法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は書面の交付とし、労働者が希望した場合はFAX・電子メール等の方法によることもできることを規定。2026-09-12確認)
  • 埼玉労働局「事業主の皆様へ~労働条件通知書を交付しましょう!~」(労働者を採用する場合は書面による労働条件の明示(労働基準法第15条)が必要で、原則書面交付、労働者が希望した場合はFAX・メール・SNS等でも明示できることを案内。2026-09-12確認)
  • 出入国在留管理庁「所属(契約)機関に関する届出」(対象は高度専門職1号イ・ロ、高度専門職2号(イ・ロ)、研究、技術・人文知識・国際業務、介護、興行〈契約機関との契約に基づいて活動する場合に限る〉、技能、特定技能の各在留資格。契約機関の名称・所在地変更、消滅、契約終了、新たな契約締結のいずれかがあった場合、14日以内に出入国在留管理庁長官への届出が必要であることを規定。個人事業から法人への法人成りが「契約機関の変更」に該当するかは本ページに明記なし。2026-09-15確認)
  • e-Gov法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(4条の2:保険関係が成立した日から10日以内の届出、5条:廃止・終了の翌日に保険関係が消滅、15条:成立した日から50日以内の概算保険料の申告・納付、19条:消滅した日から50日以内の確定保険料の申告。2026-10-03確認)
  • e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」(141条:事業所の設置・廃止の日の翌日から起算して10日以内の届出、6条:資格取得は事実のあった日の属する月の翌月10日まで、7条:資格喪失は被保険者でなくなった事実のあった日の翌日から起算して10日以内。2026-10-03確認)
  • e-Gov法令検索「民法」(140条:日、週、月又は年で期間を定めたときは初日を算入しない。2026-10-03確認)
  • 東京ハローワーク「同一の事業主と認められる事例」(④個人事業主の法人設立:提出書類は新旧事業実態証明書・登記簿謄本(法人)・雇用保険被保険者名簿・従業員承継の覚書、認定後は雇用保険事業主事業所各種変更届(名称変更)を提出。2026-10-03確認)
  • 東京ハローワーク「適用事業所に関するQ&A」(Q8:同一性の有無はハローワークで確認し、新旧事業実態証明書と譲渡契約書などの確認資料の提出を求めること。2026-10-03確認)

よくある質問

個人事業のときの労働保険は法人にそのまま引き継がれますか?
引き継がれません。事業主が個人から法人という別の人格に変わるため、法人として新たに労働保険の手続きをするのが基本です。従業員がいない(役員のみの)法人は、労働保険の加入義務自体が生じません。
個人事業のときから労働保険に加入していた場合も、新規に成立させ直しますか?
雇用実態が変わらなければ、新規成立ではなく既存の労働保険番号のまま「名称、所在地等変更届」(変更を生じた日の翌日から10日以内)で足りる場合があります。ただし法人成りと同時に代表者が交代する場合は、この届出だけでは扱えず、被保険者承継理由書等の別の書類が必要になります。どちらの扱いになるかは所轄の労働基準監督署・ハローワークに確認してください。
名称変更届で足りる場合、従業員の資格喪失届・資格取得届も必要ですか?
個々の従業員について資格喪失届・資格取得届を出し直すのではなく、東京ハローワークの案内にある「同一の事業主と認められれば転勤の手続きで済む」扱いに近い形になると考えられます。ただし必要書類はハローワークにより案内が異なるため、法人成りの雇用保険 事業所番号引き継ぎもあわせて確認し、管轄のハローワークに事前確認してください。
労災保険の手続きの期限はいつまでですか?
保険関係成立届は、保険関係が成立した日から10日以内に所轄の労働基準監督署へ提出します。概算保険料申告書は50日以内です。
概算保険料は分割で払えますか?
概算保険料総額が40万円以上(労災保険・雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円以上)、または労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は、3回に分割して納付できます(延納)。各期の納付期限は第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が原則1月31日です(年度・曜日により前後することがあります)。
概算保険料申告書はe-Govで電子申請できますか?
できます。gBizIDプライムまたはgBizIDメンバーを取得していれば、電子証明書を別途添付せずに申請できます。労働保険番号・アクセスコードを入力し(アクセスコード利用時は電子署名を省略できます)、電子納付(納付番号・確認番号・収納機関番号を使う方法)と書面納付のどちらも選べます。
雇用保険の手続きの期限はいつまでですか?
雇用保険適用事業所設置届は、事業所設置日の翌日から起算して10日以内に所轄のハローワークへ提出します。
個人事業のときに納めていた労働保険料はどうなりますか?
新規に保険関係を成立させる場合は、個人事業の保険関係が消滅するため、消滅した日から50日以内に確定保険料申告書を提出して概算保険料を精算し、納付済みの概算保険料が確定額より多ければ労働保険料還付請求書で還付を受けられます。雇用保険は、廃止した日の翌日から10日以内に適用事業所廃止届をハローワークへ提出します。名称、所在地等変更届で足りる場合は保険関係が消滅しないため、この精算は生じません。
労働者名簿・賃金台帳は法人成りでどう扱いますか?
労働基準法は事業場ごとの使用者に名簿・台帳の調製義務を課しているため、事業主が個人から法人に変わる法人成りでは、法人として新たに調製するのが基本です。個人事業時代の名簿・台帳も、労働基準法109条・附則143条による保存義務期間(経過措置により現行3年間)が満了するまでは保存しておく必要があります。
雇用契約を結び直す際、労働条件通知書もあらためて交付する必要がありますか?
労働基準法第15条第1項により、使用者は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、賃金・労働時間など厚生労働省令で定める事項は原則として書面(労働条件通知書等)で交付します。法人として雇用契約を結び直す場合もこの明示義務の対象になりますが、法人成りに限定して再交付義務を案内する厚生労働省・労働局の公式ページは確認できておらず、実際の要否は所轄の労働基準監督署に確認してください。
配偶者や親を従業員として雇う場合、労働保険に加入できますか?

事業主と同居の親族は、労災保険・雇用保険とも原則として対象になりません。ただし、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業で、(1)事業主の指揮命令に従っていることが明確、(2)就労実態が他の労働者と同様で賃金もそれに応じて支払われている、(3)事業主と利益を一にする地位(役員等)にない、という3条件を満たせば対象になります。

(3)は労働保険上の基準で税務上の「みなし役員」の判定とは別ですが、マイクロ法人で法人としての実態が乏しい場合は、雇用保険では個人事業主の同居の親族と同様に扱われることがあります。

外国人従業員がいる場合、出入国在留管理庁への届出も必要ですか?

技術・人文知識・国際業務、特定技能などの在留資格で働く従業員がいる場合、出入国在留管理庁「所属(契約)機関に関する届出」の対象になります。契約機関の名称・所在地変更、消滅、契約終了、新たな契約締結があったときは14日以内の届出が必要です。

ただし、法人成りによる契約機関の法人格変更がこれに該当するかは出入国在留管理庁の公式ページに明記されておらず、最寄りの地方出入国在留管理官署へ確認することをおすすめします。

本記事について。税理士監修前の概説です。手続きの要否・期限の起算日は個別事情により異なるため、所轄の労働基準監督署・ハローワークまたは社会保険労務士にご確認ください。