法人成りの社会保険手続き|全喪届と新規適用届の期限
個人事業のときに健康保険・厚生年金保険(社会保険)の適用事業所だった場合、法人成りでは個人事業側の「全喪届」と法人側の「新規適用届」の両方が必要です。それぞれの提出期限・添付書類・全喪年月日の書き方を説明します。
日本年金機構の制度常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(サービス業の一部・農業・漁業等を除く)は、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。法人成りをすると、個人事業所という適用事業所は消滅し(全喪)、法人という新しい適用事業所が生まれます(新規適用)。この2つの届出はどちらも「事実発生から5日以内」という短い期限のため、日付をそろえて進めることが重要です。
法人化後の社会保険への加入義務・新規適用届の基本は法人化の手続きを、労災保険・雇用保険の引継ぎは法人成りの労働保険の引継ぎを参照してください。この記事では、個人事業所側の「全喪届」に絞って整理します。雇用保険の事業所番号が引き継げる場合の扱いは法人成りの雇用保険 事業所番号引き継ぎ、36協定・就業規則の再届出は法人成りと36協定・就業規則で整理しています。
法人成りの社会保険手続き:個人事業のときの状況別に必要な届出
日本年金機構の「適用事業所と被保険者」では、株式会社などの法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用事業所とされ、従業員が常時5人以上いる個人事業所は、農林漁業・サービス業などを除いて強制適用事業所とされています(2026年10月15日確認)。このため、個人事業のときの状況によって必要な届出が変わります。
| 個人事業のときの状況 | 個人事業側の届出 | 法人側の届出 |
|---|---|---|
| 常時5人以上の従業員がいて、社会保険の適用事業所だった | 適用事業所全喪届(事実発生から5日以内)と、被保険者全員分の資格喪失届 | 新規適用届と被保険者資格取得届 |
| 従業員5人未満などで任意適用の申請をして、適用事業所だった | 適用事業所だったので、全喪届が必要 | 新規適用届と被保険者資格取得届 |
| 適用事業所ではなかった(社会保険に未加入) | 全喪届は不要(提出する対象の適用事業所が存在しないため) | 新規適用届と被保険者資格取得届(事業主1人だけの法人でも対象) |
適用事業所ではなかった場合でも、法人側の手続きは省けません。全喪届と新規適用届はそれぞれ別の事業所(個人事業所と法人)の届出なので、片方だけで済むかどうかは、個人事業所が適用事業所だったかどうかで決まります。個人事業所側の全喪届の詳細は次の節から説明します。
代表者個人が国保・国民年金から外れる手続きは、法人成りの国保・国民年金の脱退手続きで別に扱っています。
個人事業所側:適用事業所全喪届
正式名称は「健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届」で、「全喪届」はその略称です。日本年金機構の公式説明では、事業を廃止(解散)する場合などに事業主が提出するとされています。提出先・期限・添付書類は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
| 提出期限 | 事実発生から5日以内 |
| 提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
| 添付書類(原則) | 解散登記の記入がある法人登記簿謄本のコピー、または雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピーのいずれか |
添付書類が用意できない場合の代わりの書類は、後の「添付書類」の節で説明します。事由ごとの区分は次のとおりです。
| 全喪の事由 | 説明 |
|---|---|
| 1.解散 | 事業を廃止または法人を解散した場合 |
| 2.休業 | 事業を休止(休業)した場合 |
| 3.合併 | 他の事業所と合併した場合 |
| 7.その他 | いずれの原因にも該当しない場合 |
| 8.一括適用 | 同一事業主の二以上の適用事業所が、一の事業所となる承認を受けた場合 |
全喪届の様式(記入方法)では、「1.解散」の説明として「事業を廃止または法人を解散した場合」と明記されています。個人事業を廃業して法人へ切り替える法人成りは、個人事業所という適用事業所からみれば「事業を廃止」する場合にあたり、この「1.解散」に該当する扱いになります。
提出期限は事実発生から5日以内で、全喪届とあわせて被保険者全員分の「被保険者資格喪失届」も提出します。
全喪年月日の書き方
全喪届の記入方法には、全喪年月日の書き方が事由ごとに定められています。「3.合併」を選んだ場合は合併した日、「8.一括適用」の場合は承認年月日を記入しますが、それ以外(法人成りで選ぶことになる「1.解散」を含む)の場合は、事実発生日の翌日を記入します。個人事業の廃業日(事実発生日)の翌日が全喪年月日になるため、法人側の資格取得日(後述)とあわせて、従業員の社会保険加入に空白期間ができないよう日程を組む必要があります。
日本年金機構が公開している記入例(記入見本)では、全喪の事由「解散」を選んだケースで、全喪年月日欄に「令和7年4月1日」のように、事実発生日の翌日にあたる具体的な日付を記入する形が示されています。実際の記入では、自社の個人事業の廃業日を確認したうえで、その翌日を全喪年月日欄に記入してください。
廃業日の置き方で変わる、個人事業所の最後の保険料の月
日本年金機構の案内では、厚生年金保険料は資格を取得した日の属する月から、資格を喪失した日(退職日の翌日)の属する月の前月分まで発生するとされています。廃業日が月末かどうかで、個人事業所として納める最後の月が1か月ずれます。日付の例を、法人側の資格取得月と並べると次のとおりです。
| 例 | 個人事業の廃業日 | 全喪年月日(翌日) | 個人事業所の最後の保険料の月 | 法人の設立日(資格取得日) | 法人の最初の保険料の月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月末に廃業 | 3月31日 | 4月1日 | 3月分 | 4月1日 | 4月分 |
| 月の途中に廃業 | 3月15日 | 3月16日 | 2月分(3月分は発生しない) | 3月16日 | 3月分 |
どちらの例も、個人事業所の最後の月の次の月から法人の保険料が始まり、保険料の空白も二重払いも生じません。月の途中に廃業した例では、従業員の資格は個人事業所から法人へ切り替わる3月16日をまたいで続き、3月分の保険料は法人側の分になります。なお、月末に廃業した場合は、日本年金機構の案内にあるとおり、給与計算の締切日によって退職時の給与から前月分と当月分の2か月分の被保険者負担分が控除されることがあります。
この表は、日本年金機構の「月の途中で入社したときや、退職したときの保険料」「退職した従業員の保険料の徴収」の考え方を、法人成りの日付に当てはめた例です。個別の取扱いは、届出先の年金事務所で確認してください。
添付書類:法人の解散登記が無い個人事業の場合
全喪届の添付書類は、原則として次のいずれかです。
| 区分 | 添付書類 |
|---|---|
| 原則 | 解散登記の記載がある法人登記簿謄本のコピー、または雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピー |
| 原則の書類を添付できない場合 | 給与支払事務所等の廃止届のコピー/合併・解散・休業等異動事項の記載がある法人税・消費税異動届のコピー/休業等の確認ができる情報誌・新聞等のコピー/その他、適用事業所に該当しなくなったことを確認できる書類 |
個人事業の廃業には「解散登記」が存在しません。従業員を雇用保険にも加入させていた場合は「雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピー」を、そうでない場合は税務署へ提出する「給与支払事務所等の廃止届」のコピーを添付する扱いになります。雇用保険の廃止届については法人成りの労働保険の引継ぎを参照してください。
全喪届の処理状況を確認する方法
個人事業所の全喪届を提出したあと、処理が完了したかどうかは、日本年金機構の「厚生年金保険・健康保険 適用事業所検索システム」で確認できます。このシステムは現存する適用事業所に加え、直近2年以内に全喪した事業所も検索対象に含まれます。
事業所情報は毎月20日頃時点のものが翌月第2営業日に更新される仕組みのため、届出直後は反映が遅れることがあります。急ぎ確認したい場合は、届出先の年金事務所へ直接問い合わせてください。
法人側:新規適用届+被保険者資格取得届
法人側は「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を、こちらも事実発生から5日以内に提出します。日本年金機構の手続概要では、この届出を提出する際は「必ず健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険70歳以上被用者該当届と同時に提出してください」とされています。
添付書類は、法人事業所の場合は提出日からさかのぼって90日以内に発行された法人(商業)登記簿謄本です(個人事業所(強制適用となる常時5人以上の場合)は事業主の世帯全員の住民票)。
代表者が個人事業主時代に国民年金基金へ加入していた場合は、厚生年金保険への加入にともなって基金の加入員資格を別途喪失します。脱退の届出や納めた掛金の扱いは法人成り後の国民年金基金の脱退手続きを参照してください。
iDeCoに加入していた場合は掛金上限が変わり、区分変更の届出が必要です。詳しくは法人成り後のiDeCo掛金上限と区分変更の届出で解説しています。法人で企業型DCを導入する場合は、一人社長の企業型DCの導入条件と掛金上限を参照してください。
従業員から資格喪失証明書を求められたとき
個人事業所を全喪すると、そこに加入していた従業員は健康保険の被保険者資格を失い、国民健康保険等へ切り替える必要が生じます。協会けんぽの案内では、この切替に使う「健康保険資格喪失証明書」は退職した会社(事業主)が発行するとされています。
会社での発行が難しい場合は、従業員本人が日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険 資格取得・資格喪失等確認請求書(通知書)」を提出することで、年金事務所から同等に使える「資格取得・資格喪失等確認通知書」の発行を受けられます。
退職する従業員の資格確認書の回収
健康保険証の廃止にともない交付されている「資格確認書」についても、退職時の扱いが日本年金機構の案内で示されています。退職により被保険者資格を喪失する従業員は、交付されていた資格確認書(本人・被扶養者分)や高齢受給者証、限度額適用認定証等を、速やかに事業主(事務担当者)へ返納しなければなりません。事業主は、回収した資格確認書等を「被保険者資格喪失届」に添付して日本年金機構へ提出し、提出を受けた日本年金機構が協会けんぽへ返納する扱いです。
退職者が資格確認書を紛失している等、回収できない場合は「健康保険 資格確認書回収不能届」を提出します。この届出は、被保険者資格喪失届や被扶養者異動届など資格確認書の添付を必要とする届書を提出する際に、資格確認書を添付できないときに必要となる書類です。
全喪届は社会保険の手続きです。労災保険・雇用保険の確定保険料の申告やハローワークへの廃止届は窓口が別になるため、会社をたたむときの労働保険の手続きで確認してください。会社を解散して全喪届を出す場合の退職後の切替先は、会社をたたむときの社会保険の手続きにまとめています。
パート・アルバイトを雇うときの加入基準(2026年10月の賃金要件撤廃と従業員数要件の段階的な撤廃)は、パート・アルバイトの社会保険加入基準で整理しています。
従業員を雇った後の試用期間中の加入の扱いは試用期間中の社会保険・雇用保険・解雇予告の記事で確認できます。
従業員が他の会社へ出向している場合の保険の入り先は、出向者の社会保険・労働保険で整理しています。
まとめ
- 法人成りでは、個人事業所側の「適用事業所全喪届」と、法人側の「新規適用届」+「被保険者資格取得届」の両方が必要。いずれも事実発生から5日以内。
- 全喪の事由は「1.解散(事業を廃止または法人を解散した場合)」に該当し、全喪年月日は事実発生日(廃業日)の翌日を記入する。
- 添付書類は、個人事業の廃業では法人の解散登記が無いため、雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピー、または給与支払事務所等の廃止届のコピーで代える。
- 新規適用届は法人(商業)登記簿謄本(90日以内発行)を添付し、被保険者資格取得届と同時に提出する。
従業員がすでに国民健康保険組合(国保組合)に加入している場合の扱いは、この全喪届の枠組みとは別の手続きです。詳しくは法人成りしても国保組合に残れるか|健康保険被保険者適用除外承認申請書を参照してください。
公式一次情報
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」(法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用、常時5人以上の個人事業所は農林漁業・サービス業などを除き強制適用、それ以外は任意適用の認可で適用事業所になれることを案内。2026-10-15確認)
- 日本年金機構「適用事業所が廃止等により適用事業所に該当しなくなったときの手続き」(全喪届の対象事由5類型、提出期限は事実発生から5日以内、添付書類の原則を案内。2026-09-04確認)
- 日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届」(様式・記入方法)(全喪の事由「1.解散」=「事業を廃止または法人を解散した場合」、全喪年月日は「3.合併」「8.一括適用」以外は事実発生日の翌日を記入すること、添付書類の詳細を案内。2026-09-04確認)
- 日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」(手続概要)(提出期限は事実発生から5日以内、被保険者資格取得届と同時提出、法人事業所は法人(商業)登記簿謄本(90日以内発行)を添付、常時5人以上の個人事業所は強制適用事業所となることを案内。2026-09-04確認)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)沖縄支部「退職後に市町村の国民健康保険に加入する場合の取扱い」(健康保険資格喪失証明書は退職した会社が発行することを案内。2026-09-15確認)
- 日本年金機構「厚生年金保険・健康保険適用事業所情報を検索できます」(適用事業所検索システム)(現存する適用事業所および直近2年以内に全喪した事業所を検索できること、事業所情報は毎月20日頃時点のものが翌月第2営業日に更新されることを案内。2026-09-24確認)
- 日本年金機構「国民健康保険等に加入するため、健康保険の資格喪失証明等が必要になったとき」(本人が年金事務所へ資格取得・資格喪失等確認請求書を提出することで確認通知書の発行を受けられることを案内。2026-09-10確認)
- 日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届(記入例)」(全喪の事由「解散」を選んだ場合の全喪年月日欄の記入例として「令和7年4月1日」を案内。2026-09-26確認)
- 日本年金機構「月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。」(退職日の翌日が資格喪失日で保険料は喪失月の前月分まで、月末退職は退職月分まで納めること)
- 日本年金機構「退職した従業員の保険料の徴収」(保険料は取得月から喪失日の属する月の前月まで発生すること)
- 日本年金機構「資格確認書等の返納手続き」(退職により被保険者資格を喪失する従業員が資格確認書等を事業主へ返納すること、事業主が被保険者資格喪失届に添付して日本年金機構へ提出することを案内。2026-09-26確認)
- 日本年金機構「7-1:資格確認書の添付を必要とする届書提出時に添付ができないとき」(資格確認書を添付できない場合に「健康保険 資格確認書回収不能届」の提出が必要になることを案内。2026-09-26確認)
よくある質問
- 法人成りのとき、社会保険の手続きは何が必要ですか?
- 個人事業所が社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用事業所だった場合、個人事業所側で「適用事業所全喪届」(事実発生から5日以内)、法人側で「新規適用届」と「被保険者資格取得届」(こちらも事実発生から5日以内)が必要です。
- 全喪届の「全喪年月日」はいつを書けばいいですか?
- 日本年金機構の様式の記入方法では、全喪の事由が合併・一括適用以外の場合(法人成りで選ぶ「1.解散」を含む)、事実発生日(個人事業の廃業日)の翌日を記入するとされています。
- 個人事業の廃業には解散登記がありませんが、全喪届の添付書類はどうすればいいですか?
- 原則の添付書類(解散登記の記載がある法人登記簿謄本のコピー、または雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピー)のうち、雇用保険適用事業所だった場合は後者のコピーが使えます。雇用保険に未加入だった場合など、いずれも添付できない場合は、税務署へ提出する「給与支払事務所等の廃止届」のコピーなどで代えます。
- 個人事業所はすべて社会保険の適用事業所になりますか?
- いいえ。常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(サービス業の一部・農業・漁業等を除く)が強制適用事業所です。5人未満の場合や対象業種の場合は、任意適用の申請をしていなければ社会保険に加入していないこともあり、要件・手続きは個人事業所の社会保険の任意適用を参照してください。
- 退職する従業員から健康保険資格喪失証明書を求められたら、どう対応すればいいですか?
- 協会けんぽの案内では、健康保険資格喪失証明書は退職した会社が発行するとされています。会社での発行が難しい場合は、従業員本人が日本年金機構に「資格取得・資格喪失等確認請求書(通知書)」を提出することで、年金事務所から同等に使える通知書の発行を受けられます。
- 全喪届を提出したあと、処理されたかどうかはどこで確認できますか?
- 日本年金機構の「厚生年金保険・健康保険 適用事業所検索システム」で確認できます。このシステムは現存する適用事業所に加え、直近2年以内に全喪した事業所も検索対象に含まれます。事業所情報は毎月20日頃時点のものが翌月第2営業日に更新されるため、届出直後は反映が遅れることがあります。
税・社会保険の負担を確かめたら、個人と法人の手取りを比べる(利益額の目安から):300万円・600万円・1,000万円(入力済みの状態で計算機が開きます。業種・年齢などの未確認項目は計算機で選びます)
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