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法人成りで労災保険のメリット制は引き継げるか|適用要件と実績の扱いを整理

労災保険率を最大±40〜45%増減させる「メリット制」が、法人成り後の会社にどう扱われるかを、適用要件から整理します。

厚生労働省の制度
編集:法人成りシミュレーション編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

労災保険には、事業場ごとの労働災害の多寡に応じて労災保険率(保険料)を増減させる「メリット制」があります。従業員を雇って何年も無災害で営業してきた個人事業が法人成りする場合、この割引の実績はどうなるのか気になるところですが、法人成りでは労働保険の保険関係が原則として法人として新たに成立するため、メリット制の適用要件である「経過年数」の扱いは個別に確認が必要な論点です。

この記事では、メリット制そのものの適用要件と増減幅を厚生労働省の資料にもとづき整理したうえで、法人成り時にこの経過年数がどう扱われるかについて、この記事の執筆時点で確認できた範囲と、確認できなかった範囲を明確に分けて示します。

メリット制とは:労災保険率を増減させる仕組み

労災保険率は業種ごとに定められていますが、同じ業種でも、作業工程・機械設備・作業環境や事業主の災害防止努力の違いにより、個々の事業場の災害率には差が生じます。そこで、事業主の保険料負担の公平性の確保と労働災害防止努力の促進を目的として、その事業場の労働災害の多寡(保険給付の額と保険料の比率=メリット収支率)に応じて、一定の範囲内で労災保険率または労災保険料額を増減させる制度がメリット制です。

この記事では、事業期間が予定されていない一般の工場・商店・事務所などが対象になる「継続事業」のメリット制を中心に扱います。建設工事など、あらかじめ終了時期が決まっている「有期事業」は仕組みが異なるため対象外とします。

継続事業のメリット制の適用要件

継続事業でメリット制の適用を受けるには、「事業の継続性」と「事業の規模」の要件を同時に満たす必要があります。

要件内容
事業の継続性メリット制が適用される保険年度の前々保険年度に属する3月31日(基準日)の時点で、労災保険の保険関係が成立してから3年以上経過していること
事業の規模(A・Bいずれか)A:基準日の属する保険年度の前々保険年度から遡って連続する3保険年度の各年度において、100人以上の労働者を使用した事業であること
B:20人以上100人未満の労働者を使用した事業であって、災害度係数(労働者数×〈業種ごとの労災保険率-非業務災害率0.6/1000〉)が0.4以上であること

要件を満たすと、企業からの申請ではなく自動的にメリット制が適用され、連続する3保険年度の最後の年度の翌々保険年度の労災保険率が増減します。増減幅はメリット収支率の区分に応じて決まり、収支率10%以下で40%減、150%を超えると40%増と、基本は±40%の範囲です(立木の伐採の事業は最大±35%)。

中小企業事業主向けの特例メリット制

継続事業(建設の事業・立木の伐採の事業を除く)のうち、所定の安全衛生措置を講じた中小企業事業主には、通常のメリット制よりも増減率が広い「特例メリット制」(最大±45%)が用意されています。中小企業事業主の要件は、業種によって次のとおり企業全体の常時使用労働者数で区分されます。

主たる事業の種類企業全体の常時使用する労働者数
金融業、保険業、不動産業、小売業、飲食店50人以下
卸売業、サービス業100人以下
上記以外の事業300人以下

安全衛生措置(機械設置等の計画届の免除の認定を受けた事業主が講じる労働安全衛生マネジメントシステムの実施など)を講じ、都道府県労働局長の確認を受けたうえで、措置を講じた保険年度の翌保険年度の初日から6か月以内に適用を申告すると、措置を講じた保険年度の翌々保険年度から3年間、特例メリット制による増減が適用されます。手続きの詳細は最寄りの都道府県労働局への確認が必要です。

法人成りで労災保険の保険関係はどうなるか

労働保険は事業主(雇い主)ごとに保険関係が成立する仕組みのため、法人成りで事業主が個人から法人という別の人格に変わると、個人事業時代の労働保険の関係はそのまま引き継がれず、法人として新たに保険関係を成立させる手続きが基本になります。労災保険の保険関係成立届は、保険関係が成立した日から10日以内に所轄の労働基準監督署への提出が必要です。手続きの詳しい期限・様式は法人成りの労働保険の引継ぎを参照してください。

なお、雇用保険(ハローワーク管轄)については、東京・愛知・北海道の各ハローワークが公表する資料に「個人事業主の法人設立」が「同一の事業主」と認められる事例として明記されており、要件を満たせば適用事業所番号を新規取得せず、名称変更の届出だけで引き継げる扱いがあります。詳しくは法人成りで雇用保険の事業所番号は変わる?で解説しています。

メリット制の実績(経過年数)は引き継げるか

要確認:労災保険(労働基準監督署が管轄)について、法人成りの際に雇用保険と同様の「同一の事業主」認定によって、メリット制の基準日算定に使う保険関係の経過年数を引き継げる制度があるかどうかは、この記事の執筆時点で厚生労働省・労働局の公式資料を確認した範囲では見つかりませんでした。雇用保険側にこの制度が明文で存在することは前章のとおり確認できていますが、労災保険側で同様の明文の制度を確認できたわけではありません。

前章のとおり、労災保険の保険関係は法人成りにより原則として新たに成立します。保険関係が新規に成立する場合、メリット制の要件である「基準日時点で保険関係成立から3年以上経過」の起算点も、新しく成立した保険関係の成立日から数えることになると考えられますが、個人事業時代の経過年数をそのまま引き継げる例外があるかどうかは、断定できる一次資料を確認できていません。

すでにメリット制の適用を受けていた個人事業が法人成りを予定している場合や、法人成り後に新たに要件を満たす見込みがある場合は、実際の取扱いを所轄の労働基準監督署に事前に確認することをおすすめします。

まとめ

  • メリット制は、事業場の労働災害の多寡(保険給付と保険料の比率)に応じて労災保険率を増減させる制度。継続事業では基本±40%の範囲で増減する。
  • 継続事業の適用要件は、①基準日時点で保険関係成立から3年以上経過、②基準日の前々年度から遡る3保険年度で100人以上、または20人以上100人未満かつ災害度係数0.4以上、の両方を満たすこと。
  • 所定の安全衛生措置を講じた中小企業事業主には、増減率が最大±45%になる特例メリット制もある。
  • 法人成りでは労働保険の保険関係が原則として法人として新たに成立するため、メリット制の経過年数の扱いは個別に労働基準監督署へ確認するのが確実。雇用保険の適用事業所番号のような「同一の事業主」認定制度が労災保険側にもあるかは、この記事の執筆時点で確認できていない。

労働保険の新規手続き全体の期限は法人成りの労働保険の引継ぎを、雇用保険の適用事業所番号の扱いは法人成りで雇用保険の事業所番号は変わる?を、代表者・役員自身の労災保険(特別加入)は法人成りと労災保険(中小事業主等の特別加入)を参照してください。

公式一次情報

よくある質問

メリット制の適用要件は何ですか?
継続事業では、①基準日(適用年度の前々保険年度の3月31日)時点で保険関係成立から3年以上経過していること、②基準日の前々年度から遡る連続3保険年度の各年度で100人以上の労働者を使用、または20人以上100人未満かつ災害度係数0.4以上、の両方を満たす必要があります(出典:厚生労働省)。
メリット制でどのくらい保険料が変わりますか?
継続事業では基本±40%の範囲で労災保険率が増減します。所定の安全衛生措置を講じた中小企業事業主向けの特例メリット制では、最大±45%まで増減率が広がります(出典:厚生労働省、福井労働局)。
法人成りすると労災保険のメリット制の実績はリセットされますか?
労災保険の保険関係は法人成りにより原則として法人として新たに成立するため、メリット制の基準日の起算点も新しい保険関係の成立日から数えることになると考えられます。ただし、個人事業時代の経過年数を引き継げる例外の有無を断定できる一次資料は、この記事の執筆時点で確認できていません。所轄の労働基準監督署へ事前に確認することをおすすめします。
雇用保険にはメリット制のような制度がありますか?
雇用保険には労災保険のメリット制に相当する制度はありませんが、法人成り時に適用事業所番号を引き継げるかどうかについては、東京・愛知・北海道の各ハローワークが「個人事業主の法人設立」を「同一の事業主」と認める事例として明記しています。詳しくは法人成りで雇用保険の事業所番号は変わる?を参照してください。
本記事について。税理士・社会保険労務士監修前の概説です。メリット制の適用の有無や法人成り時の経過年数の扱いは個別事情により異なるため、所轄の労働基準監督署にご確認ください。