法人成りすると労災保険はどうなる?代表者は原則対象外→中小事業主等の特別加入
個人事業主のときは自分自身にかかっていなかった労災保険が、法人成りするとどう変わるか整理します。代表者・役員は原則対象外で、任意加入できる「中小事業主等の特別加入」を解説します。
中小事業主等の特別加入労災保険は、労働者の労働災害に対する保護を目的とする制度で、労働基準法上の労働者でない者は対象外です。法人の代表者や、労働者に該当しない役員は、法人成りしても労災保険の適用対象にはなりません。
それでも仕事中・通勤中のケガに備えたい場合は、「中小事業主等」として任意で加入できる特別加入制度があります。対象範囲・加入要件・保険料の決まり方を整理します。
代表者・役員が原則対象外である理由
労災保険は、労働者の労働災害に対する保護を主目的とする制度です。労働基準法上の労働者でない者は、原則として労災保険の対象外とされています。個人事業主の本人はもともと労働者ではないため対象外でしたが、法人成りして代表者(代表取締役等)になっても、労働者に雇われる立場ではないため、通常の労災保険の適用は受けられません(出典:厚生労働省)。
代表者以外の役員も、実態として労働者に該当しない(業務執行権・指揮命令を受けない)場合は同じく対象外です。一方、みなし役員など、実態として労働者性が強い場合の扱いは別途判断が必要です。
中小事業主等の特別加入とは
特別加入制度は、業務の実態や災害の発生状況からみて労働者に準じて保護するにふさわしい者について、特に労災保険への加入を認める制度です(労災保険法第33条)。特別加入には4つの区分があり、法人成り後の代表者・役員が対象になり得るのは「中小事業主等」の区分です(出典:厚生労働省)。
「事業に従事する者」には、事業主が法人である場合、代表者以外の役員のうち労働者に該当しないものも含まれます。つまり、代表者本人だけでなく、労働者性のない役員も同じ枠組みで特別加入を検討できます(出典:厚生労働省)。
対象となる企業規模
中小事業主等として認められる企業規模は、業種ごとに常時使用する労働者数の上限が定められています(労災則第46条の16)。
| 業種 | 労働者数 |
|---|---|
| 金融業・保険業・不動産業・小売業 | 50人以下 |
| 卸売業・サービス業 | 100人以下 |
| 上記以外の業種 | 300人以下 |
法人成りしたばかりの小規模法人であれば、業種を問わずほとんどの場合この基準を満たします(出典:厚生労働省)。
加入の要件
中小事業主等が特別加入するには、次の2つの要件を満たす必要があります(労災保険法第33条・第34条)。
- 雇用する労働者について、労災保険の保険関係が成立していること(従業員を1人でも雇っていることが前提になります)
- 労働保険の事務処理を「労働保険事務組合」に委託していること
役員だけの法人(従業員のいないマイクロ法人)は、この1つ目の要件を満たさないため、そのままでは中小事業主等として特別加入できません。従業員を雇う場合の労働保険手続きも合わせて確認してください(出典:厚生労働省)。
保険料・給付基礎日額
中小事業主等の労災保険料率は、その事業に適用される労災保険率と同一の率です(徴収法第13条〜第14条の2)。業種によって料率は異なり、たとえば建設事業は9.5/1,000、卸売業・小売業・飲食店等は3/1,000など、労働災害のリスクに応じて設定されます(出典:厚生労働省)。
保険料の計算の基礎になる「給付基礎日額」は、3,500円〜25,000円までの16段階から希望額を選び、都道府県労働局長が決定します(労災則第46条の20等)。日額を高く設定するほど、保険料も、ケガをしたときの補償(休業給付など)も大きくなります(出典:厚生労働省)。
よくある質問
- 法人成りすると自動的に労災保険に入れますか?
入りません。労災保険は労働者を保護する制度で、法人の代表者や労働者に該当しない役員は原則対象外です。加入したい場合は「中小事業主等」として任意で特別加入する必要があります(出典:厚生労働省)。
- 役員だけのマイクロ法人でも特別加入できますか?
できません。中小事業主等の特別加入には、雇用する労働者について労災保険の保険関係が成立していることが要件の1つです。従業員を雇っていない役員だけの法人は、この要件を満たさないため対象外です(出典:厚生労働省)。
- 中小事業主等として加入できる企業規模の基準は?
業種によって異なり、金融業・保険業・不動産業・小売業は労働者50人以下、卸売業・サービス業は100人以下、それ以外の業種は300人以下です(出典:厚生労働省)。
- 保険料はいくらになりますか?
その事業に適用される労災保険率(業種ごとに異なる)と同一の率で、給付基礎日額(3,500円〜25,000円の16段階から選択)を基礎に計算されます。具体的な金額は労働保険事務組合に確認してください(出典:厚生労働省)。
まとめ
- 法人の代表者・労働者性のない役員は、法人成りしても労災保険の対象外。
- 加入したい場合は「中小事業主等」の特別加入制度を利用する。
- 対象企業規模は業種別に労働者50人・100人・300人以下の基準がある。
- 加入には、従業員の労災保険関係の成立と、労働保険事務組合への事務委託が必要。
- 保険料率は事業の労災保険率と同一、給付基礎日額は3,500〜25,000円の16段階から選択。
従業員がいる場合の労働保険の手続きは従業員がいる場合の労働保険手続き、フリーランス・個人事業主向けの労災特別加入はフリーランスの労災保険(特別加入)を参考にしてください。
公式一次情報
- 厚生労働省「特別加入制度について(参考資料)」(第78回労災保険部会資料)(特別加入の趣旨・種類・中小事業主等の対象範囲〈労働者数基準〉・加入要件・保険料率・給付基礎日額)