マイクロ法人の配偶者・家族は「みなし役員」になる?判定基準
登記上は従業員でも、株の持ち方と経営への関わり方によっては税務上「役員」として扱われることがあります。
国税庁の制度マイクロ法人で配偶者や家族に給与を払うとき、登記上は取締役でなくても、税務上は「役員」として扱われることがあります。これをみなし役員といいます。
みなし役員に該当すると、その人への給与は役員給与の扱いになり、自由に増減させると損金(経費)にできない場合があります。何を基準に判定するのかを整理します。
みなし役員とは
法人税法上、取締役等に登記されていなくても、実質的に経営に従事していると認められる人は「役員」とみなされます(法人税法施行令7条)。相談役・顧問など、法人内の地位や職務の実態から他の役員と同様に経営に関わっていると認められる人が典型例です。
マイクロ法人で特に注意が必要なのは、この後説明する「同族会社の使用人」の類型です。配偶者や家族を従業員(使用人)として給与を払っているつもりでも、持株割合と経営への関与によっては、みなし役員に該当することがあります。
同族会社の使用人がみなし役員になる3要件
同族会社(株主の上位グループで持株が偏っている会社。マイクロ法人の多くが該当)の使用人は、次の3つの持株要件をすべて満たし、かつ経営に従事している場合に、みなし役員となります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①上位株主グループ要件 | その使用人が、第1順位(上位1グループのみで50%超)、または第1・第2順位の合計、または第1〜第3順位の合計で初めて50%超となる株主グループのいずれかに属していること |
| ②所属グループ要件 | その使用人の属する株主グループの持株割合が10%を超えていること |
| ③本人・配偶者等要件 | その使用人(配偶者、および本人・配偶者の持株割合が50%を超える他の会社を含めて判定)の持株割合が5%を超えていること |
この①〜③の持株要件をすべて満たしたうえで、さらにその使用人が実際に法人の経営に従事していると認められる場合にだけ、みなし役員に該当します。持株要件を満たしていても、経営に関与していなければみなし役員にはなりません。
みなし役員に該当すると何が変わるか
みなし役員に該当すると、その人へ支払う給与は税務上「役員給与」として扱われます。役員給与を損金(経費)に算入するには、原則として毎月同額を支払う定期同額給与などの要件を満たす必要があり、使用人給与のように業績に応じて自由に増減させると、増額分などが損金に算入できなくなることがあります。定期同額給与の改定ルールは役員報酬の決め方で解説しています。
賞与:使用人であれば就業規則等にもとづく賞与を経費にできますが、みなし役員への賞与も役員給与として扱われるため、「事前確定届出給与に関する届出書」を提出していない支給は損金に算入できません。届出期限は原則として、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、その事業年度開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です(法人税法34条1項)。
退職金:適正な額の退職金は損金に算入できますが、不相当に高額な部分の金額は損金不算入になります(法人税法34条2項)。使用人退職金と異なり、金額の妥当性が問われる点に注意が必要です。支給額ごとの手取りは役員退職金シミュレーターで試算できます。
雇用保険:雇用保険の被保険者資格は、法人税法上のみなし役員に該当するかどうかとは別の基準で判定されます。代表取締役および業務執行権を有する取締役は被保険者になりません。それ以外の取締役等の役員は原則として被保険者になりませんが、部長・工場長等の従業員としての身分を併せ持ち、報酬の支払われ方や就業規則の適用状況から労働者的性格が強いと認められる場合(使用人兼務役員)は被保険者になり得ます(出典:ハローワーク)。
被保険者にならない場合、失業給付(基本手当)・育児休業給付金も受けられません。詳しくは法人成りと雇用保険の失業給付・育休給付を参照してください。
みなし役員に該当したこと自体が、直ちに雇用保険の資格を失わせるわけではありません。
社会保険:健康保険・厚生年金保険は、雇用契約書の有無にかかわらず、法人から労務の対償として報酬を受ける使用関係があれば被保険者になります(出典:日本年金機構)。みなし役員に該当してもしなくても、報酬を受けて実際に働いていれば適用対象になる点は基本的に変わりません。厚生労働省は令和8年3月18日付の通知で、法人役員の被保険者資格を①経営参画を内容とする経常的な労務提供か、②報酬がその対価として経常的に支払われているか、の2点で判断すると明確化しています。
詳しくはマイクロ法人と社会保険で解説しています。
役員の特殊関係者(親族など)の給与は、賃上げ促進税制の給与の計算に入りません。詳しくは中小企業向け賃上げ促進税制で扱っています。
まとめ
- 登記上の役員でなくても、実質的に経営に従事していると認められる人は税務上「役員」とみなされる。
- 同族会社の使用人は、3つの持株要件(上位株主グループ・所属グループ10%超・本人と配偶者等で5%超)をすべて満たし、かつ経営に従事している場合にみなし役員となる。
- みなし役員に該当すると、その人への給与は役員給与として扱われ、定期同額給与などの要件がかかる。
- 賞与は事前確定届出給与の届出をしていないと損金不算入、退職金は不相当に高額な部分が損金不算入になる(いずれも法人税法34条)。
- 雇用保険の被保険者資格は労働者性の実態で別途判定され、社会保険は報酬を受ける使用関係があれば適用される。いずれもみなし役員該当性そのもので自動的に変わるわけではない。
マイクロ法人の社会保険の仕組みは「マイクロ法人と社会保険」、会社員が副業でマイクロ法人を持つ場合の注意点は「会社員の副業マイクロ法人」を参照してください。
公式一次情報
- 国税庁「No.5200 役員の範囲」(みなし役員の定義、同族会社の使用人がみなし役員となる3要件)
- 国税庁 法人税基本通達「第1款 役員等の範囲」(相談役・顧問等が経営に従事していると認められる場合の取扱い)
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(定期同額給与・事前確定届出給与の要件、届出期限、退職給与の適正額)
- ハローワーク「雇用保険の被保険者の種類と要件」(取締役等役員は原則被保険者にならないこと、使用人兼務役員の要件)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」(雇用契約書の有無にかかわらず労務の対償として報酬を受ける使用関係があれば被保険者になること)
よくある質問
- 配偶者を従業員として給与を払っていますが、みなし役員になりますか?
- 持株割合と経営への関与の両方で判定します。配偶者を含めた本人の持株割合が5%以下であったり、法人の経営に実際に従事していなければ、みなし役員には該当しません。3つの持株要件をすべて満たし、かつ経営に従事している場合にのみ該当します(出典:国税庁)。
- みなし役員になると具体的に何が困りますか?
- 給与が役員給与として扱われるため、定期同額給与などの要件を満たさない増減額は損金に算入できなくなります。使用人給与のように、業績を見ながら自由に賞与や昇給を出す扱いができなくなる点に注意が必要です。賞与は事前確定届出給与の届出をしていないと損金に算入できず、退職金も不相当に高額な部分は損金不算入になります(出典:国税庁)。
- みなし役員になると雇用保険や社会保険には入れなくなりますか?
- 自動的に変わるわけではありません。雇用保険は労働者性の実態(従業員としての身分、報酬の支払われ方等)で別途判定され、社会保険は雇用契約の有無にかかわらず報酬を受ける使用関係があれば適用されます。みなし役員該当性(税務上の判定)と、雇用保険・社会保険の被保険者資格(労働・社会保険上の判定)は別の基準で判断される点に注意してください(出典:ハローワーク・日本年金機構)。
- みなし役員かどうかは誰が判断しますか?
- 持株割合は登記・株主名簿等の事実から機械的に判定できますが、「経営に従事しているか」は実態判断が必要です。判断に迷う場合は税理士にご相談ください。