中小企業向け賃上げ促進税制の要件と計算|給与支給額1.5%増で15%控除・役員は対象外・設立年度は適用不可
従業員の給与を前年度より増やした中小企業の法人税から、増加額の一部を引ける制度です。控除率(15%・30%)、控除の上限、役員が給与の計算に入らない点、設立事業年度は使えない点、申告書に添付する書類を、中小企業庁と国税庁の公式情報で整理します。架空条件の計算例つき。
法人化(法人成り)法人成りして従業員を雇い、給与を上げたときに、法人税から一部を引ける制度があります。中小企業向けの賃上げ促進税制です。
この記事は、控除率、控除の上限、給与の範囲、法人成り直後の会社が使えるかどうか、申告の手続きを整理します。対象は法人です。個人事業主にも同じ名前の制度はありますが、この記事は法人税の話に絞ります。
制度の概要と控除率
中小企業庁のガイドブックによると、この制度は、中小企業者等が前年度より給与等の支給額を増やしたときに、増加額の一部を法人税から控除できる制度です。対象は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度です。
控除率は、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて何%増えたかで決まります。
| 前事業年度からの増加率 | 控除率 |
|---|---|
| 1.5%以上 | 15% |
| 2.5%以上 | 30% |
控除の対象になる金額は、雇用者給与等支給額から前事業年度の額(比較雇用者給与等支給額)を引いた増加額です。この増加額に控除率をかけた額が、法人税から引けます。
上乗せの措置は、くるみん認定・くるみんプラス認定・えるぼし認定(2段階目以上)・えるぼしプラス認定(2段階目以上)の適用事業年度中の取得、またはプラチナくるみん認定などの事業年度終了時点での保有で、控除率に5%が加わります。教育訓練費を増やしたときの10%の上乗せは、令和7年度末で廃止されました。令和8年3月31日までに開始する事業年度までは使えますが、令和8年4月以降に開始する事業年度は対象外です。
国税庁のタックスアンサーNo.5927-2には、教育訓練費を含む「最大45パーセント」の記載が残っています。改正後の最新の内容は、中小企業庁のガイドブック(令和8年5月1日更新版)で確認してください。
対象になる会社
中小企業者等とは、青色申告書を提出する法人のうち、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人などです。ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外です。
資本金が1億円以下でも、資本金1億円超の大規模法人から2分の1以上の出資を受けている法人や、2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受けている法人は対象外です。
青色申告の承認を受けていることが前提です。承認申請は法人の青色申告の承認申請で扱っています。
給与の範囲(役員は入らない)
計算に使う雇用者給与等支給額は、損金に算入される、国内雇用者への給与等の支給額です。国内雇用者は、賃金台帳に記載された使用人で、パートやアルバイトも含みます。
ガイドブックは、使用人兼務役員を含む役員と、役員の特殊関係者は含まれないと明記しています。特殊関係者は、役員の6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族などです。つまり、社長の役員報酬と、社長の親族である従業員の給与は、この制度の給与に入りません。
退職金など、給与所得にならないものは、原則として給与等に当たりません。雇用調整助成金のような雇用安定助成金は、給与等から引く「補塡額」には含まれず、控除対象の増加額は、助成金を引いた調整増加額が上限になります。
役員報酬の決め方は役員報酬の決め方、親族への給与はみなし役員と家族への給与で扱っています。
計算の流れと上限・繰越し
計算は次の順に進めます。
- 適用事業年度の雇用者給与等支給額と、前事業年度の額を出す
- 増加率が1.5%以上か、2.5%以上かを判定する
- 増加額に15%または30%をかけて控除額を出す
- 控除額が、法人税額の20%を超えないか確認する
税額控除額の上限は、法人税額の20%です。次の架空の条件で計算してみます。実際の額は、個別の事情で変わります。
| 項目 | 架空の例 |
|---|---|
| 前事業年度の雇用者給与等支給額 | 600万円(従業員のみ。役員報酬は除く) |
| 適用事業年度の雇用者給与等支給額 | 630万円 |
| 増加率 | (630万円-600万円)÷600万円=5.0%(2.5%以上) |
| 控除率と控除額 | 30万円×30%=9万円 |
| 法人税額が50万円の場合の上限 | 50万円×20%=10万円 |
| 控除できる額 | 9万円(上限10万円以内) |
法人税額が30万円なら上限は6万円なので、控除できるのは6万円で、残りの3万円は未控除額になります。未控除額は5年間繰り越せます。
繰越しを受ける年は、控除を受ける金額と繰越分とあわせて、法人税額の20%が上限です。繰越しには、未控除額が出た事業年度以後の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書を添付しておく必要があります。出し忘れると、繰り越せません。
繰越控除を受ける事業年度は、雇用者給与等支給額が前事業年度より増えていることも条件です(国税庁タックスアンサーNo.5927-2)。
法人成り直後の会社で使えるか
法人成りした会社が使えるかどうかは、次の3点で決まります。
- 設立事業年度は適用できません。国税庁は、新たに設立された法人の設立の日を含む事業年度は、この制度の適用を受けられないとしています。
- 前事業年度の給与がゼロだと、要件を満たしません。国税庁は、比較雇用者給与等支給額が0の場合は、増加率の要件を満たさないものとしています。
- 社長だけの会社は、雇用者給与等支給額が0です。役員は国内雇用者に入らないため、従業員がいないと、増やす対象の給与がありません。
つまり、設立の翌事業年度から使うには、設立事業年度に従業員(役員と親族以外)への給与の支払いがあり、翌事業年度でそれを増やす、という形が必要です。設立事業年度が短い場合の月数の調整は、ガイドブックの「適用事業年度の月数と前事業年度の月数が異なる場合」に説明があります。
従業員を採用したときの手続きは法人成りと従業員の引継ぎ、賃金台帳の整備は労働者名簿と賃金台帳で扱っています。
申告の手続き
ガイドブックによると、申告より前に特段の手続きをする必要はありません。法人税の確定申告書に、次の書類を添付します。
- 控除対象雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額、その計算に関する明細書
- 適用額明細書(法人のみ)
- 未控除額を繰り越すときは、繰越税額控除限度超過額の明細書
国税庁は、確定申告書等に控除の計算明細書の添付がある場合に限り、適用されるとしています。赤字で控除額が0円でも、全額を繰り越すときは、繰越しの明細書の添付が必要です。
様式の名称や番号は改正で変わることがあるため、申告の年の国税庁の様式一覧で確認してください。決算と申告の流れは法人の決算と確定申告で扱っています。個別の判断は、税理士へ確認してください。
まとめ
- 雇用者給与等支給額が前事業年度より1.5%以上増えると増加額の15%、2.5%以上で30%を、法人税額から控除できる。
- 控除額の上限は法人税額の20%。引ききれない額は5年間繰り越せる。
- 役員とその特殊関係者の給与は、計算に入らない。
- 設立事業年度は適用できず、前事業年度の給与が0でも要件を満たさない。
- 教育訓練費の上乗せは、令和7年度末で廃止された。
- 申告前の届出は不要で、確定申告書に明細書を添付する。
よくある質問
- 賃上げ促進税制の控除率はいくらですか?
- 雇用者給与等支給額が前事業年度より1.5%以上増えると、増加額の15%です。2.5%以上増えると30%です。くるみん認定・えるぼし認定(2段階目以上)などで5%が上乗せされます(出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」令和8年5月1日更新版)。
- 社長の役員報酬を上げると、対象になりますか?
- なりません。国内雇用者には、使用人兼務役員を含む役員と、役員の特殊関係者は含まれないとされています(出典:同ガイドブック)。
- 法人を設立した年から使えますか?
- 使えません。新たに設立された法人の設立の日を含む事業年度は、適用を受けられないとされています(出典:国税庁タックスアンサーNo.5927-2)。
- 控除の上限はありますか?
- 法人税額の20%が上限です。控除しきれない額は、5年間繰り越せます(出典:同ガイドブック)。
- 事前に届出は必要ですか?
- 申告より前の特段の手続きは不要です。確定申告書に明細書と適用額明細書を添付します(出典:同ガイドブック)。
公式一次情報
- 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(令和8年5月1日更新版。控除率・上限・繰越し・給与の範囲・手続き。2026-10-05確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業向け賃上げ促進税制)(設立事業年度・比較給与0の扱い・添付書類。2026-10-05確認)
- 中小企業庁「賃上げ促進税制」(2026-10-05確認)