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個人事業と法人を並行する場合の労働保険はどうなるか|継続事業の一括は使えない

個人事業を続けながらマイクロ法人を持つ「二刀流」で、両方に従業員がいる場合の労働保険の扱いを整理します。複数の事業所の労働保険をまとめる「継続事業の一括」という制度がありますが、個人事業と法人の組み合わせには使えません。

厚生労働省の制度
編集:個人事業主のお金ラボ編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

個人事業を続けながら別の事業だけをマイクロ法人にする「二刀流」で、個人事業側にも法人側にも従業員がいる場合、労働保険(労災保険・雇用保険)はそれぞれ別に手続きが必要になるのか、まとめられないのかを整理します。

労働保険には、複数の事業所の保険料をまとめて申告・納付できる「継続事業の一括」という制度がありますが、個人事業と、その個人が代表を務める法人という組み合わせには使えません。理由を一次資料にもとづき確認します。

前提:労働保険は事業主ごとに成立する

労働保険(労災保険・雇用保険)の保険関係は、個々の適用事業ごとに成立するのが原則です。個人事業と法人は、たとえ代表者が同一人物であっても、法律上は別の事業主(別人格)として扱われます。そのため、個人事業と法人それぞれで従業員を雇っていれば、原則として双方に別々の労働保険関係・労働保険番号が成立します。

法人成りにともなう労働保険の新規手続きの詳細は法人成りの労働保険の引継ぎで解説しています。この記事では、個人事業を廃業せずに法人と並行するケースに絞って整理します。

継続事業の一括とは

労働保険の保険関係は事業ごとに成立するのが原則ですが、一定の要件を満たす継続事業であれば、複数の事業所の労働保険料を1つの事業でまとめて申告・納付できる制度があります。これが「継続事業の一括」です(労働保険徴収法第9条)。埼玉労働局の手引きでは、一つの会社でも支店や営業所ごとに複数の保険関係が成立してしまう事務負担を、事業主と政府の双方の便宜のために簡素化する制度と説明されています。

一括が認められると、まとめ役になる「指定事業」が労働保険料の申告・納付を代表して行い、まとめられる側の「被一括事業」(支店・営業所等)は個別の申告が不要になります。

一括の要件:事業主が同一であること

埼玉労働局の手引きは、継続事業の一括の要件として次の4点を挙げています。

  • 継続事業であること(有期事業でないこと)
  • 指定事業と被一括事業の事業主が同一であること(事業主が法人の場合は同一法人の支店、営業所等に限る)
  • それぞれの事業が「労災保険率表」による「事業の種類」が同じであること
  • 保険関係区分(一元適用事業か二元適用事業か、労災・雇用いずれの保険関係が成立しているか)が同一であること

労働保険徴収法施行規則第10条も、法第9条の要件として「それぞれの事業が、保険関係の成立区分(二元適用事業で労災保険のみ・二元適用事業で雇用保険のみ・一元適用事業で両方成立、のいずれか一つのみ)に該当すること」「それぞれの事業が、事業の種類を同じくすること」を定めています。

個人事業と法人の組み合わせで継続事業の一括が使えない理由

ここで重要なのが、「事業主が同一であること」という要件です。埼玉労働局の手引きは、事業主が法人の場合の一括対象を「同一法人の支店、営業所等」に限定しています。個人事業と法人は、代表者が同一人物であっても法律上は別の事業主(別法人格)であるため、この「事業主が同一」という要件を満たしません。

したがって、個人事業と、その個人が代表を務める法人を継続事業の一括でまとめることはできず、それぞれ別の労働保険番号のまま、個別に保険関係を維持することになります。なお、個人事業と法人の組み合わせを名指しして一括の可否を案内する厚生労働省・労働局の公式ページは確認できておらず、この整理は「事業主が同一であること」という要件と、個人事業主・法人が別人格であるという一般原則(法人成りの労働保険の引継ぎで整理)から導かれる帰結です。

実務上の扱い:それぞれ別に手続き

個人事業側・法人側の双方に従業員がいる場合、労災保険・雇用保険とも、それぞれの事業で個別に保険関係を成立させ、それぞれの労働保険番号で申告・納付します。新規の保険関係成立届・概算保険料申告書などの手続きは法人成りの労働保険の引継ぎで整理している内容と同じ考え方です。雇用保険の事業所番号が引き継がれる条件は法人成りで雇用保険の事業所番号は変わるかで解説しています。

加入後は、個人事業側・法人側のそれぞれで、毎年6月1日〜7月10日の労働保険の年度更新(前年度の確定精算と当年度の概算申告)が必要になります。片方だけ更新を忘れないよう、両方のスケジュールを管理してください。

健康保険・厚生年金保険について、個人事業のままどこまで加入できるかは個人事業所の社会保険の任意適用で整理しています。

まとめ

  • 労働保険は事業主ごとに成立し、個人事業と法人は代表者が同一人物でも別の事業主として扱われる。
  • 複数事業所の労働保険料をまとめる「継続事業の一括」制度があるが、要件の一つ「事業主が同一であること」を、埼玉労働局の手引きは「事業主が法人の場合は同一法人の支店、営業所等に限る」と説明している。
  • 個人事業と法人は別法人格のため、この一括の対象にならず、それぞれ別の労働保険番号を維持する。
  • 個人事業側・法人側それぞれで、新規の保険関係成立の手続きと、毎年の労働保険の年度更新が必要になる。

よくある質問

個人事業と法人(マイクロ法人)の労働保険を1つにまとめられますか?
まとめられません。労働保険には複数事業所の保険料をまとめる「継続事業の一括」という制度がありますが、要件の一つに「事業主が同一であること」があり、埼玉労働局の手引きは事業主が法人の場合の対象を「同一法人の支店、営業所等」に限定しています。個人事業と法人は代表者が同一人物でも別の事業主のため、この一括の対象になりません。
継続事業の一括はどんな場合に使えますか?
同一の事業主(法人の場合は同一法人)が営む複数の継続事業で、それぞれの事業の種類(労災保険率表による分類)と保険関係の区分(一元適用事業か二元適用事業か等)が同じ場合に、申請して認可を受ければ使えます。
個人事業と法人、それぞれで何をすればいいですか?
それぞれの事業で従業員を雇っていれば、個別に労働保険の保険関係を成立させる手続き(保険関係成立届・概算保険料申告書等)が必要です。加入後は、それぞれの労働保険番号で毎年6月1日〜7月10日の年度更新(前年度の確定精算と当年度の概算申告)も必要になります。

公式一次情報

本記事について。税理士・社会保険労務士監修前の概説です。個人事業と法人の組み合わせにおける継続事業の一括の可否を名指しで案内する公式ページは確認できておらず、本記事は一括の要件(事業主の同一性)と個人事業主・法人が別人格であるという一般原則から導かれる整理です。実際の手続きは、所轄の労働基準監督署・ハローワークまたは社会保険労務士にご確認ください。