個人事業のまま社会保険に入れるか|任意適用事業所の同意要件・認可・取消と法人成りとの違い
法人にしなくても、個人事業所が「任意適用」を申請すれば健康保険・厚生年金保険の適用事業所になれます。ただし従業員の同意と厚生労働大臣の認可が要り、事業主本人は通常被保険者になりません。日本年金機構の公式ページにもとづき、法人成りとの違いを整理します。
健康保険・厚生年金保険の任意適用個人事業主は国民健康保険と国民年金に入るのが基本で、「社会保険(健康保険・厚生年金保険)に入るには法人にするしかない」と言われがちです。しかし個人事業所でも、条件を満たして申請すれば社会保険の適用事業所になれる「任意適用」という仕組みがあります。この記事では、任意適用の要件・手続き・やめるときの条件を日本年金機構の公式ページで確認し、誰が加入することになるのかを整理します。
法人にした場合の社会保険の切り替え手続きは法人成りの社会保険|全喪届と新規適用届を、法人と個人事業の全体的な違いは個人事業と法人の違いを参照してください。この記事は、個人事業のまま社会保険に入る「任意適用」に絞ります。
結論:任意適用で入るのは従業員で、事業主本人は通常入らない
任意適用は、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けると、その事業所の従業員が健康保険・厚生年金保険に加入する仕組みです。保険給付や保険料は、法律で加入が義務づけられた適用事業所と同じ扱いになります。
一方、日本年金機構のQ&Aは、個人事業所の事業主とその家族について、通常は「事業所に使用される者」に当たらないため被保険者にならないと答えています。つまり、個人事業主が自分自身の社会保険を目的に任意適用で加入できるとは、確認した資料の範囲では言えません。
強制適用と任意適用の線引き
法律で加入が義務づけられているのは、常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する法人事業所と、常時5人以上の従業員が働いている個人事業所です。法人は事業主だけの場合でも適用事業所になります。
個人事業所は5人以上でも、サービス業の一部(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業等)や農業、漁業等は義務の対象外です。令和4年10月からは、法律・会計にかかる業務を行う士業の個人事業所で常時5人以上の従業員を雇用している事業所も、強制適用事業所になりました。
この線引きから外れる事業所、たとえば従業員が5人未満の個人事業所や、対象外の業種の個人事業所が、任意適用の申請を検討する対象になります。
任意適用の申請(同意・認可・添付書類・適用日)
申請には、従業員の半数以上が適用事業所となることに同意していることが必要です。事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けると、同意しなかった従業員も加入することになります。
適用年月日は、厚生労働大臣の認可を受けた日です。申請日や同意を取った日にさかのぼる扱いではありません。
手続きは、従業員の2分の1の同意を得た後、速やかに、事務センターまたは管轄の年金事務所へ「任意適用申請書」を出します。提出方法は電子申請・郵送・窓口持参です。
| 添付書類 | 日本年金機構の案内 |
|---|---|
| 任意適用同意書 | 従業員の2分の1以上の同意を得たことを証する書類 |
| 事業主世帯全員の住民票 | 原本・個人番号の記載がないもの。提出日から90日以内に発行されたもの |
| 公租公課の領収書 | 原則1年分(コピー可)。所得税、事業税、市町村民税、国民年金保険料、国民健康保険料のすべて |
公租公課の領収書は、未納がないことを確認するための書類です。領収書の代わりに公的な証明書を添付する場合は、原本の提出が求められます。
任意適用をやめるとき(4分の3以上の同意)
いったん任意適用を受けた後にやめるには、被保険者の4分の3以上の同意を得て、事業主が「任意適用取消申請書」を提出し、厚生労働大臣の認可を受けます。提出時期は事実発生から5日以内で、同意を得たことを証する書類を添付します。
取消が認可されると、取消に同意しなかった従業員も含めて、すべての被保険者が資格を失います。取消申請書と同時に、被保険者資格喪失届も提出します。
入るときは2分の1以上の同意、やめるときは4分の3以上の同意と、要件が非対称です。従業員の意思がそろわない状態でやめることは難しい制度だと言えます。
条文での根拠(健康保険法・厚生年金保険法)
任意適用は、健康保険は健康保険法31条、厚生年金保険は厚生年金保険法6条3項・4項に定めがあります。どちらも「厚生労働大臣の認可」を受けること、申請の前に「当該事業所に使用される者の二分の一以上の同意」を得ることを求めています。同意の数え方で対象になるのは、法律上「使用される者」のうち被保険者となるべき人です。
やめるときは、健康保険法33条と厚生年金保険法8条が、同じく厚生労働大臣の認可と、被保険者の「四分の三以上の同意」を求めています。本文の2分の1・4分の3という数字はこの条文が元です(e-Gov法令検索で2026-10-02確認)。
法人成りとの比較
| 項目 | 個人事業のまま任意適用 | 法人成り |
|---|---|---|
| 加入のきっかけ | 事業主の申請と厚生労働大臣の認可 | 法人は事業主のみでも適用事業所になる |
| 従業員の同意 | 半数以上の同意が必要 | 要件として書かれていない(強制適用) |
| 事業主本人 | 通常は被保険者にならない | 役員本人の被保険者資格の判定は別に確認が必要 |
| 適用日 | 認可を受けた日 | 法人の事業所として適用される |
| やめるとき | 被保険者の4分の3以上の同意と認可 | 任意適用取消の手続きは任意適用事業所向け |
従業員を社会保険に入れたい個人事業主には任意適用が選択肢になります。自分自身が厚生年金や健康保険に入りたい場合は、確認した資料の範囲では、法人にして加入する道が中心になります。法人にしたときの役員本人の被保険者資格や報酬の決め方はマイクロ法人の社会保険を参照してください。
個人事業のまま国民健康保険・国民年金で続ける場合の負担は個人事業主の社会保険料を安くする方法で、法人化した場合の手取りは法人化シミュレーターで試算できます。
まとめ
- 法人は事業主のみでも強制適用、個人事業所は常時5人以上(サービス業の一部・農林漁業等を除く)で強制適用になる。
- 強制適用でない個人事業所は、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可で任意適用を受けられるが、入るのは従業員で、事業主本人は通常被保険者にならない。
- 適用日は認可を受けた日で、添付書類は同意書・住民票・公租公課の領収書。
- やめるには被保険者の4分の3以上の同意と認可が要り、認可されると同意しなかった人も含め全員が資格を失う。従業員のいない個人事業主の扱いは年金事務所に確認する。
公式一次情報
- 日本年金機構「任意適用申請の手続き」(強制適用となる事業所の範囲、任意適用の概要と従業員の半数以上の同意、適用年月日が認可を受けた日であること、提出時期・提出先・提出方法、添付書類(任意適用同意書・住民票・公租公課の領収書)を確認。2026-09-21確認)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」(強制適用事業所の定義、令和4年10月からの士業の個人事業所の追加、任意適用事業所の定義を確認。2026-09-21確認)
- 日本年金機構「任意適用事業所が任意適用の取消をしようとするとき」(被保険者の4分の3以上の同意、事実発生から5日以内の提出、認可後は同意しなかった従業員も含め全員が資格を喪失し、資格喪失届もあわせて提出することを確認。2026-09-21確認)
- 日本年金機構Q&A「個人事業所の場合、事業主およびその家族は被保険者となるのでしょうか。」(個人事業所の事業主とその家族は通常「事業所に使用される者」に当たらず被保険者にならないこと、家族でも事実上の使用関係が明らかな場合は被保険者となることを確認。2026-09-21確認)
- e-Gov法令検索「健康保険法」31条・33条および「厚生年金保険法」6条・8条(任意適用の認可と2分の1以上の同意、取消の認可と4分の3以上の同意を確認。2026-10-02確認)
よくある質問
- 法人にしなくても、個人事業のまま社会保険(健康保険・厚生年金保険)に入れますか?
- 強制適用でない個人事業所は、従業員の半数以上の同意を得て事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受ければ任意適用事業所になれます。ただし加入するのは従業員で、事業主本人は通常被保険者になりません。
- 任意適用の申請には、従業員の何割の同意が必要ですか?
- 半数以上(2分の1以上)です。同意を得たことを証する「任意適用同意書」を添付します。認可されると、同意しなかった従業員も加入することになります。
- 任意適用はいつから効力が生じますか?
- 適用年月日(被保険者の資格取得年月日)は、厚生労働大臣の認可を受けた日です。
- 任意適用をやめることはできますか?
- 被保険者の4分の3以上の同意を得て、事業主が任意適用取消申請書を提出し、厚生労働大臣の認可を受ければやめられます。提出は事実発生から5日以内で、認可されると同意しなかった人も含めて全員が資格を失います。
- 従業員がいない個人事業主でも任意適用は使えますか?
- 任意適用の要件は従業員の半数以上の同意で、個人事業所の事業主は通常被保険者にならないとされています。従業員がいない場合の扱いは確認した資料に記載がないため、管轄の年金事務所に確認してください。