従業員を雇ったときの健康診断の実施義務(雇入れ時・定期・パートの対象・報告・罰則)
法人成りの前後に初めて従業員を雇うときに、事業者が受けさせる健康診断の種類・対象者・時期・記録の保存・労働基準監督署への報告・罰則を、労働安全衛生法と労働安全衛生規則の条文にもとづいて整理します。
労働安全衛生法の制度従業員を1人でも雇うと、事業者には労働安全衛生法にもとづく健康診断の実施義務が生じます。雇い入れるときの健康診断、雇い入れた後は1年以内ごとに1回の定期健康診断が必要で、違反には50万円以下の罰金が定められています。
この記事では、条文で確認できる範囲(実施の時期・項目・省略・保存・報告・罰則)と、厚生労働省の資料で確認できる範囲(パートタイム労働者の対象)を分けて整理します。個人事業から法人成りをして従業員を引き継ぐ場合の労務の手続きは、法人成りの労働保険の引継ぎも参照してください。
実施義務の根拠と、雇入れ時・定期の違い
労働安全衛生法第66条第1項は、事業者は労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより医師による健康診断を行わなければならないと定めています。労働者のほうにも、事業者が行う健康診断を受ける義務があります(同条第5項)。
実施の時期と対象は、労働安全衛生規則が次のように定めています。
| 種類 | 時期 | 対象 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 雇入れ時の健康診断 | 常時使用する労働者を雇い入れるとき | 雇い入れる労働者 | 安衛則第43条 |
| 定期健康診断 | 1年以内ごとに1回、定期に | 常時使用する労働者(特定業務従事者を除く) | 安衛則第44条第1項 |
| 特定業務従事者の健康診断 | その業務への配置替えのときと、6か月以内ごとに1回 | 安衛則第13条第1項第3号の業務に常時従事する労働者 | 安衛則第45条第1項 |
雇入れ時の健康診断は「雇い入れるとき」に行うもので、雇い入れてからの定期健康診断とは別の機会です。特定業務に当たるかどうかは、安衛則第13条第1項第3号が列挙する業務で判断します。
対象になる人:パート・アルバイト・役員
条文の対象は「常時使用する労働者」です。正社員に限られず、パート・アルバイトも該当することがあります。
厚生労働省の事業者向けパンフレット「パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう」は、正社員の週所定労働時間の3/4以上働くパートタイム労働者には健康診断の実施義務があり、1/2以上3/4未満の場合は「実施が望ましい」とされていると案内しています。同じパンフレットには、契約期間の区分(期間の定めのない契約、契約期間が1年以上の有期契約、6か月以上1年未満の有期契約など)と週所定労働時間の組み合わせごとの早見表も載っています。パンフレットは平成29年前後の資料のため、契約期間の区分は最新の案内を所轄の労働基準監督署で確認してください。
代表取締役など、労働者に当たらない役員が対象になるかどうかは、今回確認した厚生労働省の資料では明文を確認できていません。使用人を兼ねる役員のように、労働者として扱われる場合の取扱いは、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士に確認してください。
従業員がおらず代表者1人だけの会社についても、この条文の対象になる労働者がいない、という条文の読み方はできますが、公式の明文で案内されていることは確認できていません。従業員を雇う予定が決まったら、労働保険の手続きとあわせて、最初の1人を雇う時点で健康診断の手配が必要になる、と考えて準備するのが安全です。
検査項目と、省略できる場合
雇入れ時の健康診断の項目は、安衛則第43条が次の11項目を定めています。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量・赤血球数)
- 肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール・HDLコレステロール・血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(糖・蛋白)
- 心電図検査
定期健康診断の項目は、胸部エックス線検査に喀痰検査が加わる点を除いて、ほぼ同じです(安衛則第44条第1項)。
雇入れ時の健康診断は、医師の健康診断を受けてから3か月を経過しない人を雇い入れ、その結果を証明する書面を本人が提出したときは、相当する項目を省略できます(安衛則第43条ただし書)。この省略は、転職してきた人が直前に受けた健康診断の結果を使う場面で関係します。
定期健康診断では、身長・胸部エックス線検査・貧血検査・肝機能検査・血中脂質検査・血糖検査・心電図検査などについて、厚生労働大臣が定める基準にもとづき「医師が必要でないと認めるとき」に省略できます(安衛則第44条第2項)。年齢だけで機械的に省略が決まるわけではなく、医師の判断が前提です。
費用と、受診時間の賃金
健康診断を行う義務を負うのは事業者です(労働安全衛生法第66条第1項)。厚生労働省の労働基準法Q&Aは、労働安全衛生法等で事業者に義務付けられている健康診断の費用は、実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされていると案内しています。
受診時間の賃金について、厚生労働省の労働基準法Q&Aは、一般健康診断は業務の遂行と直接の関連で行われるものではないため、受診時間の賃金は労使間の協議で定めるべきものとしています。ただし、円滑な受診のためには、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいとも案内しています。
有害業務の従事者が受ける特殊健康診断は、業務の遂行に関して当然に実施すべきものなので、受診時間は労働時間として賃金の支払いが必要です(同Q&A)。
記録の保存と、労働基準監督署への報告
事業者は、雇入れ時・定期などの健康診断の結果にもとづいて健康診断個人票(様式第五号)を作成し、5年間保存しなければなりません(安衛則第51条)。
労働基準監督署への報告が必要なのは、常時50人以上の労働者を使用する事業者が定期健康診断を行ったときです。遅滞なく、電子情報処理組織(電子申請)を使って所轄労働基準監督署長に報告します(安衛則第52条第1項)。報告の対象は定期のものに限られ、雇入れ時の健康診断は報告の対象に入っていません。
| 常時使用する労働者 | 健康診断の実施 | 個人票の保存 | 労働基準監督署への報告 |
|---|---|---|---|
| 1〜49人 | 雇入れ時・定期とも必要 | 5年間 | 一般の定期健康診断は不要(安衛則第52条第1項の対象外) |
| 50人以上 | 雇入れ時・定期とも必要 | 5年間 | 定期健康診断を行うたびに、遅滞なく電子申請で報告 |
報告書には、労働保険番号、事業の種類、常時使用する労働者の数、健康診断の実施年月日、実施機関、受診者数、項目ごとの受診者数・異常所見のある人数、産業医の氏名などを記載します(同項第1号〜第10号)。労働保険番号は、労働保険の年度更新の書類にも出てくる番号です。法人成りで雇用保険の事業所番号が変わるかは法人成りと雇用保険の事業所番号で整理しています。
守らなかった場合の罰則
労働安全衛生法第120条第1号は、第66条第1項から第3項までの規定に違反した場合に、違反行為をした者を50万円以下の罰金に処すると定めています。
健康診断は、従業員の残業や休日出勤に関する36協定・就業規則の手続きとは別の義務です。どちらか一方を済ませていても、他方の代わりにはなりません。
まとめ
- 常時使用する労働者を雇い入れるときは雇入れ時の健康診断、雇い入れた後は1年以内ごとに1回の定期健康診断が必要(安衛則第43条・第44条)。
- パート・アルバイトは、週所定労働時間が正社員の3/4以上なら実施義務、1/2以上3/4未満なら実施が望ましいとされている(厚生労働省パンフレット)。
- 医師の健康診断を受けて3か月以内の人は、結果の書面の提出により、雇入れ時の項目を省略できる。
- 結果は健康診断個人票(様式第五号)に作成して5年間保存する。常時50人以上なら、定期健康診断のたびに電子申請で報告する。
- 違反には50万円以下の罰金が定められている(労働安全衛生法第120条第1号)。
- 受診費用は事業者が負担すべきものとされている(厚生労働省Q&A)。役員・代表者の扱いは、確認できた一次資料では明文が見つかっていないため、所轄の労働基準監督署に確認する。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(第66条:事業者の健康診断の実施義務と労働者の受診義務。第120条第1号:第66条第1項から第3項までの違反に対する50万円以下の罰金。2026-10-01確認)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(第43条:雇入れ時の健康診断の11項目と3か月以内の結果書面による省略。第44条:定期健康診断の項目と省略。第45条:特定業務従事者の健康診断。第51条:健康診断個人票の5年間の保存。第52条:常時50人以上の事業者の定期健康診断の結果報告。2026-10-01確認)
- 厚生労働省(新潟労働局掲載)「パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう」(週所定労働時間が正社員の3/4以上のパートタイム労働者には実施義務、1/2以上3/4未満には実施が望ましいことを案内。2026-10-01確認)
- 厚生労働省「労働基準法Q&A 健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?」(事業者に義務付けられている健康診断の費用は、当然に事業者が負担すべきものとされていることを案内。2026-10-01確認)
- 厚生労働省「労働基準法Q&A 健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」(一般健康診断の受診時間の賃金は労使間の協議で定めるもので、支払うことが望ましいこと、特殊健康診断は労働時間として賃金が必要なことを案内。2026-10-01確認)
よくある質問
- アルバイトを1人雇うだけでも、健康診断は必要ですか?
- 週所定労働時間が正社員の3/4以上で、常時使用する労働者に当たる場合は、雇入れ時の健康診断と1年以内ごとの定期健康診断を行う義務があります。1/2以上3/4未満の場合は、厚生労働省のパンフレットで実施が望ましいとされています。
- 雇入れ時の健康診断を、前の職場で受けた結果で済ませることはできますか?
- 医師の健康診断を受けてから3か月を経過しない人を雇い入れ、その結果を証明する書面を本人が提出した場合は、相当する項目を省略できます(労働安全衛生規則第43条ただし書)。3か月を過ぎている場合や、項目が足りない場合は、不足分を改めて受けさせます。
- 定期健康診断の結果は、労働基準監督署へ必ず報告しますか?
- 報告が必要なのは、常時50人以上の労働者を使用する事業者です。定期健康診断を行ったあと、遅滞なく電子申請で報告します。49人以下の事業者は、一般の定期健康診断の報告は不要ですが、個人票の作成と5年間の保存は必要です。
- 健康診断を受けさせないと、どうなりますか?
- 労働安全衛生法第120条第1号により、第66条第1項から第3項までの違反は50万円以下の罰金の対象です。
- 受診に使った時間の給料は払う必要がありますか?
- 厚生労働省のQ&Aでは、一般健康診断の受診時間の賃金は労使間の協議で定めるものとされ、支払うことが望ましいと案内されています。有害業務の特殊健康診断は、労働時間として賃金の支払いが必要です。
- 代表取締役の自分も、健康診断を受ける義務はありますか?
- 今回確認した条文・厚生労働省の資料では、代表取締役の取扱いを名指しで案内するものは確認できていません。使用人を兼ねる役員のように労働者として扱われる場合がありますので、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士に確認してください。