人間ドックの会社負担は給与課税か|条件と役員だけの場合
会社が従業員や役員の人間ドック・健康診断の費用を払うとき、給与として課税されない条件と、課税の問題が出る場合を説明します。
所得税基本通達36-29法人にして従業員を雇うと、定期健康診断のほかに、35歳以上の希望者向けの人間ドックなど、健康診断の費用を会社が持つかどうかを決める場面が出てきます。会社が払った検診料は、受けた人への給与になるのでしょうか。
国税庁の質疑応答事例は、一定年齢以上の希望者が全員受けられ、受けた人全員の費用を会社が負担するなら、給与として課税する必要はないとしています。一方で、役員や特定の地位の人だけが対象のときは課税の問題が生じます。
給与として課税されない条件
国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」は、次のような会社を想定しています。社内規程を設け、役員と使用人の全員に春秋2回の健康診断を行い、さらに35歳以上の希望者全員に2日間の人間ドックを受けさせ、検診料を会社が負担する、という内容です。
この検診料相当額を受けた人の給与として課税すべきかという問いに、国税庁は「給与等として課税する必要はありません」と答えています。関係する通達は所得税基本通達36-29です。
回答の理由として挙げられている条件は、次の3つです。
- 健康管理の必要があること:役員または使用人の健康管理のため、雇用主に、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていること。
- 一定年齢以上の希望者は全員受けられること:年齢などの基準を満たす希望者が、誰でも検診を受けられること。
- 受けた全員の費用を会社が負担すること:検診を受けた人の全てを対象として負担すること。
労働安全衛生法第66条第1項は、事業者は労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならないと定めています(出典:e-Gov法令検索)。会社に健康診断の実施が求められていることが、条件1の背景にあります。
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役員だけ・特定の人だけの場合
同じ質疑応答事例は、役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には、課税の問題が生じると書いています。
社長一人の会社や、役員だけで構成する会社では、検診を受けるのが役員だけになります。この場合は、先ほどの条件のうち「全員が対象」の部分を満たしにくくなります。国税庁の回答は、課税の問題が生じると述べるにとどまり、個別の金額や計算方法までは示していません。
国税庁の事例は、社内規程のある制度と、一般的に実施されている人間ドック程度の検診を前提にしています。規程がなくその都度一部の人の費用だけを払う場合や、人間ドック程度を超える内容の検診は、事例が直接答えていないため個別の確認が必要です。役員給与として扱われると損金算入の要件にも関わるので、役員報酬の決め方もあわせて確認してください。
役員の人間ドックの費用を会社で払う前に、税理士へ確認してください。従業員向けの福利厚生費の考え方は、社員旅行・忘年会・慶弔見舞金の福利厚生費で解説しています。
福利厚生の補助メニューに入れる場合
会社が福利厚生として複数のメニューから選べる制度(カフェテリアプラン)を持つ場合の事例も、国税庁が示しています。健康サポートのメニューが、従業員の健康管理の必要から一般に実施されている健康診断であれば、課税しなくて差し支えないとされています。
同じ事例には、もう一つの扱いがあります。補助の対象が所得税法第73条の「医療費」にあたり、実費の範囲内で年間50,000円が限度とされている場合は、見舞金に類するものとして課税しなくてよいとされています。ただし、この補助は医療費を補う性質のものなので、医療費控除の計算では、支払った医療費から補助された分を除く必要があります。
この事例は、メニューの内容が健康診断か医療費かで、課税しない理由が分かれることを示しています。
取引先の従業員の健康診断を負担する場合
自社の従業員ではなく、販売代理店などの従業員の健康診断を負担する場合は、法人税の質疑応答事例があります。巡回バスで健康診断を行うA工業が、余裕のある診断人員で、代理店等の全従業員のうち希望者にも診断を受けさせ、その費用を全額負担したというものです。
国税庁は、この費用を交際費等や寄附金ではなく単純損金としてよいと回答しています。理由は、代理店等の全従業員が対象で、販売奨励金等として金銭を交付する場合の費用に該当するためです。「全員が対象」という点が、ここでも判断の中心になっています。
自分で払った人間ドックと医療費控除
会社が払わず、本人が自分で払った人間ドックや健康診断の費用は、医療費控除の対象になるのでしょうか。国税庁タックスアンサー No.1122は、健康診断等は疾病の治療を行うものではないので、原則として医療費控除の対象にならないとしています。
例外もあります。健康診断等の結果、重大な疾病が発見され、その診断等に引き続き疾病の治療を行った場合は、その健康診断等の費用も医療費控除の対象になります(所得税基本通達73-4)。
メタボリックシンドロームに係る特定健康診査も同様に、原則は対象外で、基準に該当して特定保健指導が行われた場合は対象になるとされています。医療費控除の全体は医療費控除のガイドで確認できます。
場面別の早見表
| 場面 | 国税庁の示す扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 35歳以上の希望者全員が受けられ、受けた全員の費用を会社が負担 | 給与として課税する必要はない | 源泉所得税の質疑応答事例、所基通36-29 |
| 役員や特定の地位の人だけの費用を会社が負担 | 課税の問題が生じる | 同上 |
| カフェテリアプランの健康診断メニュー | 課税しなくて差し支えない | 源泉所得税の質疑応答事例 |
| 代理店等の全従業員の希望者の健康診断を負担 | 交際費等・寄附金以外の単純損金 | 法人税の質疑応答事例 |
| 本人が自分で払った人間ドック | 原則、医療費控除の対象外(重大な疾病の治療に引き続くときは対象) | タックスアンサー No.1122、所基通73-4 |
よくある質問
- 会社が人間ドックの費用を払うと、従業員の給与になりますか?
一定年齢以上の希望者が全員受けられ、受けた人全員の費用を会社が負担し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断であれば、給与として課税する必要はないとされています(国税庁の質疑応答事例、所得税基本通達36-29)。
- 社長だけが人間ドックを受けて、会社が払ってもよいですか?
国税庁は、役員や特定の地位にある人だけを対象に費用を負担する場合は課税の問題が生じるとしています。実際に払う前に、税理士へ確認してください。
- 年齢の条件は35歳以上でなければいけませんか?
国税庁の事例は35歳以上の希望者を想定したものですが、回答は「一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ」と書いています。35歳という数字そのものを条件にはしていません。
- 自分で払った人間ドックの費用は医療費控除になりますか?
原則として対象外です。検査の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその治療を行った場合は、その健康診断等の費用も対象になります(タックスアンサー No.1122)。
まとめ
- 希望者が全員受けられ、受けた全員の費用を会社が負担する人間ドックは、給与として課税する必要がない。
- 役員や特定の地位の人だけを対象にすると、課税の問題が生じる。
- カフェテリアプランの健康診断メニューや、代理店等の全従業員の健康診断負担にも、国税庁の個別の事例がある。
- 自分で払った人間ドックは、原則として医療費控除の対象外。
健康診断の受診義務や就業規則への書き方は、法人成り後の健康診断で整理しています。長期勤続の記念品や研修費用の課税は、永年勤続表彰の記念品と研修・資格取得費用で確認できます。
公式一次情報
- 国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「人間ドックの費用負担」(給与課税が不要な条件、役員だけの場合)
- 国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「カフェテリアプランによる医療費等の補助を受けた場合」(健康サポートメニューの課税関係)
- 国税庁 質疑応答事例(法人税)「交際費等の範囲(販売代理店等の従業員の健康診断費用)」(代理店等の従業員の健康診断)
- 国税庁 タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」(人間ドック・健康診断等の費用)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第66条(事業者による健康診断の実施)
