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法人化して従業員を雇うと住民税の特別徴収義務者になる|給与支払報告書とセットで解説

個人事業では自分で納めていた住民税が、法人化して従業員を雇うと「給与から天引きして納める側」に変わる仕組みを整理します。

法人化(法人成り)
編集:個人事業主のお金ラボ編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

個人事業主が納める住民税は、自分で納付書を使って納める「普通徴収」が基本です。法人化して従業員を雇うと、事業主(法人)は従業員の住民税を給与から天引きして市区町村に納める「特別徴収義務者」の立場になります。

この義務は給与支払報告書の提出とセットで発生します。提出先・期限・年間の納付スケジュールを地方税法の条文と自治体の公式案内にもとづき整理します。

特別徴収義務者になる事業者(給与を支払う事業者は原則すべて)

地方税法321条の4は、市町村が給与を支払う者のうち所得税法上の源泉徴収義務がある者を、条例によって特別徴収義務者として指定し、従業員の住民税を徴収させると定めています。この指定は個人事業主・法人を問わず、給与を支払う立場になった時点で対象になります。個人事業主のときから従業員を雇っていた場合は既に特別徴収義務者だった可能性があり、法人化にあわせて提出者・納入者を法人へ切り替える手続きが必要です。

法人化を機に初めて従業員を雇う場合は、その時点で新たに法人が特別徴収義務者になります。

さいたま市は、個人事業主から法人へ変更する場合、「特別徴収義務者の所在地・名称変更届出書」と、現在特別徴収している従業員全員分の「給与所得者異動届出書」の両方を提出するとしています。法人成りでは指定番号も新たに作成され、届出書には法人番号の記入が必要です。給与所得者異動届出書には、給与事務が対応できる月を特別徴収の開始月として記入します。

特別徴収の対象になると、従業員は原則として自分で住民税を納付する必要がなくなり、法人が毎月の給与から天引きして納めます。個人事業主自身の住民税の納め方は個人事業主の住民税で解説しています。

例外:一定の理由があれば普通徴収にできる:地方税法321条の3第1項ただし書きは、当該市町村内に給与所得者が少ないことその他特別の事情により特別徴収を行うことが適当でないと認められる市町村においては、特別徴収の方法によらないことができると定めています。

東京都主税局は、この例外の実務運用として、給与支払報告書に「普通徴収切替理由書」を添えることで普通徴収にできる6つの理由(普A〜普F)を案内しています。基準の詳細は区市町村によって異なる場合があります。

符号普通徴収に切り替えられる理由
普A総従業員数が2人以下(他の理由に該当する人数を除く)
普B他の事業所で特別徴収されている
普C給与が少なく税額が引けない(住民税非課税の場合など)
普D給与の支払が不定期(例:毎月でない)
普E事業専従者(個人事業主のみ対象)
普F退職者又は退職予定者(5月末日まで)

給与支払報告書の提出期限(1月31日)と提出先(従業員の住所地市区町村)

地方税法317条の6第1項は、毎年1月1日現在で給与を支払っている事業者は、所得税の源泉徴収義務がある場合、同年1月31日までに給与支払報告書を市町村長に提出しなければならないと定めています。提出先は法人の所在地ではなく、従業員それぞれの1月1日時点の住所がある市区町村です。従業員が複数の市区町村に住んでいれば、その数だけ提出先が分かれます。

提出対象は正社員に限らず、アルバイト・パート・役員も含め、在籍中の給与支払対象者は金額にかかわらず全員が対象です。退職者については、退職した年の給与支払額が30万円以下の場合、提出を省略できます(在籍中の従業員にはこの金額基準はありません)。1月31日が土曜・日曜にあたる年は、翌開庁日が期限になります。

給与支払報告書と同じ1月31日が期限の、税務署へ提出する法定調書合計表(給与所得の源泉徴収票等)については、「法定調書合計表とは」で解説しています。従業員を雇う際の労働保険の手続きは従業員がいる法人成りの労働保険手続きで解説しています。給与から天引きする所得税の源泉徴収税額表の見方は法人成り後の源泉徴収税額表(月額表)の見方で解説しています。

前々年に税務署へ提出すべき源泉徴収票の枚数が100枚以上の事業者は、給与支払報告書をeLTAX(地方税共同機構を経由する電子的方法)または光ディスク等のいずれかで提出することが義務付けられています(地方税法317条の6第5項)。100枚未満であれば、紙での提出も引き続き選べます。

この100枚の基準は、令和9年1月1日以降に提出する給与支払報告書から30枚以上へ引き下げられる予定です。基準に近い事業者は、対象年の枚数を早めに見積もっておくと安心です。

特別徴収税額通知(5月)と12回の天引き(翌年5月まで)

市区町村は、提出された給与支払報告書をもとに住民税額を計算し、毎年5月31日までに特別徴収税額通知書を事業者(特別徴収義務者)へ送付します。通知書には従業員ごとの年税額と、月割にした毎月の徴収額が記載されています。

法人はこの通知にもとづき、その年の6月から翌年5月までの12回に分けて、毎月の給与支払時に住民税を天引きします。個人事業主が特別な手続きなく年4回(普通徴収)で自分の住民税を納めていたのとは、納期の回数・仕組みが異なります。

天引きした税額の納入期限(徴収した月の翌月10日)

地方税法321条の5は、特別徴収義務者が徴収した月の翌月10日までに、天引きした住民税額を市区町村に納入しなければならないと定めています。原則として給与計算のたびに天引きと納入が発生する点は、源泉所得税の納付スケジュールと似ていますが、納付先は国(税務署)ではなく従業員が住む市区町村ごとになります。

源泉所得税の納期の特例と同じように、住民税の特別徴収にも年2回にまとめて納入できる納期の特例があります。給与の支払を受ける者が常時10人未満の特別徴収義務者が、納入先の市区町村長の承認を受けると、6月から11月までに徴収した分を12月10日まで、12月から翌年5月までに徴収した分を翌年6月10日までに納入できます(地方税法321条の5の2)。

承認を受ける前は原則どおり毎月の納入が必要で、申請先は税務署ではなく市区町村です。源泉所得税の特例は源泉所得税の納期の特例を参照してください。

  • 従業員の住所地ごとに提出先・納入先の市区町村が分かれるため、複数市区町村にまたがる場合は事務の手間が増える。
  • 給与の支払を受ける者が常時10人未満の事業者は、市区町村の承認を受けると年2回(12月10日・6月10日まで)にまとめて納入する「納期の特例」を利用できる(申請書の様式・提出先・人数の数え方は各市区町村へ確認)。
  • 給与支払報告書を期限までに提出しないと、特別徴収税額通知が届かず徴収開始が遅れる可能性がある。

納入を怠った場合の督促・差押え

地方税法329条は、納税者または特別徴収義務者が納期限までに市町村民税を完納しない場合、市町村の徴税吏員は納期限後20日以内に督促状を発しなければならないと定めています。天引きした住民税を期限までに納入しなかった場合も、この督促の対象になります。

注意:督促状発送から10日で差押えの対象になる:地方税法331条は、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しない場合、市町村の徴税吏員は滞納者の財産を差し押えなければならないと定めています。この差押えは義務規定で、法人の財産だけでなく、事情によっては第二次納税義務者・保証人にも及びます。

退職・休職・転勤時の異動届(異動があった月の翌月10日まで)

東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」は、退職・休職・転勤等により従業員(納税義務者)に異動があった場合、その事由が発生した日の翌月10日までに、事業主(給与支払者)が従業員の居住する区市町村へ「異動届」を提出する必要があると案内しています。届出の名称・様式は区市町村により異なる場合があります。

未徴収税額の扱いは退職時期で異なります。6月1日から12月31日までに退職等をした場合、特別徴収できなくなる残りの税額は原則として普通徴収に切り替わり、従業員本人が直接納付します(本人から一括での特別徴収を希望する申し出があれば、給与や退職金等から一括徴収できます)。一方、翌年1月1日から4月30日までに退職等をした場合は、5月31日までに支給される給与・退職金等の額が残りの税額を超えるときは本人の申し出がなくても、その給与・退職金等から残額を一括して特別徴収します(死亡退職の場合や、一括徴収すべき額が退職手当等の額を超える場合を除く)。

年度途中に採用した従業員を普通徴収から特別徴収へ切り替える手続き

年度の途中で採用した従業員が、それまで自分で納めていた普通徴収の住民税を、勤務先の特別徴収に切り替えたいと希望する場合があります。東京都主税局は、従業員本人から特別徴収への切替を希望する申し出があったときは、事業主が「特別徴収への切替申請書」を区市町村へ提出すると案内しています。ただし、普通徴収の納期限が既に過ぎているものと、過年度分に相当するものは特別徴収へ切り替えられません。

切替申請書の名称・様式は区市町村により異なる場合があるため、従業員の住所地の区市町村に確認してください。

法人成りの年に個人の住民税と法人の均等割が同時期にかかる場合

ここまでは従業員の住民税を扱いましたが、法人成りした年は代表者自身の住民税にも注意が必要です。個人住民税は前年(1月1日〜12月31日)の所得をもとに計算され、6月ごろに納税通知書が届き、普通徴収で年4回に分けて納めます(個人事業主の住民税)。法人成りした年も、前年まで個人事業主として得ていた所得にかかる住民税の納付義務は消えず、そのまま普通徴収で払い続けることになります。

一方、新設法人には所得の有無にかかわらず法人住民税の均等割がかかります。東京都23区内に事務所があり、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の場合は年額7万円が一例です(法人成りのデメリット)。法人成りした年は、個人時代の所得にかかる普通徴収の住民税を納めている期間と、新設法人の均等割の負担が始まる期間が重なるため、資金繰りでは両方を見込んでおく必要があります。

まとめ

  • 個人事業主自身の住民税は普通徴収だが、法人化して給与を支払う立場になると、地方税法321条の4により特別徴収義務者に指定される。
  • 法人成りした年は、前年の個人所得にかかる住民税(普通徴収・年4回)の納付が続く一方、新設法人には所得の有無にかかわらず均等割(東京23区内の一例で年7万円)がかかり、両方の負担が同時期に重なる。
  • 個人事業のときから既に特別徴収義務者だった場合は、「特別徴収義務者の所在地・名称変更届出書」と従業員全員分の「給与所得者異動届出書」を提出する(自治体により様式は異なる)。
  • 総従業員数が2人以下など一定の理由があれば、普通徴収切替理由書の提出により普通徴収にできる場合がある(地方税法321条の3第1項ただし書き)。
  • 給与支払報告書は、従業員それぞれの1月1日時点の住所地の市区町村へ、1月31日までに提出する(地方税法317条の6)。
  • 前々年の源泉徴収票の提出枚数が100枚以上なら、eLTAXまたは光ディスク等での提出が義務(令和9年1月以降提出分は30枚以上に引き下げ予定)。
  • 市区町村は5月31日までに特別徴収税額通知を送付し、事業者は6月から翌年5月までの12回で給与から天引きする。
  • 天引きした税額は、徴収した月の翌月10日までに市区町村へ納入する(地方税法321条の5)。
  • 給与の支払を受ける者が常時10人未満なら、市区町村の承認を受けて納期の特例(年2回納入)を利用できる。
  • 納期限までに完納しないと納期限後20日以内に督促状が発せられ、督促状発送から10日を経過すると財産の差押えの対象になる(地方税法329条・331条)。
  • 退職・休職・転勤等で従業員に異動があったときは、事由が発生した日の翌月10日までに区市町村へ異動届を提出する。
  • 年度途中採用者が普通徴収から特別徴収への切替を希望する場合は、特別徴収への切替申請書を区市町村へ提出する(納期限超過分・過年度分は切替不可)。

労働保険の新規手続きは従業員がいる法人成りの労働保険手続き、法人化の手続き全体は法人化の手続きで確認できます。

公式一次情報

よくある質問

個人事業主のときも従業員の住民税を天引きする必要がありますか?
従業員を雇っていれば個人事業主でも特別徴収義務者になり得ますが、本記事は法人化を機に給与支払事業者としての義務が明確になる点を扱っています。いずれの場合も地方税法321条の4にもとづき、給与を支払う際に所得税の源泉徴収義務がある事業者が特別徴収義務者の指定対象です(出典:e-Gov法令検索・地方税法321条の4)。
従業員が少ない場合、特別徴収をしなくてもよいケースはありますか?
地方税法321条の3第1項ただし書きにより、当該市町村内に給与所得者が少ないことその他特別の事情がある場合は特別徴収によらないことができます。東京都主税局は実務運用として、総従業員数が2人以下など6つの理由(普A〜普F)に該当する場合、普通徴収切替理由書の提出により普通徴収にできると案内しています(出典:e-Gov法令検索・地方税法321条の3、東京都主税局)。基準の詳細は区市町村により異なる場合があります。
役員報酬しか払わない1人社長のマイクロ法人でも特別徴収義務者になりますか?
なります。地方税法321条の4は所得税の源泉徴収義務がある給与の支払者を特別徴収義務者に指定すると定めており、従業員の有無は要件ではなく、法人が自分自身(代表者)へ役員報酬を支払う以上、その役員報酬にかかる住民税についても特別徴収義務者になります(出典:e-Gov法令検索・地方税法321条の4)。前問の「総従業員数2人以下」の普通徴収切替(普A)は法律上の適用除外ではなく市区町村への申請が前提の実務上の取扱いで、代表者本人も受給者に含めて判定されるため対象になる場合があります。
給与支払報告書はどこに提出しますか?
法人の所在地ではなく、従業員それぞれの1月1日時点の住所がある市区町村へ、1月31日までに提出します(出典:e-Gov法令検索・地方税法317条の6第1項)。
給与支払報告書は紙で提出できますか?
前々年に税務署へ提出すべき源泉徴収票の枚数が100枚以上の場合は、eLTAXまたは光ディスク等での提出が義務付けられ、紙での提出はできません(地方税法317条の6第5項)。100枚未満であれば紙でも提出できます。この基準は令和9年1月1日以降提出分から30枚以上に引き下げられる予定です。
天引きした住民税はいつまでに納めますか?
徴収した月の翌月10日までに、従業員の住所地の市区町村へ納入します(出典:e-Gov法令検索・地方税法321条の5)。
従業員が少ない場合も毎月納入が必要ですか?
給与の支払を受ける者が常時10人未満の事業者は、市区町村長の承認を受けると、6月から11月分を12月10日まで、12月から翌年5月分を翌年6月10日までの年2回にまとめて納入できます。納期限が土曜・日曜・祝日の場合は翌営業日になります。申請書の様式や人数の数え方は市区町村ごとに案内があるため、従業員が住む市区町村へ確認してください(出典:e-Gov法令検索・地方税法321条の5の2、さいたま市・宇都宮市・東京都北区の納期の特例の案内)。
従業員が退職・転勤するときは何を提出しますか?
異動があった事由発生日の翌月10日までに、従業員の居住区市町村へ異動届を提出します。未徴収税額は退職時期(6月〜12月か、翌年1月〜4月か)で普通徴収への切替か一括特別徴収かの扱いが変わります(出典:東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」)。
天引きした住民税を納め忘れるとどうなりますか?
地方税法329条により、納期限までに完納しないと市町村の徴税吏員は納期限後20日以内に督促状を発します。地方税法331条により、督促状を発した日から10日を経過した日までに完納しないと、滞納者(法人)の財産を差し押えなければならないとされています(出典:e-Gov法令検索・地方税法329条・331条)。
個人事業のときから特別徴収義務者だった場合、法人化でどんな届出が必要ですか?
さいたま市は、「特別徴収義務者の所在地・名称変更届出書」と、現在特別徴収している従業員全員分の「給与所得者異動届出書」の両方を提出し、法人成りでは指定番号も新たに作成されるとしています(出典:さいたま市)。様式・提出先・指定番号の運用は自治体により異なる可能性があるため、従業員の居住区市町村へ確認してください。
本記事について。税理士監修前の概説です。納期の特例の要件・提出方法の詳細は、従業員が住む市区町村または税理士にご確認ください。