就業規則の必要記載事項と作成・届出の手順(意見聴取・減給制裁の上限・罰則)
常時10人以上の労働者を使う会社が就業規則を作るときに、必ず書く事項(絶対的必要記載事項)と、制度を設けるなら書く事項(相対的必要記載事項)、意見聴取から届出までの順序、減給の制裁の上限、違反したときの罰則を、労働基準法の条文にもとづいて整理します。
労働基準法の制度就業規則に何を書くかは、労働基準法第89条が項目ごとに定めています。始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、賃金の決め方と支払い方、退職(解雇の事由を含む)の3分類は、どの就業規則にも必ず書く必要があります。
法人成りで就業規則を法人名義にあらためる場合の考え方や、従業員数の数え方、周知義務は、法人成りの36協定・就業規則で整理しています。この記事では、そこでは触れていない記載事項の一覧、作成の手順、減給の制裁の上限、罰則を扱います。
必ず書く事項(絶対的必要記載事項)
労働基準法第89条第1号から第3号は、就業規則に必ず記載する事項を次の3つに分けています。
| 号 | 記載する内容 |
|---|---|
| 第1号 | 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業時転換に関する事項 |
| 第2号 | 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期、昇給に関する事項 |
| 第3号 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
これらのうち1つでも欠けていると、就業規則として記載事項が足りない状態になります。
制度を設けるなら書く事項(相対的必要記載事項)
次の制度は、会社として定める場合に限って、その内容を就業規則に書く必要があります(労働基準法第89条第3号の2から第9号)。制度を設けないなら、書かなくて構いません。
- 退職手当:適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期(第3号の2)
- 臨時の賃金等(退職手当を除く)と最低賃金額(第4号)
- 労働者に食費、作業用品などの負担をさせる定め(第5号)
- 安全および衛生に関する定め(第6号)
- 職業訓練に関する定め(第7号)
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する定め(第8号)
- 表彰および制裁の定めは、その種類と程度(第9号)
- 上記のほか、事業場の労働者すべてに適用される定め(第10号)
たとえば賞与を支給する会社は「臨時の賃金等」として第4号に当たり、支給の時期や条件を書きます。安全衛生に関する定めを就業規則に置く場合は、第6号に当たります。健康診断そのものの義務は従業員の健康診断の実施義務で整理しています。賞与の規程の定め方は法人税の損金算入にも関わるため、決算賞与の3要件も確認してください。
作成から届出までの順序
就業規則の作成・変更には、労働基準法第90条が定める手続きがあります。使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合(なければ労働者の過半数を代表する者)の意見を聴かなければなりません(第1項)。
届出のときは、その意見を記した書面(意見書)を添付します(第2項)。意見を聴くことは求められていますが、同意を得ることまでは求められていません。
- 第89条の記載事項を盛り込んだ就業規則の案を作る
- 労働者の過半数で組織する労働組合、なければ過半数を代表する者の意見を聴き、意見書をもらう
- 就業規則と意見書を、所轄の労働基準監督署長に届け出る
- 労働者に周知する(第106条第1項)
周知の方法は、法人成りの36協定・就業規則の「就業規則:常時10人以上で作成・届出義務」の節で、労働基準法施行規則第52条の2の3方法として整理しています。変更したときも、同じ手順で届出が必要です(第89条)。
減給の制裁の上限
就業規則に、遅刻や服務規律違反に対する制裁として減給を定める場合、上限があります。減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額も1賃金支払期の賃金の総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条)。
たとえば平均賃金の1日分が1万円なら、1回の減給は5,000円までです。月給の総額が30万円の月なら、その月の減給の合計は3万円までです。この計算例は条文の数字に当てはめた説明で、平均賃金の具体的な算出方法は労働基準法第12条に別に定めがあります。
守らなかった場合の罰則
労働基準法第120条第1号は、第89条、第90条第1項、第91条、第106条から第109条までの規定に違反した者を、30万円以下の罰金に処すると定めています。
| 違反の内容 | 条文 |
|---|---|
| 常時10人以上なのに、就業規則を作成・届出しない(変更の届出をしない) | 第89条 |
| 労働者の過半数代表の意見を聴かない | 第90条第1項 |
| 制限を超える減給の制裁を定める | 第91条 |
| 労働者に就業規則を周知しない | 第106条 |
第120条第1号の列挙に入っている第90条は第1項(意見聴取)だけで、第2項(意見書の添付)は列挙に含まれていません。実際の運用は、所轄の労働基準監督署の案内に従ってください。
モデル就業規則の使い方
厚生労働省は「モデル就業規則について」のページで、就業規則の作成例を公開しています。同ページは、常時10人以上の従業員を使用する使用者は労働基準法第89条により就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があり、変更する場合も同様であると案内しています。
モデルをそのまま使う場合でも、会社の実際の始業・終業の時刻、休日、賃金の締切日・支払日、退職の事由に合わせて書き換える必要があります。記載の内容と実際の運用が食い違うと、トラブルの元になります。モデルに入っていない制度を運用しているなら、第89条の相対的必要記載事項に当たるかを確認して追記します。
常時10人未満の場合は、就業規則の作成・届出の義務はありません。第90条第1項(意見聴取)と第106条第1項(周知)の条文には、常時10人以上という人数の条件は書かれていません。
ただし、10人未満の就業規則で意見聴取や周知が効力の条件になるかどうかは、通達を含めて今回確認できていません。作成する場合は、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士に確認してください。
まとめ
- 始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、賃金の決め方と支払い方、退職(解雇の事由を含む)は必ず書く(労働基準法第89条第1号〜第3号)。
- 退職手当、臨時の賃金、食費の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁などは、制度を設けるなら書く(第3号の2〜第10号)。
- 作成・変更のときは、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴き、意見書を添えて届け出る(第90条)。
- 減給の制裁は、1回が平均賃金1日分の半額以下、総額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1以下(第91条)。
- 第89条・第90条第1項・第91条・第106条の違反は30万円以下の罰金(第120条第1号)。
- 10人未満の場合の意見聴取や効力の扱いは、明文を確認できていないため、所轄の労働基準監督署に確認する。
就業規則とは別に会社が備える名簿・台帳は労働者名簿・賃金台帳・出勤簿で整理しています。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第89条:就業規則の作成・届出義務と必要記載事項。第90条:意見聴取と意見書の添付。第91条:減給の制裁の上限。第106条:周知義務。第120条第1号:30万円以下の罰金。2026-10-01確認)
- 厚生労働省「モデル就業規則について」(常時10人以上の使用者の作成・届出義務と、モデル就業規則の公開を案内。2026-10-01確認)
- 高知労働局「就業規則の作成・変更・届出」(過半数代表者の意見書を添付して所轄労働基準監督署へ届け出ることを案内。2026-09-04確認)
よくある質問
- 就業規則には、何を必ず書く必要がありますか?
- 労働基準法第89条第1号から第3号の、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期、昇給、退職(解雇の事由を含む)です。退職手当や賞与などは、制度を設ける場合に限り書きます。
- 従業員の代表の同意がないと、就業規則は届け出られませんか?
- 同意までは求められていません。労働基準法第90条は、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴くこと、届出のときにその意見を記した書面を添付することを定めています。
- 遅刻のたびに、給料から罰金として引いてもよいですか?
- 就業規則に減給の制裁を定めておく必要があり、そのうえで、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1までです(労働基準法第91条)。
- 就業規則を作らなかった場合の罰則はありますか?
- 常時10人以上の労働者を使用するのに作成・届出をしない場合は、労働基準法第89条の違反として、30万円以下の罰金の対象です(第120条第1号)。
- モデル就業規則をそのまま使ってもよいですか?
- 厚生労働省が公開しているモデルを土台にできますが、会社の実際の勤務時間、休日、賃金の締切日・支払日、退職の事由に合わせて書き換える必要があります。記載と運用が食い違わないように確認してください。
- 従業員が10人未満でも就業規則は作れますか?
- 作成・届出の義務は常時10人以上の場合ですが、10人未満の会社が任意で作ることもできます。その場合の意見聴取などの扱いは、今回確認した一次資料では明文を確認できていないため、所轄の労働基準監督署に確認してください。