法人成りで商標権・特許権はどうなる|個人から法人への移転登録に必要な書類と登録免許税
屋号や商品名を商標登録している、あるいは特許を持っている個人事業主が法人成りするとき、その権利は自動的に法人のものにはなりません。移転登録をしなかった場合の法律上の扱い、申請書に添付する書類、登録免許税の金額を特許法・商標法・特許登録令・登録免許税法の条文にもとづき整理します。
特許法・商標法個人事業主として屋号やロゴ、商品名を商標登録していたり、自分で開発した技術で特許を取得していたりする場合、法人成りにあたってその権利をどう扱うかは見落とされがちな論点です。この記事では、個人が持つ商標権・特許権を、新しく設立した法人へ譲渡して移転登録する場面に絞って解説します。出願中の案件の名義変更や、実用新案権・意匠権の扱い、専用実施権・専用使用権など権利の一部だけを移す手続きはこの記事の対象外です。
結論から言うと、商標権・特許権は不動産などと違い、法人を設立しただけでは権利者は個人のままで、法人へ移転登録をしなければ法律上その効力は生じません。この記事では、この効力発生の仕組みと、移転登録の申請に必要な書類、かかる登録免許税を一次資料にもとづいて示したうえで、一次資料で確認できなかった範囲も分けて示します。
法人成りで商標権・特許権はどうなるか
個人事業主が屋号・ロゴ・商品名などを商標登録している場合や、自分名義で特許を保有している場合、法人成りで新しく会社を設立しても、その商標権・特許権の名義(権利者)は自動的には法人に切り替わりません。法人は個人とは別の法律上の人格であり、個人が持つ商標権・特許権を法人が正式に使うには、個人から法人への譲渡という形で権利を移し、特許庁に移転登録を申請する必要があります。
屋号・ロゴを法人成り後もそのまま社名やブランドとして使い続けるケースは多くありますが、商標権の名義が個人のままだと、法人がその商標を使うことについて、後述するとおり法律上の位置づけがあいまいになります。
移転登録をしないと法律上どうなるか
特許法第98条第1項第1号は、次のように定めています。
つまり、個人事業主が持つ特許権を新設した法人へ譲渡する場合、当事者間で譲渡の合意をしただけでは足りず、特許庁への移転登録が完了するまでは、法律上の特許権者は個人のままです。法人成りの登記を済ませても、この移転登録は別の手続きとして必要になります。
商標権についても同様です。商標法第35条は、特許法第98条第1項第1号・第2項の規定を商標権に準用すると定めており、商標権の移転も同じく登録が効力発生の要件になります。
なお、特許法第98条第2項は、相続その他の一般承継の場合は登録ではなく「遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出」ればよいと定めています。しかし個人事業主から新設法人への譲渡は相続でも法人の合併でもないため、この届出だけで済ませることはできず、通常の移転登録の手続きが必要です。
移転登録の申請に必要な書類
特許権・商標権の移転登録は、特許庁が定める登録手続を管轄する政令である特許登録令にもとづいて申請します。特許登録令第28条は、特許権・実用新案権・意匠権・商標権に関する登録について、登録の目的が同一であれば同一の申請書で申請できると定めており、商標権の移転登録もこの政令の手続きに従います。
添付書類について、特許登録令第29条第1項は次のように定めています。
| 号 | 添付する書面 |
|---|---|
| 第1号 | 登録の原因を証明する書面 |
| 第2号 | 登録の原因について第三者の許可、認可、同意又は承諾を要するときは、これを証明する書面 |
個人から法人への譲渡の場合、第1号の「登録の原因を証明する書面」にあたるのが、一般に譲渡証書と呼ばれる書面です。譲渡人(個人)と譲受人(法人)の間で、いつ・どの権利を・どのような原因(売買・贈与など)で譲渡したかを証明する書面を用意し、申請書に添付します。
第2号の第三者の許可・同意等が必要になるケースは限定的ですが、該当する場合でも、特許登録令第29条第3項により、申請書にその第三者が記名して印を押していれば、別途の証明書面は不要とされています。
登録免許税はいくらか
移転登録には登録免許税がかかります。登録免許税法別表第一は、特許権と商標権それぞれについて、移転登録の原因ごとに税額を分けて定めています。
| 権利 | 移転の原因 | 登録免許税(1件につき) |
|---|---|---|
| 特許権 | 相続又は法人の合併による移転 | 3,000円 |
| 特許権 | その他の原因による移転 | 15,000円 |
| 商標権 | 相続又は法人の合併による移転 | 3,000円 |
| 商標権 | その他の原因による移転 | 30,000円 |
個人事業主が新設した法人へ商標権・特許権を譲渡するケースは、相続でも法人の合併でもないため「その他の原因による移転」に該当し、特許権は1件につき15,000円、商標権は1件につき30,000円の登録免許税がかかります。複数の商標・特許を移転する場合は、権利の件数分だけ税額がかかる点にも注意してください。
相続・会社合併の場合との違い
個人事業主本人が亡くなり相続人が事業を引き継ぐ場合や、既存の法人同士が合併する場合は、移転登録の扱いが異なります。特許登録令第35条第1項は、登録の原因が相続その他の一般承継であるときは、申請書に戸籍又は住民票の謄本若しくは抄本、登記事項証明書その他その事実を証明できる書面を添付しなければならないと定めています。相続の場合は譲渡証書ではなく、相続の事実を示すこれらの書面が必要になるということです。
一方、法人成りで個人事業主本人が生前に新設法人へ権利を譲渡する場合は、この「相続その他の一般承継」にはあたりません。前述のとおり登録の原因を証明する書面(譲渡証書)を用意する通常の移転登録の手続きに従うことになります。
まとめ
- 個人が持つ商標権・特許権は、法人を設立しただけでは法人のものにならない。特許法第98条第1項第1号(商標権は商標法第35条で準用)により、移転登録をしなければ移転の効力は生じない。
- 移転登録の申請書には、特許登録令第29条第1項にもとづき「登録の原因を証明する書面」(譲渡証書)を添付する。第三者の同意等が必要な場合も、申請書に本人が記名押印していれば別書面は原則不要。
- 登録免許税は、個人から新設法人への譲渡(相続・法人合併以外の移転)の場合、特許権が1件15,000円、商標権が1件30,000円(登録免許税法別表第一)。
- 相続や法人の合併による移転は、譲渡証書ではなく戸籍謄本等の書面が必要で、登録免許税も1件3,000円と異なる(特許登録令第35条、登録免許税法別表第一)。
- 申請書の様式や押印・印鑑証明書の具体的な実務は、この記事執筆時点で一次資料の本文を確認できておらず、特許庁の公式サイトで最新情報を確認する必要がある。
法人成り手続き全体の流れは法人化の手順と必要書類・届出の期限を、不動産・設備・在庫など他の資産の引継ぎ方法は個人事業から法人への資産引継ぎを参照してください。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「特許法」(第98条第1項第1号・第2項:特許権の移転〈相続その他の一般承継を除く〉は登録が効力発生要件であること、相続その他の一般承継の場合は届出でよいことを掲載)
- e-Gov法令検索「商標法」(第35条:特許法第98条第1項第1号・第2項の規定を商標権に準用することを掲載)
- e-Gov法令検索「特許登録令」(第28条:特許権・実用新案権・意匠権・商標権の登録手続の共通適用、第29条:申請書に添付する登録の原因を証明する書面〈譲渡証書〉等、第35条:相続その他の一般承継の場合の戸籍謄本等の添付を掲載)
- e-Gov法令検索「登録免許税法」(別表第一・十三〈特許権の登録〉及び十六〈商標権の登録〉:移転登録の原因別の登録免許税額を掲載)
よくある質問
- 法人成りすれば、商標権・特許権は自動的に会社のものになりますか?
- なりません。特許法第98条第1項第1号(商標権は商標法第35条で準用)により、個人から法人への移転は特許庁への移転登録をしなければ法律上の効力が生じません。法人成りの登記とは別に、移転登録の手続きが必要です。
- 移転登録にはどんな書類が必要ですか?
- 特許登録令第29条第1項により、登録の原因を証明する書面(譲渡証書)の添付が必要です。第三者の許可・同意等が必要な場合の書面は、申請書に本人が記名押印していれば原則不要です。申請書の様式や押印の具体的な実務は、特許庁の公式サイトで最新情報を確認してください。
- 登録免許税はいくらかかりますか?
- 個人から新設法人への譲渡は「その他の原因による移転」にあたり、登録免許税法別表第一により特許権は1件15,000円、商標権は1件30,000円です。相続や法人の合併による移転はそれぞれ1件3,000円と異なります。
- 相続で事業を引き継ぐ場合も同じ手続きですか?
- いいえ。相続その他の一般承継の場合は、特許登録令第35条により譲渡証書ではなく戸籍又は住民票の謄本・抄本等の書面が必要で、登録免許税も1件3,000円と異なります。法人成りで本人が生前に権利を譲渡する場合はこの一般承継にはあたりません。