個人事業から法人への資産引継ぎ|現物出資・売買・賃貸と消費税・所得税の扱い
資産の種類別の選び方と、みなし譲渡課税・消費税の注意点を整理します。
国税庁の制度個人事業を法人にする「法人成り」では、事業用の資産(設備・在庫・不動産など)を個人から新しい会社へ移す必要があります。移し方には現物出資・売買・賃貸の3つがあり、資産の種類によって実務でよく使われる方法や税金の扱いが変わります。
特に、時価より著しく安い対価で移すと、個人側に「みなし譲渡」として実際の対価より高い税金がかかることがあります。資産の種類別に、実務での選び方と所得税・消費税の注意点を整理します。
資産引継ぎの3つの方法
個人事業で使っていた資産を新しい会社に移す方法は、主に次の3つです。
- 現物出資:金銭の代わりに事業用資産を出資し、会社設立時の資本金に充てる方法です。出資する現物の価額の総額が500万円を超えない場合は、原則として検査役の調査が不要です(会社法33条10項。市場価格のある有価証券や、専門家の証明を受けた場合の例外もあります)。
- 売買(譲渡):個人から会社へ資産を売却する方法です。実務で最も多く使われ、価格は原則、時価を基準に決めます。
- 賃貸:資産は個人の所有のまま、会社に貸す方法です。主に事務所・店舗・倉庫などの不動産で選ばれます。
贈与(無償で移す)という方法もありますが、個人側に譲渡所得課税、会社側に受贈益への法人税課税が生じるため、実務ではあまり使われません。
資産の種類で選び方が変わる
どの方法を選ぶかは、資産の種類によって実務での傾向が異なります。
| 資産の種類 | 主な例 | 実務でよく使われる方法 |
|---|---|---|
| 減価償却資産 | 車両・パソコン・什器備品等 | 売買または現物出資 |
| 棚卸資産 | 商品・製品の在庫 | 売買(原則) |
| 売掛金・貸付金 | 金銭債権 | 個人に残す、または債権譲渡 |
| 不動産 | 事務所・店舗・倉庫の土地建物 | 賃貸または売買 |
売掛金・貸付金などの金銭債権は、譲渡所得の対象資産から除かれているため、そもそも譲渡所得課税は生じません(国税庁タックスアンサーNo.3105)。不動産は名義変更の登記費用・不動産取得税がかかるため、当面は個人所有のまま賃貸にとどめ、後で売買を検討するケースもあります。
個人側の所得税|みなし譲渡課税に注意
棚卸資産以外の資産(不動産・車両・器具備品など)を、個人から法人へ時価の2分の1に満たない対価で譲渡すると、実際の対価にかかわらず時価で譲渡したものとみなして譲渡所得課税がされます(所得税法59条1項2号・所得税法施行令169条)。無償で贈与した場合も同様に、時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項1号)。
これは「みなし譲渡」と呼ばれる規定で、対価を受け取っていなくても、含み益に所得税がかかる点に注意が必要です。安く譲るつもりでも、税務上は時価で売ったことにされてしまいます。
棚卸資産だけ判定基準が違う
商品・製品などの棚卸資産は、上記の譲渡所得の規定(59条)ではなく、所得税法40条が適用され、判定基準も時価のおおむね70%未満と異なります。棚卸資産を時価のおおむね70%未満の対価で譲渡すると、時価の70%相当額を事業所得の総収入金額に算入して申告することになります。
棚卸資産は譲渡所得ではなく事業所得の扱いになる点、判定基準が2分の1ではなく70%である点が、他の資産と異なります。法人成りで在庫を法人へ移す場合は、この基準を踏まえて売買価格を決めます。
消費税の扱い
移し方によって、消費税の扱いも変わります。
- 現物出資:消費税法上は「対価を得て行う資産の譲渡」に該当し、課税対象です。課税標準は、移した資産の価額ではなく、出資によって取得する株式の時価です(国税庁の質疑応答事例)。
- 売買:通常の資産の譲渡として課税対象になります。ただし、土地や売掛金などの金銭債権の譲渡は消費税法上非課税です。
- 賃貸:事務所・店舗など事業用の建物の貸付けは課税対象、居住用住宅の貸付けは非課税です。
個人が消費税の免税事業者であれば、上記の課税取引があっても消費税の納税義務自体は生じません。ただし、基準期間の課税売上高等の要件次第で課税事業者になっている場合は、資産の引継ぎに伴う消費税も申告に含める必要があります。
賃貸を選ぶ場合の注意点
不動産を売買・現物出資せず賃貸のままにする場合、個人側は引き続き不動産所得として確定申告が必要です。会社との間で賃貸借契約書を作成し、家賃は近隣相場等を踏まえた適正な金額に設定します。
家賃が不当に高いと会社の経費が過大と否認されるおそれがあり、逆に不当に安いと個人・会社間の利益移転とみなされるおそれがあります。契約内容・金額の妥当性は、税理士へ確認することをおすすめします。
まとめ
- 資産の引継ぎ方法は主に現物出資・売買・賃貸の3つ。現物出資は価額500万円以下なら検査役の調査が原則不要。
- 棚卸資産は売買が原則、金銭債権は譲渡所得の対象外、不動産は賃貸か売買で選ぶ実務が多い。
- 棚卸資産以外を時価の2分の1未満で譲渡・贈与すると、時価で譲渡したとみなされ譲渡所得課税される(所得税法59条)。
- 棚卸資産だけは所得税法40条が適用され、判定基準は時価のおおむね70%未満(事業所得の総収入金額に算入)。
- 消費税は、現物出資は取得する株式の時価が課税標準、売買・事業用賃貸も課税対象(土地・金銭債権は非課税)。
法人成り全体の流れは法人成りの手順ガイドを、タイミングの判断は法人成りのタイミングを参照してください。
公式一次情報
- 国税庁「法第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)関係」(法人に対する贈与または時価の2分の1未満の対価による譲渡は、時価で譲渡があったものとみなすこと)
- 国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」(貸付金・売掛金等の金銭債権は譲渡所得の対象資産から除かれること)
- 国税庁「法第39条・第40条(たな卸資産等の自家消費・贈与等の場合の総収入金額算入)関係」(棚卸資産の「著しく低い価額の対価による譲渡」は時価のおおむね70%未満の対価による譲渡をいうこと)
- 国税庁 質疑応答事例「現物出資の場合の課税標準」(現物出資は対価を得て行う資産の譲渡に該当し、課税標準は取得する株式の時価であること)
- e-Gov法令検索「会社法」(第33条10項:現物出資財産等の価額の総額が500万円を超えない場合等は検査役の調査が不要)
よくある質問
- 資産の引継ぎ方法(現物出資・売買・賃貸)はどう選べばいいですか?
- 資産の種類で実務の傾向が異なります。棚卸資産は売買が原則、売掛金などの金銭債権は個人に残すか債権譲渡、不動産は賃貸か売買で選ばれることが多いです。現物出資は価額500万円以下なら検査役の調査は原則不要ですが、手続きの手間から選ばれる場面は限られます。
- 資産を安く会社に売ると税金が高くなるのは本当ですか?
- 棚卸資産以外の資産を時価の2分の1未満の対価で譲渡・贈与すると、実際の対価にかかわらず時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得課税がされます(所得税法59条)。安く譲るつもりでも、時価どおりに売ったときと同じ税金がかかることになります。
- 商品などの棚卸資産も同じ基準ですか?
- いいえ。棚卸資産は所得税法40条が適用され、判定基準は時価の2分の1ではなく、おおむね70%未満です。基準を下回ると、時価の70%相当額を事業所得の総収入金額に算入して申告します。
- 現物出資すると消費税はかかりますか?
- かかります。現物出資は消費税法上「対価を得て行う資産の譲渡」に該当し、課税標準は移した資産の価額ではなく、出資によって取得する株式の時価です(国税庁の質疑応答事例)。