棚卸資産の評価方法の届出書|法人成りで在庫を引き継ぐときの期限と法定評価方法
法人が選べる評価方法、届出の期限、出さなかった場合の最終仕入原価法、変更の承認申請を法人税法施行令で整理します。
国税庁の制度個人事業で商品や材料の在庫を持っていた人が法人成りすると、その在庫は新しい会社の棚卸資産になります。期末の在庫をどの方法で評価するかは、会社として税務署へ届け出て決めます。
個人事業のときに所得税で出した評価方法の届出は、所得税の手続きです。会社は「新たに設立した法人」として、法人税の届出を自分で出す立場になります(法人税法施行令29条2項1号)。期限と、出さなかったときにどうなるかを先に押さえておきます。
法人が選べる評価方法
法人が期末の棚卸資産の評価に使える方法は、大きく原価法と低価法の2つです(法人税法施行令28条1項)。
| 区分 | 方法 | 考え方 |
|---|---|---|
| 原価法 | 個別法 | 個々の在庫の取得価額をそのまま使う |
| 先入先出法 | 期末に近い時点で取得したものから残っているとみなす | |
| 総平均法 | 期首在庫と期中取得分の取得価額の合計を総数量で割った単価を使う | |
| 移動平均法 | 取得のたびに平均単価を改定し、期末に近い時点の単価を使う | |
| 最終仕入原価法 | 期末に最も近い時点で取得したものの単価を使う | |
| 売価還元法 | 期末在庫の通常の販売価額の総額に原価の率を掛ける | |
| 低価法 | ― | 原価法で出した評価額と期末の時価のうち低いほう |
ただし、通常一度の取引で大量に仕入れ、規格に応じて価額が決まっているものには個別法を選べません(同条2項)。
評価方法は、事業の種類ごとに、かつ資産の区分ごとに選びます。資産の区分として条文は、商品又は製品、半製品、仕掛品、主要原材料及び補助原材料その他の棚卸資産を挙げています(同令29条1項)。小売業で商品だけを持つ会社なら商品の1区分、製造業なら材料・仕掛品・製品で別々の方法を選ぶこともできます。
届出の期限(設立第1期の申告期限)
新たに設立した法人は、設立の日を含む事業年度(第1期)の確定申告書の提出期限までに、評価方法を書面で納税地の所轄税務署長へ届け出ます。第1期に仮決算による中間申告書を出す場合は、その中間申告書の提出期限までです(法人税法施行令29条2項1号)。
設立してすぐではなく第1期の申告期限が締切なので、在庫の動き方を見てから方法を決めることができます。第1期の月数と申告期限の関係は法人の決算・確定申告で確認できます。
届け出なかった場合は最終仕入原価法
期限までに届け出なかった場合、評価方法は最終仕入原価法による原価法になります(法人税法施行令31条1項)。選んだ方法で評価しなかった場合も同じ扱いです。
最終仕入原価法は、期末に最も近い仕入れの単価で在庫全体を評価する方法です。仕入単価の変動が大きい商品では、期末直前の仕入れ値によって在庫の評価額が上下し、その分だけ第1期以降の利益が動きます。単価が安定している、または届出の手間を省きたい場合は、届け出ずにこの方法を使うという選択もあります。
個人事業のときの届出との関係
個人事業主も、事業を始めた年分の確定申告期限までに評価方法を届け出る仕組みで、届け出なかった場合は同じく最終仕入原価法です(所得税法施行令100条2項1号・102条1項)。
個人事業のときの届出は所得税法施行令にもとづく個人の手続きで、法人税の届出の規定は「新たに設立した内国法人」に第1期の申告期限までの届出を求めています(法人税法施行令29条2項1号)。個人事業で総平均法などを届け出ていた人が、会社でも同じ方法を使いたい場合は、会社として改めて届け出ます。何も出さなければ、会社の評価方法は最終仕入原価法です。
在庫を個人から会社へどの価格で移すかと、そのときの個人側の所得税は、評価方法とは別の論点です。個人事業から法人への資産引継ぎで整理しています。
あとから評価方法を変えるとき
いったん選んだ評価方法(届け出ずに最終仕入原価法になっている場合を含む)を変えるには、所轄税務署長の承認が必要です(法人税法施行令30条1項)。
- 申請の期限:新しい方法を使い始めたい事業年度の開始の日の前日まで(同条2項)。第1期の申告期限までに出す「届出」とは期限の考え方が違います。
- 却下されることがある:今の方法を使い始めてから相当期間を経過していないときや、新しい方法では所得の計算が適正に行われにくいと認められるときは、申請が却下されることがあります(同条3項)。
- みなし承認:その事業年度の終了の日(中間申告書を提出すべき法人は、事業年度開始の日以後6月を経過した日の前日)までに承認・却下の処分がなければ、承認があったものとみなされます(同条5項)。
第1期の申告期限までに最初の届出を出しておけば、変更の承認申請を使わずに希望の方法から始められます。
まとめ
- 法人が選べる評価方法は、原価法6種類(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と低価法。
- 新たに設立した法人は、第1期の確定申告書の提出期限までに事業の種類・資産の区分ごとに届け出る。
- 届け出なければ最終仕入原価法による原価法になる。
- 個人事業のときの届出は所得税の手続き。会社で同じ方法を使うなら会社として届け出る。
- 変更は承認申請が必要で、新しい方法を使う事業年度の開始の日の前日までに出す。
減価償却資産にも、同じく第1期の申告期限までに出す償却方法の届出があります。減価償却資産の償却方法の届出書で、個人と法人で法定の償却方法が違う点を整理しています。法人成り全体の流れは法人成りの手順ガイド、日々の在庫の記帳は個人事業の記帳を参照してください。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(第28条:棚卸資産の評価の方法、第29条:評価の方法の選定と新設法人の届出期限、第30条:評価の方法の変更手続、第31条:法定評価方法は最終仕入原価法)
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(第100条:個人の評価の方法の選定と届出期限、第102条:個人の法定評価方法は最終仕入原価法)
よくある質問
- 棚卸資産の評価方法の届出はいつまでに出しますか?
- 新たに設立した法人は、設立の日を含む事業年度の確定申告書の提出期限までです。仮決算による中間申告書を出す場合は、その提出期限までになります(法人税法施行令29条2項1号)。
- 届出を出さないとどうなりますか?
- 最終仕入原価法による原価法で評価することになります(法人税法施行令31条1項)。
- 個人事業で出した届出は会社に引き継がれますか?
- 個人事業のときの届出は所得税法施行令にもとづく個人の手続きです。会社は新たに設立した法人として、第1期の申告期限までに法人税の届出を出す立場になります。同じ方法を使いたい場合は会社として届け出てください。