会社を手放す3つの出口の手取り比較(株式譲渡・事業譲渡・清算)
同じ価値5,000万円の会社でも、株式を売るか、事業を売って清算するかで、株主の手取りは約4,086万円と約2,481万円になります。税率の根拠は国税庁の公表値で、前提を置いた概算です。
会社の売却・清算会社を手放す出口は、株式譲渡、事業譲渡、清算の3つに分けられます。株主の手元に残る額は、株式譲渡が最も多くなりやすく、事業譲渡のあとに清算して分配を受ける形が最も少なくなりやすいです。理由は、課税される場所と税の種類が違うためです。
この記事では、1つの仮想の会社を3つの出口で手放した場合の手取りを、同じ表で並べます。計算に使う税率は国税庁の公表値で、会社の数字と一部の税率は仮定です。
計算の前提
- 会社は債務のない会社。事業全体の価値は5,000万円で、買い手は株式でも事業でも5,000万円を払うものとします。
- 会社の帳簿上の純資産は1,500万円。内訳は資本金等の額500万円と、利益の積み立て1,000万円です。事業の含み益は3,500万円(5,000万円−1,500万円)です。
- 株主は1人で、株式の取得費は500万円。設立時に500万円を出資したものとします。
- 会社にかかる法人税・住民税・事業税の合計は、利益の30%と仮定。実際の税率は資本金・所在地・所得の大きさで変わります。法人税そのものは、資本金1億円以下の法人で年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です(国税庁 No.5759)。
- 株主個人の課税所得は、受け取った配当のみ。基礎控除などの所得控除と配当控除は考えず、収入の全額に税率をかけた単純な概算です。
3つの出口の手取り比較表
| 項目 | A 株式譲渡 | B 事業譲渡(会社を残す) | C 事業譲渡して清算 |
|---|---|---|---|
| 売るもの | 株式 | 事業 | 事業 |
| 代金を受け取る人 | 株主 | 会社 | 会社 |
| 会社の税金 | なし | 1,050万円 | 1,050万円 |
| 株主の税金 | 9,141,750円 | なし(現金は会社の中) | 14,685,084円 |
| 株主の手取り | 40,858,250円 | 0円(会社に3,950万円) | 24,814,916円 |
| 税金の合計 | 9,141,750円 | 10,500,000円 | 25,185,084円 |
手取りの差は、AとCで約1,604万円です。同じ5,000万円の事業でも、税金の合計は約914万円と約2,519万円になります。
各出口の計算の中身
A 株式譲渡
株主が株式を売ると、譲渡益は他の所得と分けて計算する申告分離課税で、税率は20%(所得税15%+住民税5%)です(国税庁 No.1463)。この税率に、復興特別所得税として所得税額の2.1%が加わり、合計は20.315%です。
譲渡益は、売った額5,000万円から取得費500万円を引いた4,500万円です。4,500万円×20.315%=9,141,750円で、手取りは5,000万円−9,141,750円=40,858,250円です。
B 事業譲渡して会社を残す
事業を売ると、代金は会社に入り、会社に譲渡益が出ます。譲渡益は5,000万円−1,500万円=3,500万円で、30%の仮定では1,050万円が会社の税金です。
会社に残る現金は5,000万円−1,050万円=3,950万円です。株主が現金を受け取らない間は、株主の税金は出ません。ただし、手取りは0円で、会社から取り出すときに配当や役員報酬などで課税されます。
C 事業譲渡して清算
Bの現金3,950万円を、会社を解散・清算して株主に分配します。分配額のうち、会社の資本金等の額(500万円)に対応する部分を超える3,450万円は「みなし配当」で、配当所得として総合課税です(国税庁 No.1536)。
資本金等の額500万円は株式の取得費500万円と同額なので、株式の譲渡所得は0円です。みなし配当3,450万円は、課税される所得金額が1,800万円以上4,000万円未満の区分にあたり、税率は所得税40%・控除額2,796,000円です(国税庁 No.2260)。
所得税は3,450万円×40%−2,796,000円=11,004,000円で、復興特別所得税2.1%を加えると11,235,084円です。住民税は10%として3,450,000円で、株主の税金は合計14,685,084円、手取りは3,950万円−14,685,084円=24,814,916円です。
なぜ差が出るのか
- 株式譲渡は、課税が1回。株主の譲渡益に、一律に近い20.315%がかかります。会社の中の含み益には、会社の税金がかかりません。
- 事業譲渡と清算は、課税が2回。会社の譲渡益に法人税等がかかり、残った現金を株主が受け取るときに、配当として総合課税がかかります。
- 総合課税は、金額が大きいほど税率が上がる。3,450万円のみなし配当は、所得税の累進税率で40%の区分に入ります。株式譲渡の20.315%より高い率です。
清算の流れと、みなし配当が出る仕組みは法人解散から清算結了までの流れで説明しています。自社株を会社に買い取ってもらう場合の扱いは自己株式の取得とみなし配当にまとめています。
この計算に入っていないもの
この記事の数字は、出口ごとの税金の構造を比べるための概算です。実際の判断では、次のものが結果を変えます。
- 買い手の選好。買い手が株式を買うか事業を買うかは、負債の引き継ぎや契約の移転のしやすさで決まります。5,000万円という同じ価格で買ってもらえるとは限りません。
- 配当控除・所得控除。みなし配当には配当控除が使える場合があり、基礎控除などの所得控除もあります。その分、Cの税金は表より少なくなります。
- 役員退職金などの別の取り出し方。会社に残した現金を、配当以外の形で受け取る方法もあります。税の取り扱いが別なので、この表には入れていません。
- 会社側の税金の実際の率。30%は仮定です。所得が800万円以下に収まる年は、法人税の部分は15%で計算されます。
- 消費税・登録免許税・清算の費用。事業譲渡では資産の種類ごとの手続きと費用がかかります。
まとめ
- 株主が受け取る額は、株式譲渡が最も多くなりやすい。仮定の会社で、手取りは約4,086万円。
- 事業譲渡は、会社に法人税等がかかり、現金は会社に残る。個人の手取りにするには、さらに配当などの課税がある。
- 事業譲渡して清算した場合の手取りは約2,481万円で、株式譲渡より約1,604万円少ない。
- 株式譲渡の税率は20.315%、みなし配当は総合課税(所得税5〜45%)で、同じ額でも税率が違う。
- 会社の税率、買い手の希望、他の所得で結果が変わるため、実際の判断は税理士に確かめる。
公式一次情報
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(一般株式等の譲渡益の税率は20%=所得税15%+住民税5%、復興特別所得税は所得税額の2.1%。2026-10-13確認)
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」(課税される所得金額1,800万円〜3,999万9千円は税率40%・控除額2,796,000円。2026-10-13確認)
- 国税庁「No.1330 配当所得があるとき」(配当所得は原則として総合課税。2026-10-13確認)
- 国税庁「No.5759 法人税の税率」(資本金1億円以下の法人は年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%。2026-10-13確認)
- 国税庁「No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合」(残余財産の分配のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当)
よくある質問
- 会社を売るなら、株式譲渡と事業譲渡のどちらが手取りは多くなりますか?
- この記事の仮定の会社では、株式譲渡が約4,086万円、事業譲渡して清算した場合が約2,481万円です。株式譲渡は課税が株主の1回で済み、事業譲渡は会社の税金と株主の税金の2回かかるためです。
- 株式を売ったときの税率はいくらですか?
- 一般株式等の譲渡益は、申告分離課税で所得税15%と住民税5%の合計20%です。復興特別所得税が所得税額の2.1%加わり、合計20.315%です。
- 会社を清算すると、残った現金は非課税で株主に戻りますか?
- 戻りません。分配額のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額は、みなし配当として配当所得になり、総合課税です。
- 事業譲渡のあとに会社を残すと、税金はかかりませんか?
- 事業を売った時点で、会社に譲渡益への法人税等がかかります。株主個人の税金は、会社から現金を受け取るときまで出ません。
- この記事の手取りは、そのまま実際の金額になりますか?
- なりません。会社の税率は30%と仮定し、株主の控除と配当控除は考えていません。実際の金額は、会社の状況と株主の他の所得で変わります。