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社長が亡くなった後の会社|退任登記・株式の相続・解散

代表取締役が亡くなっても、会社は自動では消えません。取締役の退任登記の期限、株式を相続した人の議決権の扱い、解散して清算するか続けるかの判断の順番を順に説明します。

会社法・国税庁で確認済み
編集:個人事業主のお金ラボ編集部 / 運営方針・出典

結論から書くと、代表取締役が亡くなると、その人の取締役としての地位は終わりますが、会社そのものは存続します。株式は相続人に引き継がれ、会社は「代表者がいない状態」になります。

ここから、①退任の登記(変更があってから2週間以内)、②後任の取締役と代表取締役の選任、③会社を続けるか解散するかの決定、の順に進みます。

取締役が本人1人だけの会社では、②が進まないと会社として何も決められなくなる点が、いちばんの落とし穴です。

死亡で何が終わり、何が続くか

株式会社と取締役の関係は「委任」にあたります(会社法第330条)。民法は、委任は受任者の死亡で終了すると定めています(民法第653条第1号)。

このため、亡くなった取締役は、その時点で取締役でなくなります。代表取締役だった場合は、代表の地位も同時になくなります。

項目死亡の影響根拠
取締役・代表取締役の地位終わる(相続されない)民法653条1号、会社法330条
会社の法人格続く(解散の事由に死亡は入っていない)会社法471条
株式相続人が引き継ぐ民法896条
会社への貸付金・会社からの借入金、個人保証相続の対象(相続人が引き継ぐ)民法896条(一切の権利義務を承継)

個人事業主が亡くなった場合は、事業そのものが本人に結びついているため、準確定申告などの手続きが中心になります。個人事業の場合は個人事業主が亡くなったときの消費税の手続きを参照してください。法人は、人と会社が別の存在なので、会社側の手続きが別に必要になります。

ポイント:会社法471条の解散の事由に、代表者の死亡は含まれていません。会社を閉じるには、株主総会で解散を決議する必要があります。何もしなければ、代表者のいないまま会社が残ります。

退任の登記は2週間以内

取締役や代表取締役に変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項)。退任の登記の申請書には、退任を証する書面を付けます(商業登記法第54条第4項)。死亡の場合に具体的にどの書面が使えるかは、管轄の法務局に事前に確認してください。

  • 登録免許税:取締役・代表取締役などに関する事項の変更の登記は1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社は1万円です(国税庁タックスアンサー No.7191)。
  • 数え始め:変更が生じた日が起点です。ただし、後任の取締役を選ぶ前に退任だけを登記するのか、後任の就任とあわせて登記するのかは、会社の状況で変わります。登記の組み立ては司法書士に相談すると確実です。

辞任・解任の場合の登記の流れは取締役の辞任・解任の手続き、代表取締役の交代の手続きは代表取締役の変更手続きで説明しています。死亡の場合も、登記の期限と登録免許税の考え方は共通です。退任した役員が後任の就任まで務める仕組みと、裁判所が選ぶ仮役員の違いは権利義務役員と仮役員にまとめています。

取締役が1人だけの会社の詰まりどころ

他に取締役がいる会社なら、残った取締役が会社を代表できます。会社法は、他に代表取締役その他会社を代表する者を定めた場合を除き、取締役は会社を代表すると定めています(第349条第1項)。代表取締役を新たに定めるときは、取締役会を置いていない会社なら、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、または株主総会の決議によります(同条第3項)。

問題は取締役が亡くなった1人だけだった場合です。取締役が誰もいなくなり、次のことが起きます。

  1. 株主総会で後任の取締役を選ぶ:通常は、株主が総会で取締役を選任します。ただし、株式を相続した人が複数いて、誰が議決権を使うか決まっていないと、決議ができません(次の節)。
  2. 利害関係人が裁判所に申し立てる:役員が欠けた場合、裁判所は、必要があると認めるときに、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任できます(会社法第346条第2項)。選任された人に払う報酬の額は、裁判所が定められます(同条第3項)。
  3. 取引先・金融機関への対応:代表者がいない間は、契約の締結や口座の手続きが止まりやすくなります。実際の取扱いは、取引先ごとに確認が要ります。
注意:会社法第346条第1項の「なお役員としての権利義務を有する」は、任期の満了または辞任で退任した役員の規定です。死亡した役員には当てはまりません。「亡くなった社長が後任が決まるまで続けて代表を務める」ことはできません。

代表取締役の死亡後、後任が決まるまでの空白期間

取締役が他にもいる会社で代表取締役が亡くなった場合、後任の代表取締役が決まるまで、会社を代表する人がいない期間ができます。この期間の扱いは、会社法第351条が定めています。

  • 亡くなった代表取締役は、後任が決まるまで代表を続けられません。同条第1項は、代表取締役が欠けた場合に、任期の満了または辞任で退任した人が、新たに選定された代表取締役が就任するまでなお権利義務を有すると定めています。死亡は、この2つの退任の理由に入っていません。
  • 裁判所に一時代表取締役の職務を行うべき者を選任してもらえます。代表取締役が欠けた場合に、裁判所は、必要があると認めるときに、利害関係人の申立てにより選任できます(同条第2項)。申立先や費用は一時代表取締役の選任申立てで整理しています。
  • 報酬の額は裁判所が定められます。選任した場合、会社がその人に払う報酬の額を、裁判所が定めることができます(同条第3項)。

残った取締役で代表取締役を新たに定められるなら、まずそれを進めるのが基本です。裁判所への申立ては、代表取締役を決める手続きが進まず、契約や登記などの手続きに支障が出るときの手段です。取締役が1人だけで、取締役自体が欠けた場合は、前の節の一時役員(第346条第2項)の選任になります。

株式は相続人のものになる

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます(民法第896条)。相続人が数人いるときは、相続財産は共有になります(民法第898条)。社長が自社株をすべて持っていた場合、その株式は、遺産分割が終わるまで相続人の共有です。

株式が複数人の共有になると、共有者は、権利を行使する人を1人定めて会社に通知しなければ、株主の権利を行使できません。会社が同意した場合は例外です(会社法第106条)。誰も通知しないまま、議決権を使う人が決まらない状態が続くと、後任の取締役の選任も、解散の決議も、株主総会が開けても決議が進みません。

相続人が株主になってほしくない場合

譲渡制限株式(株式の譲渡に会社の承認が必要な株式)については、相続で取得した人に、その株式を会社へ売り渡すよう請求できる旨を、あらかじめ定款に定めておくことができます(会社法第174条)。

請求するたびに株主総会の特別決議が必要で、売渡しの対象になる人は、その総会で議決権を行使できません(第175条、第309条第2項第3号)。定款に定めがなければ、この仕組みは使えません。自社の定款を確認してください。

請求の期限(一般承継を知った日から1年)や価格の決まり方は、相続人等に対する株式の売渡請求で整理しています。相続人が複数いて遺産分割が済んでいないときの議決権は、相続で共有になった株式の議決権で、株主名簿の書換えは相続した株式の名義書換で確認できます。

相続した株式をどう扱い、総会の議事録を誰が作るかは、一人法人の株主総会と議事録が基礎になります。

注意:相続の承認または放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(民法第915条第1項)。株式を放棄すれば、会社への貸付金も、個人保証などの債務も、同時に引き継がないことになります。会社の借入に個人保証を付けていた場合は、相続の方針を決める前に確認が必要です。保証については経営者保証を外す方法があります。

続けるか、解散するかの判断

代表者がいなくなっても、会社を続けるか、閉じるかは、株主が決めることです。判断は、次の観点で整理できます。

選択肢向いている状況必要な手続き
家族が引き継いで続ける後任の取締役になれる相続人がいる。事業の継続意思がある株主総会で後任の取締役を選任し、代表取締役を定め、変更登記をする
第三者に事業を譲る相続人が事業を継げないが、事業に価値がある株式の譲渡(譲渡制限があれば会社の承認)か、事業譲渡。交渉と手続きは個別に異なる
解散して清算する事業を続ける人がいない。債務の整理がつく株主総会で解散を決議し、清算の手続きに進む

解散の決議は特別決議で、議決権を行使できる株主の議決権の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第471条第3号、第309条第2項第11号。出席の定足数は定款で3分の1以上まで下げられます)。決議の要件の詳細は解散の決議の要件、解散後の流れは会社の解散と清算の手続き、手取りを比べたいときは会社を手放すときの手取り比較で確認できます。

債務が資産を上回っていて通常の清算ができない場合は、債務超過の会社の特別清算と破産を参照してください。

税金と退職金の扱い

会社が死亡退職金を払うとき

法人が役員に支給する退職金は、適正な額であれば損金の額に算入されます。損金算入の時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度です(国税庁タックスアンサー No.5208)。

遺族に支払う場合も、支給額を株主総会等で確定させる手続きが先に必要になります。支払いの手続きは役員退職金の支払い手続きで確認できます。

受け取った遺族側の税金

被相続人の死亡によって支給されるはずだった退職手当金や功労金で、死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続または遺贈で取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります(相続税法第3条第1項第2号、国税庁タックスアンサー No.4117)。

  • 非課税限度額:500万円 × 法定相続人の数です。相続人が受け取った退職手当金等の合計がこの額以下なら課税されません(相続税法第12条第1項第7号)。
  • 相続人以外が受け取った場合:非課税の適用はありません。
  • 数え方の注意:法定相続人の数は、相続を放棄した人がいても、放棄がなかったものとした場合の人数です。養子の数には制限があります(国税庁 No.4117)。

退職金の金額の決め方、相続税の申告の期限、会社が受け取る生命保険金の扱いなど、個別の判断は、税理士に確認してください。

生前にできる備え

亡くなった後に動けなくなる原因は、ほとんどが「事前に決めていなかったこと」です。次の項目は、元気なうちに確認できます。

  • 取締役を2人以上にする:一人会社でも、家族や信頼できる人を取締役に加えておくと、取締役が全員いなくなる状態を避けられます。役員が増える場合の注意は役員の人数の決め方を参照してください。
  • 定款を確認する:相続人への売渡請求(会社法第174条)の定めの有無、代表取締役の選び方を確認します。
  • 株式の行き先を決める:遺言や生前の贈与など、誰がどれだけ株式を引き継ぐかを決めておくと、遺産分割の長期化による議決権の停止を避けられます。
  • 会社の情報を残す:銀行の口座、契約、税理士、書類の保管場所を、家族が分かる形でまとめます。
  • 個人保証の有無を確認する:会社の借入に付けた個人保証は、相続の対象になります。

よくある質問

代表取締役が亡くなったら、会社は自動的に解散しますか?
しません。会社法471条の解散の事由に死亡は含まれません。解散するには株主総会の決議が必要です。
亡くなった社長の退任登記はいつまでにしますか?
変更が生じたときから2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をします(会社法第915条第1項)。登録免許税は、資本金1億円以下の会社で1万円です(国税庁 No.7191)。
取締役が社長1人だけだった場合、誰が会社を動かしますか?
株式を相続した人が、株主総会で後任の取締役を選びます。選任が進まない場合は、利害関係人が裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を申し立てられます(会社法第346条第2項)。
株式を相続した人が複数いると、議決権はどうなりますか?
株式は共有になり、権利を行使する人を1人定めて会社に通知しないと、権利を行使できません。会社が同意した場合は例外です(会社法第106条)。
死亡退職金は相続税がかかりますか?
死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続税の課税対象です。相続人が受け取る分は、500万円 × 法定相続人の数まで非課税です(国税庁 No.4117)。

会社を閉じる場合の手続きを確認する

解散を決めた後の登記・税務・社会保険の手続きは、順番に進めると漏れを防げます。

公式情報

本記事について。税理士・司法書士監修前の一般的な整理です。会社の機関設計(取締役会の有無、定款の定め)や相続人の状況で、必要な手続きは変わります。実際の登記・相続・税務の判断は、司法書士・税理士・弁護士に確認してください。