ガイド

相続人等に対する株式の売渡請求|定款・特別決議・1年の期限

社長が亡くなって株式が相続人に分散するのを防ぐため、会社が相続人から株式を買い取る「売渡請求」の仕組みを、会社法第174条〜第177条と第461条の定めで説明します。

会社法
編集:個人事業主のお金ラボ編集部 / 運営方針・出典

法人成りした会社の株式は、社長が亡くなると相続人に引き継がれます。会社の経営に関わらない相続人が株主になり、議決権を持つこともあります。

会社法には、定款に定めておけば、相続した人に株式を会社へ売り渡すよう請求できる仕組みがあります。この記事では、定款の定め方、請求の決議、期限、価格の決まり方、買い取れる金額の上限を、条文で確認できた範囲でまとめます。税金は扱いません。

売渡請求とは

会社法第174条は、株式会社が、相続その他の一般承継によって株式を取得した人に対し、その株式を会社へ売り渡すよう請求できる旨を、定款で定められるとしています。

対象は譲渡制限株式に限られます。相続のほか、合併などの一般承継も含まれます。売買や贈与で株式を取得した人は、この仕組みの対象ではありません。

売渡請求をするのは会社です。相続人の側から、会社に買い取りを求める仕組みではありません。

定款に定める

この仕組みを使うには、あらかじめ定款に定めておく必要があります(第174条)。定款の変更は、株主総会の特別決議で行います(第466条、第309条第2項第11号)。

特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します(第309条第2項)。

相続が起きてから定款を変えても、使えるかどうかは条文から確認できませんでした。相続人が複数いる場合や、すでに相続が始まっている場合は、司法書士・弁護士に確認してください。

請求のたびに必要な株主総会の決議

定款に定めがあっても、会社は請求のたびに、株主総会の決議で次の事項を定める必要があります(第175条第1項)。

  • 請求する株式の数
  • その株式を持つ人の氏名または名称

この決議は、第309条第2項第3号により特別決議です。請求の相手になる人は、この総会で議決権を行使できません。ただし、その人以外の株主の全員が議決権を行使できない場合は除かれます(第175条第2項)。

社長の死亡後の会社の動きは、社長が亡くなった後の会社の記事も参考になります。

請求の期限と撤回

決議のあと、会社は相手に株式を売り渡すよう請求します。請求では、株式の数を明らかにします(第176条第2項)。

請求できる期間には限りがあります。会社が相続などの一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、請求できません(第176条第1項ただし書)。

会社は、いつでも請求を撤回できます(同条第3項)。

売買価格の決まり方

価格は、まず会社と相手の協議で決めます(第177条第1項)。協議が調わないときは、請求があった日から20日以内に、会社または相手が裁判所に売買価格の決定を申し立てられます(同条第2項)。

裁判所は、請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して決めます(同条第3項)。申立てがあれば、裁判所が定めた額が売買価格になります(同条第4項)。

20日以内に申立てがなく、協議も調わなかったときは、請求は効力を失います(同条第5項)。請求したのに価格がまとまらず、そのまま失効する場合がある点に注意してください。

会社が買い取れる金額の上限

会社が株主から株式を買い取る代金は、無制限には払えません。第461条第1項第5号は、第176条第1項の請求に基づく株式の買取りで株主に交付する金銭の総額が、分配可能額を超えてはならないとしています。

分配可能額は、剰余金の額などから計算します(同条第2項)。買い取りの代金が会社の財産の状況に見合うかは、決算書をもとに確認してください。

公式一次情報

まとめ

相続人に株式が分散するのを防ぐには、定款に売渡請求の定めを置き、相続が起きたら株主総会の特別決議を経て、会社が一般承継を知った日から1年以内に請求します。価格は協議で決め、まとまらなければ20日以内に裁判所へ申し立てます。買い取りの代金は分配可能額が上限です。

次に知りたいことは、社長が亡くなった後の会社、株式の譲渡承認の手続き、取締役会を廃止する手続きの記事で確認できます。

よくある質問

相続人から株式を会社が買い取る定めは、必ず定款に必要ですか?
必要です。会社が相続などで株式を取得した人に売渡しを請求できる旨を、定款で定めておくことが前提です(会社法第174条)。対象は譲渡制限株式に限られます。
請求するには、株主総会の決議が要りますか?
請求のたびに、株主総会の特別決議で、請求する株式の数と相手の氏名などを定めます(第175条第1項、第309条第2項第3号)。相手は原則としてこの総会で議決権を行使できません。
相続から何年以内に請求できますか?
会社が相続などの一般承継があったことを知った日から1年を経過すると、請求できません(第176条第1項ただし書)。
価格で折り合えないときはどうなりますか?
請求があった日から20日以内に、会社または相手が裁判所に売買価格の決定を申し立てられます。申立ても協議の成立もなければ、請求は効力を失います(第177条第2項・第5項)。
本記事について。税理士・司法書士の監修前の概説です。定款の定めや相続の状況によって手続きが変わるため、実際に請求するときは司法書士・弁護士に確認してください。