相続で共有になった株式の議決権|権利行使者の指定と会社への通知
社長が亡くなり、相続人が複数いて遺産分割がまだのとき、株主総会の議決権を誰が使えるのか。会社法第106条の権利行使者の指定と、会社への通知の仕組みを条文で整理します。
会社法法人成りした会社の社長が亡くなると、株式は相続人のものになります。相続人が複数いて遺産分割が終わっていないあいだ、その株式は相続人の共有です。
このとき、共有者のうち1人を権利行使者として決め、会社に通知しなければ、議決権などの権利を行使できません(会社法第106条)。この記事では、指定と通知の仕組み、会社からの通知の宛先、遺産分割で共有を解消したときの扱いを、条文で確認できた範囲でまとめます。
相続した株式は、遺産分割まで相続人の共有
民法第898条第1項は、相続人が数人いるときは、相続財産はその共有に属すると定めています。社長が持っていた株式も相続財産なので、遺産分割が終わるまでは、相続人全員の共有です。
議決権は、原則として株式1株につき1個で、単元株式数を定款で定めている会社は1単元につき1個です(会社法第308条第1項)。株式が共有でも、議決権の数が変わるわけではありません。変わるのは、誰が議決権を使えるかという点です。
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権利行使者を1人決めて会社に通知する
会社法第106条は、株式が2人以上の共有に属するときは、共有者が、その株式についての権利を行使する人を1人定め、会社にその人の氏名を通知しなければ、権利を行使できないと定めています。
この「権利」には、株主総会での議決権が含まれます。通知がなければ、共有者のだれも議決権を行使できないのが原則です。
例外もあります。同条ただし書は、会社が権利の行使に同意した場合は、通知がなくても行使できるとしています。
相続の直後に株主総会を開く必要があるときは、まず相続人どうしで権利行使者を決め、氏名を会社へ通知する流れになります。
権利行使者はどうやって決めるか
会社法第106条には、権利行使者を決める人数や方法は書かれていません。共有の管理について、民法第252条第1項は、各共有者の持分の価格の過半数で決めるとしています。
株式のような所有権以外の財産権が数人のものになる場合には、民法第264条が共有の規定を準用します。ただし、法令に特別の定めがあるときは別です。
権利行使者の指定に、この過半数の考え方がそのまま当てはまるかは、条文だけでは確認できませんでした。相続人どうしで意見が割れている場合や、会社の支配権がかかっている場合は、弁護士に確認してください。
会社からの招集通知は誰に届くか
会社が株主に出す通知は、株主名簿に記載した住所に宛てて出せば足ります(会社法第126条第1項)。株式が共有のときは、これにも決まりがあります。
- 共有者は、会社からの通知を受け取る人を1人定め、会社に氏名を通知しなければならない(第126条第3項)。この場合、その人を株主とみなして通知が出される
- この通知がないときは、会社は共有者のうちの1人に通知すれば足りる(同条第4項)
議決権を行使する権利行使者と、通知を受け取る人は、別の規定で定める別の役割です。同じ人にしておくと、総会の案内を受け取った人がそのまま議決権を使えるので、混乱が少なくなります。
権利行使者の通知がないまま共有者の1人が議決権を使った決議は、決議の方法が法令に違反したと評価され得て、決議の日から3か月以内に取消しの訴えの対象になる可能性があります(第831条第1項第1号)。ただし、違反が重大でなく決議に影響しないと裁判所が認めれば、請求は棄却され得ます(同条第2項)。結論は個別の事情によるため、ここでは条文の定めを示すにとどめます。
遺産分割で共有をなくすと
相続人は、遺言で禁じられた場合などを除き、いつでも協議で遺産の全部または一部を分割できます。協議が調わないときは、家庭裁判所に分割を請求できます(民法第907条)。
遺産分割は、相続開始の時にさかのぼって効力を生じます。ただし、第三者の権利を害することはできません(民法第909条)。
株式を1人の相続人が取得する形で分割すれば、その人が単独の株主になり、権利行使者を決める必要はなくなります。分割の内容は、会社の経営を誰が担うかに直結します。社長の死亡後に会社がどう動くかは、社長が亡くなった後の会社の記事で整理しています。
株式の譲渡に会社の承認が要る会社で、相続人が株式を取得した場合の手続きは、相続人等に対する株式の売渡請求と株式の譲渡承認の手続きで確認できます。
相続人が株主名簿に載るための手続きは、相続した株式の名義書換で確認できます。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「会社法」第106条・第126条・第308条・第831条(2026-10-30確認)
- e-Gov法令検索「民法」第252条・第264条・第898条・第907条・第909条(2026-10-30確認)
まとめ
相続人が複数いて遺産分割が済んでいないあいだ、株式は相続人の共有です。議決権などを使うには、共有者のうち1人を権利行使者に定めて会社に通知する必要があります(会社が同意すれば別)。
会社からの通知を受け取る人は、第126条第3項で別に定めます。遺産分割で株式の取得者が決まれば、共有は解消されます。
次に知りたいことは、社長が亡くなった後の会社、相続人等に対する株式の売渡請求、株式の種類と議決権・配当の記事で確認できます。
よくある質問
- 遺産分割が終わる前でも、株主総会で議決権を使えますか?
- 共有者のうち1人を権利行使者として定め、会社に氏名を通知すれば行使できます。会社が行使に同意した場合は、通知がなくても行使できます(会社法第106条)。
- 権利行使者は、相続人の全員一致で決めないといけませんか?
- 会社法第106条には、決め方の定めがありません。民法第252条の持分の価格の過半数の考え方が当てはまるかは条文だけでは確認できないため、争いがあるときは弁護士に確認してください。
- 株主総会の招集通知は、相続人全員に出す必要がありますか?
- 共有者が通知を受け取る人を1人定めて会社に伝えていれば、その人に出せば足ります。伝えていなければ、共有者のうちの1人に出せば足ります(会社法第126条第3項・第4項)。
- 遺産分割で1人が株式を取得したら、権利行使者の通知は要りますか?
- その人が単独の株主になるため、共有を前提とした権利行使者の指定は要りません。株主名簿の名義の扱いは、会社に確認してください。


