個人事業主の賃上げ促進税制|要件・控除率・上限
従業員の給与を前年より増やした青色申告の個人事業主が、増加額の一部を所得税から引ける制度です。根拠は租税特別措置法第10条の5の4です。対象になる事業主、控除率(15%・30%)、控除の上限(調整前事業所得税額の20%)、親族の給与が計算に入らない点を、条文と中小企業庁の資料で整理します。
個人事業主の税金従業員を雇う個人事業主が給与を増やしたとき、増えた額の一部を所得税から引ける制度があります。賃上げ促進税制の個人事業主版で、租税特別措置法第10条の5の4に定められています。
この記事は、使える事業主の条件、控除率、上限と繰越し、数えない給与、手続きを整理します。法人の場合は中小企業向け賃上げ促進税制の記事を見てください。
使える個人事業主の条件
条文では、青色申告書を提出する個人が対象です。白色申告では使えません。
中小企業庁のガイドブックによると、中小企業向けの枠は、常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主が使えます。個人事業主は令和7年分から令和9年分までの各年が対象です。
事業を開始した年と、事業を廃止した年は対象外です(租税特別措置法第10条の5の4第3項)。開業した年は使えず、翌年分から適用を受けられます。
従業員が2,000人以下の事業主は、中堅企業向けの枠も使えると中小企業庁のパンフレットに書かれています。こちらは継続雇用者の給与の増加率で判定する別の枠です。個人事業主の多くは、次に説明する中小企業向けの枠にあたります。
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控除率と上乗せ
中小企業向けの枠は、雇用者給与等支給額が前年より何%増えたかで控除率が決まります。条文の第3項と、中小企業庁の資料の内容は次のとおりです。
| 前年からの増加率 | 控除率 |
|---|---|
| 1.5%以上 | 15% |
| 2.5%以上 | 30% |
控除率に5%が加わる上乗せがあります。その年にくるみん認定、くるみんプラス認定、えるぼし認定(2段階目以上)などを取得した場合や、年末にプラチナくるみん認定などを持っている場合です。
教育訓練費を増やしたときの10%の上乗せは、令和7年度末で廃止されました。中小企業庁のガイドブックでは、個人事業主は令和7年分と令和8年分までが対象です。令和9年分は使えません。
e-Govの条文には取得時点で教育訓練費の上乗せが残っているため、廃止の扱いは中小企業庁の資料に従っています。
計算に入る給与・入らない給与
計算に入るのは、国内の事業所の賃金台帳に載っている使用人への給与等です。パート、アルバイト、日雇いの人も含みます。
入らないのは、個人事業主の特殊関係者です。中小企業庁のガイドブックによると、特殊関係者には、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族が入ります。婚姻関係と同様の事情にある人や、事業主から生計の支援を受けている人も含まれます。
このため、配偶者や子に払う青色事業専従者給与は、増額しても計算に入りません。従業員を雇わず家族だけで営む事業では、この税制は使えません。
中小企業庁のパンフレットによると、退職金など給与所得にならないものは、原則として給与等にあたりません。雇用調整助成金などの雇用安定助成金は、差し引いて計算します。
計算例と上限・繰越し
控除額は、給与の増加額に控除率をかけて求めます。以下は架空の条件での計算です。
| 項目 | 例A | 例B |
|---|---|---|
| 前年の給与等(親族を除く) | 600万円 | 600万円 |
| 当年の給与等 | 620万円 | 630万円 |
| 増加額と増加率 | 20万円(約3.3%) | 30万円(5%) |
| 控除率 | 2.5%以上のため30% | 30% |
| 控除限度額 | 6万円 | 9万円 |
| 調整前事業所得税額(仮定) | 40万円 | 30万円 |
| 上限(税額の20%) | 8万円 | 6万円 |
| その年に引ける額 | 6万円 | 6万円(3万円は繰越し) |
上限は、調整前事業所得税額の20%です(租税特別措置法第10条の5の4第3項)。表の税額は仮定の数字です。
引ききれなかった額は、5年間繰り越せます。繰越しを使う年も、その年の控除とあわせて税額の20%が上限です。繰越しをする年は、未控除額が出た年の申告で明細書を提出する必要があると、中小企業庁のパンフレットに書かれています。
手続き
条文第7項は、確定申告書に、控除の対象になる給与等の増加額と、控除を受ける金額の計算に関する明細を記載して提出することを、適用の条件にしています。申告前の届出は、条文に定めがありません。様式と記載方法は、国税庁と中小企業庁の最新の案内で確認してください。
賃上げの原資に助成金を使う場合は、業務改善助成金の記事とキャリアアップ助成金の記事もあわせて見てください。
まとめ
- 青色申告の個人事業主が、給与等の支給額を前年より増やすと、所得税から控除できる。
- 常時使用する従業員が1,000人以下なら、1.5%以上の増加で15%、2.5%以上で30%を控除できる。
- 控除額の上限は調整前事業所得税額の20%で、引ききれない額は5年間繰り越せる。
- 親族への給与(青色事業専従者給与を含む)は計算に入らない。
- 開業した年と廃止した年は使えない。
- 教育訓練費の上乗せは、個人事業主は令和8年分までで、令和9年分は使えない。
よくある質問
- 白色申告でも賃上げ促進税制は使えますか?
- 使えません。租税特別措置法第10条の5の4は、青色申告書を提出する個人を対象にしています。
- 控除率はいくらですか?
- 中小企業向けの枠では、給与等の支給額が前年より1.5%以上増えると増加額の15%、2.5%以上増えると30%です。くるみん認定やえるぼし認定などで5%が上乗せされます(出典:租税特別措置法第10条の5の4第3項、中小企業庁パンフレット)。
- 家族に払う専従者給与を上げると対象になりますか?
- なりません。個人事業主の親族などの特殊関係者は、国内雇用者に含まれません(出典:中小企業庁ガイドブック)。
- 開業した年から使えますか?
- 使えません。事業を開始した年は対象から除かれています(出典:租税特別措置法第10条の5の4第3項)。
- 控除の上限はありますか?
- 調整前事業所得税額の20%が上限です。引ききれない額は5年間繰り越せます(出典:同条第3項・第4項)。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」第10条の5の4(対象者・控除率・上限・繰越し・開業年の除外。2026-10-26確認)
- 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(特殊関係者・教育訓練費の上乗せの廃止・個人事業主の対象年。2026-10-26確認)
- 中小企業庁「賃上げ促進税制」パンフレット(令和8年6月時点版)(令和9年分の控除率・従業員数の区分・繰越しの明細書。2026-10-26確認)
- 中小企業庁「賃上げ促進税制」(2026-10-26確認)

