出向者の社会保険・労働保険|保険ごとの入り先と手続き
従業員が他の会社へ出向するとき、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険をどちらの会社で扱うかを、厚生労働省と日本年金機構の公表資料で確認します。
厚生労働省・日本年金機構出向元の会社に籍を残したまま別の会社で働く「在籍型出向」では、給与の払い方によって、社会保険と労働保険の入り先が変わることがあります。保険ごとに決め方が違うため、まとめて同じ会社になるとは限りません。
この記事では、保険ごとの考え方と必要な手続きを説明します。
保険ごとの入り先の考え方(早見表)
厚生労働省のハンドブックは、給与の支給方法を主に次の2つとしています。出向先が出向者へ直接払う方法と、出向先が出向元へ給与負担金を払い、出向元が出向者へ払う方法です。そのうえで、保険ごとの扱いを次のように示しています。
| 保険 | 入り先の考え方 | 問い合わせ先 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 使用関係があり報酬が支払われている企業(一方または双方)で適用を受ける | 事業所を管轄する年金事務所・健康保険組合 |
| 雇用保険 | 生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ被保険者になる | 最寄りのハローワーク |
| 労災保険 | 出向先の組織に組み入れられ、出向先事業主の指揮監督を受けて働く場合は出向先で適用する | 都道府県労働局・労働基準監督署 |
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健康保険・厚生年金:報酬が払われている会社で入る
ハンドブックによると、出向者は、出向元か出向先のうち、使用関係があり報酬が支払われている企業(一方または双方)で厚生年金保険・健康保険の適用を受けます。
出向元だけが給与を払うなら出向元、出向先だけが払うなら出向先、双方が払うなら双方の事業所で被保険者になります。出向元の会社に籍が残っているというだけでは決まらず、報酬をどちらが払っているかが軸です。
両方の会社で入るときの届出と保険料
出向元と出向先の双方で被保険者になる場合、ハンドブックは、出向者が選択した事業所を主たる事業所として、二以上事業所勤務届を主たる事業所を管轄する年金事務所・健康保険組合へ届け出る必要があると書いています。
日本年金機構の案内では、手続きは次のとおりです。
- 被保険者本人の届出により、主たる事業所を選択し、管轄する年金事務所または保険者等を決める。
- 届書は「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」で、事実発生から10日以内に提出する。
- それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により、標準報酬月額を決める。
- 保険料は、決めた標準報酬月額による保険料額を、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づいて按分する。
この届書は、適用事業所の被保険者になるための資格取得届の提出が前提です。健康保険組合に加入している事業所を選んだ場合は、その組合にも手続きが必要と案内されています。二つの会社で働く場合の社会保険は、会社員の副業法人と二以上事業所勤務でも説明しています。
雇用保険:主たる賃金を受けている会社だけ
雇用保険は、健康保険と違って1社に絞られます。出向元と出向先の双方と雇用関係がある出向者は、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ、雇用保険の被保険者になります。ハンドブックの記載は次の3点です。
- 出向先で被保険者になる場合は、出向元での資格喪失手続きと、出向先での資格取得手続きが必要。
- 失業したときの基本手当の算定は、被保険者になっている企業から支払われた賃金だけが基礎になる。
- そのため、賃金の支払関係はどちらか一方の企業に集約して処理することが望ましい。
つまり、給与を出向元が払っていて被保険者も出向元なら、出向先は雇用保険の手続きをしません。給与負担金のやり取りがあっても、被保険者になる会社は賃金の主たる支払い先で判断します。
労災保険:出向先で適用
労災保険は、働く場所の組織で決まります。ハンドブックは、出向者が出向先企業の組織に組み入れられ、出向先事業主の指揮監督を受けて働く場合は、出向元で支払われている賃金も出向先で支払われている賃金に含めて計算し、出向先企業で労災保険を適用するとしています。
福島労働局の「労働保険対象労働者の範囲」のページも、出向労働者は出向先事業場で適用され、出向元で支払われる分の賃金も出向先に含めて計算するよう案内しています。出向元が給与を払っていても、労災保険料の計算に使う賃金は出向先の分に合算されます。
出向契約で決めておく項目
ハンドブックは、出向契約で定めておくことが考えられる項目の例に「出向負担金、通勤手当、時間外手当、その他手当の負担」と「社会保険・労働保険」を挙げています。保険の入り先は制度で決まる部分があるため、契約には制度に沿った取扱いと、事業主負担分の保険料をどちらが負担するかを書いておきます。
同じハンドブックの出向契約書のひな形には、出向元で健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険の被保険者資格を継続し、事業主負担分の保険料は出向元が負担する、労災保険は出向先で加入し保険料は出向先が負担する、という条文例が載っています。実際の取扱いは、給与の払い方に合わせて決めます。
給与負担金を出向先が出向元へ払う場合の法人税・消費税の扱いは、出向者の給与負担金の税務に整理しています。ハンドブックは、出向元が給与を全額負担して出向先が負担しないときは、出向先が負担すべき給与が出向元から出向先への経済的利益の無償の供与にあたり、出向元で寄附金課税の対象になるとも書いています(法人税法37条)。
公式一次情報
- 厚生労働省「在籍型出向 『基本がわかる』ハンドブック(第3版)」(社会保険・労働保険の取扱い、出向契約書のひな形)
- 日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」(二以上事業所勤務届・10日以内・報酬月額の合算と保険料の按分)
- 福島労働局「労働保険対象労働者の範囲」(出向労働者の労災保険・雇用保険)
よくある質問
- 出向すると、健康保険は出向元と出向先のどちらに入りますか?
- 厚生労働省のハンドブックでは、使用関係があり報酬が支払われている企業(一方または双方)で適用を受けるとされています。給与をどちらが払っているかで決まります。
- 出向元と出向先の両方から給与が出ているときは、どんな手続きが必要ですか?
- 双方で被保険者になる場合は、本人が主たる事業所を選び、事実発生から10日以内に「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。標準報酬月額は双方の報酬月額を合算して決め、保険料は報酬月額に基づいて按分されます。
- 雇用保険を出向元と出向先の両方で掛けることはできますか?
- できません。生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ被保険者になります。出向先で被保険者になる場合は、出向元で資格喪失、出向先で資格取得の手続きが必要です。
- 出向元が給与を全額払っている場合も、労災保険は出向先ですか?
- 出向先の組織に組み入れられ、出向先事業主の指揮監督を受けて働く場合は、出向先で労災保険を適用します。出向元で払われた賃金も、出向先の賃金に含めて計算します。
- 出向者の社会保険料の事業主負担分は、どちらが払いますか?
- 出向契約で負担の取扱いを決めておきます。厚生労働省の契約書ひな形には、出向元で資格を継続し、事業主負担分の保険料は出向元が負担する例が載っています。
まとめ
- 健康保険・厚生年金は、使用関係があり報酬が支払われている企業で入る。双方で入る場合は二以上事業所勤務届を事実発生から10日以内に出す。
- 雇用保険は、主たる賃金を受けている方の1社だけで入る。賃金の支払関係は一方に集約するのが望ましいとされている。
- 労災保険は、出向先の組織に組み入れられ指揮監督を受ける場合は出向先で適用し、出向元で払う賃金も合算して計算する。
- 保険料の負担や給与負担金の取扱いは出向契約で決めておく。判断に迷うときは年金事務所・ハローワーク・労働基準監督署へ確認する。
次に知りたいことは、出向と転籍の違い、出向者の給与負担金の税務、会社員の副業法人は勤務先に伝わるか、法人成りの社会保険手続き(全喪届と新規適用届)です。

