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出向と転籍の違い|本人の同意・労働契約・退職給与の税務

在籍型出向と転籍で、労働契約・本人の同意・退職金の扱いがどう違うかを説明します。

厚生労働省・国税庁の通達
編集:個人事業主のお金ラボ編集部 / 運営方針・出典

グループ会社や取引先へ従業員を送り出す方法には、元の会社に籍を残す「出向」と、元の会社を離れて移る「転籍」があります。見た目は似ていても、労働契約の形と本人の同意の要否が違います。

この記事では、両者の違いを労働契約の面と、退職給与の税務の面から確認します。出向中の社会保険は出向者の社会保険・労働保険、給与負担金の税務は出向者の給与負担金の税務を見てください。

出向と転籍の違い(比較表)

項目出向(在籍出向)転籍(移籍出向)
元の会社との労働契約残る。労働契約の一部が移転する終了する。全部が移転する
本人の同意個別の同意か、就業規則などの整備のどちらかが必要本人の合意が必要。使用者は一方的に命じられない
労働条件出向先での賃金・期間・復帰の方法などを定めるすべて転籍先で決まる
退職給与の税務法人税基本通達9-2-48から9-2-50法人税基本通達9-2-52

労働契約:一部が移るか、全部が移るか

愛知県雇用労働相談センター(厚生労働省の相談窓口)の解説では、転籍は、転籍元と転籍先の合意により、転籍元との労働契約関係を終了させて、新たに転籍先との間に労働契約関係を成立させるものとされています。

同じ解説は、転籍が「転籍出向」や「移籍出向」と呼ばれることもあるとしたうえで、出向が労働契約の一部移転であるのに対し、転籍は全部移転(指揮命令権)で、法的関係が異なると注意しています。

本人の同意:出向は条件つき、転籍は合意が必要

厚生労働省の「労働契約等解説セミナー」は、出向(在籍出向)を命じるには、次のどちらかの条件を満たす必要があるとしています。

  • 労働者本人から個別に同意を得ていること。
  • 出向先での賃金や労働条件、出向の期間、復帰の方法などについて、労働者の利益に配慮した内容が就業規則などで整えられていること。

命令する権限があっても、出向の必要性や対象労働者の選び方などを考慮して権利の濫用と認められる場合は、命令は無効になります。労働契約法14条にも同じ定めがあります。

転籍は扱いが異なります。同じページは、転籍(移籍出向)を行う場合は労働者本人の合意が必要で、使用者が一方的に命じることはできないとしています。参考として、民法625条1項は、使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができないと定めています。

愛知県の解説は、転籍命令は就業規則等の規定があるだけでなく労働者の個別の同意が必要とした裁判例(東京地裁平成4年1月31日判決・三和機材事件)を紹介しています。一方で、入社時などに関連会社への転籍もあることを労働者が了承している事情があれば、改めて合意を得る必要はないとした判決(千葉地裁昭和56年5月25日判決・日立精機事件)もあるとしています。個別の事案は裁判例に左右されるため、判断に迷うときは社会保険労務士や弁護士に確認してください。

転籍後の労働条件と退職金の割増

転籍では労働契約関係が完全に転籍先へ移るため、労働時間、休日、休暇、賃金などの労働条件は、転籍先で決まります。

愛知県の解説は、退職金など転籍に伴い不利益を被る労働者に対して、退職金の割増や転出先で役職につけるよう配慮する措置をとるケースがあると書いています。法的な義務ではなく、実務での配慮の例です。

転籍者の退職給与の税務(法人税基本通達9-2-52)

転籍のとき、元の会社の退職金を払うか、転籍先で在職年数を通算して払うかは会社同士の取り決めです。法人税基本通達9-2-52は、転籍前の在職年数を通算して退職給与を支給することにしている場合の取扱いを定めています。

  • 転籍前の法人と転籍後の法人がそれぞれ転籍者に支給した退職給与の額(相手方の法人を経て支給した金額を含む)は、それぞれの法人における退職給与とする。
  • ただし、他の使用人への支給状況やそれぞれの法人での在職期間などからみて、明らかに相手方の法人が払うべき退職給与の全部または一部を負担したと認められる部分は、相手方の法人に贈与したものとする。

出向の場合の退職給与の負担金は別の通達(9-2-48から9-2-50)が定めています。出向と転籍では参照する通達が異なります。

出向のほうは、前述の出向者の給与負担金の税務の記事に書いています。役員の退職金の支払い手続きは役員退職金の支払い手続きで説明しています。

公式一次情報

よくある質問

出向と転籍の一番の違いは何ですか?
元の会社との労働契約が残るかどうかです。出向は労働契約の一部が移り、元の会社との関係も残ります。転籍は元の会社との労働契約が終了し、転籍先と新たに契約を結びます。
会社は転籍を一方的に命じられますか?
命じられません。厚生労働省の「労働契約等解説セミナー」は、転籍(移籍出向)には労働者本人の合意が必要で、使用者が一方的に命じることはできないとしています。
出向は本人が同意しなくても命じられますか?
個別の同意を得ているか、出向先での賃金・労働条件、期間、復帰の方法などが労働者の利益に配慮して就業規則などで整えられている場合に命じられます。権利の濫用と認められる命令は労働契約法14条により無効です。
転籍すると労働条件はどうなりますか?
労働契約関係が完全に転籍先へ移るため、賃金や休日などの労働条件はすべて転籍先で決まります。
転籍のとき、元の会社の在職年数を通算して退職金を払うと税務はどうなりますか?
法人税基本通達9-2-52により、転籍前後の法人がそれぞれ支給した退職給与は、それぞれの法人の退職給与になります。ただし、相手方が払うべき退職給与を負担したと認められる部分は、相手方に贈与したものとされます。

まとめ

  • 出向は労働契約の一部が移り、転籍は元の会社との契約が終わって全部が移る。
  • 出向は個別の同意か就業規則などの整備が条件。転籍は本人の合意が必要で、一方的には命じられない。
  • 転籍後の労働条件はすべて転籍先で決まる。退職金の割増などの配慮が行われる例がある。
  • 転籍者の退職給与は法人税基本通達9-2-52、出向の退職給与負担金は9-2-48から9-2-50を見る。

次に知りたいことは、出向者の社会保険・労働保険、出向者の給与負担金の税務、会社分割の手続きです。

本記事について。税理士監修前の概説です。個別の事案の判断は、社会保険労務士、弁護士、所轄の税務署または税理士にご確認ください。