法人が受け取る保険金の圧縮記帳|保険差益・限度額・特別勘定
会社の建物・機械などが滅失・損壊し、保険金で代替資産を買うときの圧縮記帳を解説。対象要件、保険差益と圧縮限度額の計算、当期取得・翌期以後の取得・買い替えない場合の違いを整理します。
法人税会社の固定資産が火災・水害などで滅失または損壊し、帳簿価額を上回る保険金を受け取ると、保険差益が生じることがあります。その保険金で同じ種類の代替資産を取得する、または被害資産等を改良する場合は、一定額を圧縮記帳して当期の損金にできます。
| 保険金を受けた後の計画 | 使える可能性がある処理 | 確認点 |
|---|---|---|
| 同じ事業年度に代替資産を取得・改良する | 代替資産等の圧縮記帳 | 保険差益と圧縮限度額を計算し、別表十三(二)を添付 |
| 翌事業年度以後に取得・改良する予定 | 保険差益等に係る特別勘定 | 原則2年の取得予定期間と、予定する資産・金額を確認 |
| 代替資産を取得せず、改良もしない | 保険金の圧縮記帳は使えない | 保険金、被害資産の損失、関連費用を通常どおり計上 |
| 在庫や運転資金に保険金を使う | 固定資産の圧縮記帳は使えない | 対象は代替固定資産の取得または所定の改良 |
圧縮記帳を使える要件
国税庁タックスアンサーNo.5608は、法人が所有する固定資産の滅失または損壊によって保険金・共済金・損害賠償金等を受け、次のように使う場合を対象としています。
- 保険金等の額が確定した日から3年以内に、滅失した固定資産と同じ種類の代替資産を取得する
- 3年以内に、損壊した固定資産または取得した代替資産を改良する
- その代替資産等を、取得または改良の日から事業年度末まで引き続き所有している
保険契約の契約者が法人であるだけでは足りません。被害を受けた固定資産、その帳簿価額、保険金等、滅失等に伴う費用、代替資産の種類と取得価額を対応させて判定します。
所有権移転外リース取引による取得は、この制度の対象から除かれます。また、代替資産は「同じ種類」である必要があるため、被害資産と用途や性質が大きく異なる資産を買う計画は、契約前に税理士または所轄税務署へ確認してください。
この記事の内容を申告書に落とすときの本PR
記事で確かめた内容を、申告書の記入や帳簿の付け方まで一冊で追いたいとき向けです。
保険差益と圧縮限度額の計算
計算は、保険金をそのまま代替資産の取得価額から引くのではありません。まず保険差益を求め、実際に代替資産等へ充てた割合を掛けます。
保険差益 = 保険金等の額 −(被害部分の直前帳簿価額 + 滅失・損壊に伴って支出した経費)
圧縮基礎額 = 代替資産の取得価額・改良費のうち、保険金等の額から関連経費を引いた額まで
圧縮限度額 = 保険差益 × 圧縮基礎額 ÷(保険金等の額 − 関連経費)
代替資産が安く、保険金の全額を取得に充てていないときは、保険差益の全額を圧縮できません。反対に、高い資産を買っても、圧縮基礎額は保険金等から関連経費を引いた額が上限です。
国税庁の数値例で計算
国税庁の例と同じ金額を使います。被害資産の直前帳簿価額は1,000万円、滅失に伴う経費は50万円、保険金等は2,000万円、代替資産の取得価額は3,000万円です。
| 計算段階 | 式 | 金額 |
|---|---|---|
| 保険金等から関連経費を控除 | 2,000万円 − 50万円 | 1,950万円 |
| 保険差益 | 2,000万円 −(1,000万円 + 50万円) | 950万円 |
| 圧縮基礎額 | 3,000万円と1,950万円の少ない方 | 1,950万円 |
| 圧縮限度額 | 950万円 × 1,950万円 ÷ 1,950万円 | 950万円 |
| 直接減額方式による圧縮後の帳簿価額 | 3,000万円 − 950万円 | 2,050万円 |
この例では、代替資産が保険金等から関連経費を引いた額より高いため、保険差益950万円の全額が圧縮限度額になります。実際に損金へ入れる額は、この限度額以内です。
当期取得・特別勘定・買い替えなしの違い
同じ保険金でも、代替資産をいつ取得するかで申告方法が変わります。上の数値例で比較すると、次のように整理できます。
| 選択 | 当期にできる処理 | その後 |
|---|---|---|
| 当期に3,000万円の代替資産を取得 | 最大950万円を圧縮損として損金算入 | 直接減額方式なら圧縮後帳簿価額は2,050万円となり、この金額を基礎に減価償却 |
| 翌期以後に3,000万円の代替資産を取得予定 | 要件を満たせば、最大950万円を特別勘定へ | 予定期間内の取得時に、実際の取得価額等をもとに圧縮限度額を確定 |
| 代替資産を取得・改良しない | 圧縮損は0円 | 新しい資産の取得価額を減らす処理もない |
圧縮記帳は、950万円が永久に非課税になる制度ではありません。直接減額方式では代替資産の帳簿価額を950万円下げるため、その後の減価償却費も圧縮しない場合より少なくなります。保険差益への課税と、代替資産を費用化する時期を対応させるための課税繰延べです。
翌期以後に買うときの特別勘定
保険金等の額が確定した事業年度に代替資産を取得・改良できない場合でも、翌事業年度開始の日から原則2年以内に取得・改良する見込みがあれば、保険差益等に係る特別勘定を設けられる場合があります。
特別勘定へ繰り入れる額は、予定する代替資産等の取得価額を使って限度額を計算します。後に実際の取得価額が予定より少なくなれば、最終的に圧縮できる額も小さくなります。
「保険金の額が確定した日から3年以内」という制度全体の期限と、「翌事業年度開始の日から原則2年以内」という特別勘定の取得予定期間は、起算点が異なります。保険事故の日だけで期限を決めず、保険金額の確定日と事業年度末を記録してください。
申告書と残す資料
圧縮記帳を適用するときは、確定申告書等に「保険金等で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」(別表十三(二))を添付します。特別勘定を使うときも、予定する取得・改良の内容と計算根拠を申告書で示します。
計算と期限を説明できるよう、次の資料を資産ごとにまとめて残します。
- 被害前の固定資産台帳と、被害部分の直前帳簿価額
- 被害状況の写真、廃棄・取壊し・片付け等の請求書
- 保険金等の支払通知書と、金額が確定した日が分かる書類
- 代替資産の契約書・請求書・引渡日・事業供用日が分かる書類
- 被害資産と代替資産が同じ種類であることの説明
- 保険差益、圧縮基礎額、圧縮限度額の計算表
次に確認すること
災害で生じた除却損・修繕費・欠損金の還付は災害で被害を受けた法人の法人税、保険料を支払う側の短期前払・積立部分は法人の損害保険料の経理で整理しています。
保険金がない固定資産の廃棄や有姿除却は固定資産を除却・廃棄したときの税務を参照してください。
よくある質問
- 保険金を受け取ったら、必ず圧縮記帳を使えますか?
- いいえ。被害を受けた固定資産に対応する保険金等で、同じ種類の代替資産を取得するか、被害資産・代替資産を改良するなどの要件が必要です。
- 保険金を受け取った事業年度に代替資産を買えない場合はどうしますか?
- 翌事業年度開始の日から原則2年以内に取得・改良する見込みがあれば、保険差益等に係る特別勘定を設けられる場合があります。予定する資産と取得価額をもとに限度額を計算します。
- 保険差益は、受け取った保険金から被害資産の帳簿価額を引くだけですか?
- 滅失・損壊に伴って支出した経費も引きます。保険差益は、保険金等から、被害部分の直前帳簿価額と関連経費の合計を引いて計算します。
- 代替資産が保険金より安い場合も、保険差益を全額圧縮できますか?
- できるとは限りません。代替資産等の取得価額が小さいと、圧縮基礎額が小さくなり、圧縮限度額も保険差益の全額より少なくなります。
- 圧縮記帳をすると、税金が永久に免除されますか?
- 通常は課税の繰延べです。代替資産の帳簿価額を下げるため、後の事業年度で計上できる減価償却費も小さくなります。
まとめ
- 固定資産の保険金等が確定してから3年以内に、同じ種類の代替資産を取得するか、被害資産等を改良すると圧縮記帳を使える場合がある。
- 保険差益は、保険金等から被害部分の直前帳簿価額と関連経費を引いて計算する。
- 圧縮限度額は、保険差益に、代替資産等へ充てた割合を掛ける。
- 当期に取得できないときは、翌事業年度開始の日から原則2年以内の取得予定を前提に特別勘定を使える場合がある。
- 圧縮記帳は永久免税ではなく、代替資産の帳簿価額と後の減価償却費を減らす課税繰延べ。
公式一次情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.5608「保険金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入」(対象要件、3年以内、保険差益・圧縮限度額、特別勘定、別表十三(二))
- e-Gov法令検索「法人税法」47条〜49条(保険金等で取得した固定資産等の圧縮と特別勘定)
確認日:2026年10月22日。税制・申告様式は改正されることがあります。

