廃業時に残った在庫の所得税|自分で使う・人に贈る・安く売るときの扱い
廃業のときに売れ残った商品を、自宅で使う、知人に譲る、安く売り切るといったことがあります。所得税法は、その処分のしかたによって、商品の時価を売上(総収入金額)に加える場合を定めています。通達の「おおむね70%」の目安とあわせて、処分方法別に整理します。
e-Govと国税庁通達で確認済み事業で売るために持っていた商品(棚卸資産)を、自分や家族のために使った場合(家事消費)は、使った時の価額が事業の売上に加わります(所得税法39条)。人に贈った場合や、著しく低い価額で譲った場合も同じ考え方です(同法40条)。
価額の決め方は、国税庁の所得税基本通達39-1に定めがあります。販売用の商品なら、通常ほかに販売する価額です。「著しく低い」の目安は、通達40-2で、その価額のおおむね70%に満たないときとされています。
所得税法39条・40条が対象にする処分
所得税法39条は、棚卸資産を家事のために消費した場合に、消費した時の価額を、消費した日の属する年分の事業所得などの総収入金額に算入すると定めています。40条は、贈与・遺贈と、著しく低い価額の対価による譲渡について、同じく総収入金額に算入すると定めています。
| 処分のしかた | 根拠 | 総収入金額に加える金額 |
|---|---|---|
| 自分や家族のために消費する(家事消費) | 所得税法39条 | 消費した時における資産の価額 |
| 無償で贈る(贈与) | 所得税法40条1項1号 | 贈与の時における資産の価額 |
| 著しく低い価額で譲る | 所得税法40条1項2号 | 対価の額と譲渡の時の価額との差額のうち、実質的に贈与をしたと認められる金額 |
廃業の年は、残った在庫を片づける場面で、この3つに当たる処分が起きやすくなります。条文が挙げているのは上の3つです。普通の売却や廃棄は、この条文が挙げる事由に含まれていません。
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加える金額の決め方(通達39-1・39-2)
通達39-1は、39条・40条の「価額」を次のように定めています。
| 処分した資産 | 価額の基準 |
|---|---|
| 販売用の資産(商品など) | その時における、通常ほかに販売する価額 |
| それ以外の資産 | その時における、通常売買される価額 |
通達39-2には、家事消費・贈与の特例があります。商品の取得価額以上の金額を帳簿に所定の記載をして事業所得の総収入金額に算入していれば、その金額が39-1の価額に比べて著しく低額(おおむね70%未満)でない限り、認められます。
数字で見ます(架空の設例)。仕入れ値6,000円で、通常の販売価額が10,000円の商品を、自宅で使うとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 通常の販売価額(39-1の価額) | 10,000円 |
| 39-2の特例で認められる下限(取得価額以上、かつ70%以上) | 7,000円(10,000円×70%。取得価額6,000円より高い) |
| 総収入金額に加える金額 | 原則10,000円。特例を使うなら7,000円以上 |
安く売るときの70%の目安(通達40-2・40-3)
通達40-2は、「著しく低い価額の対価による譲渡」を、39-1の価額のおおむね70%に相当する金額に満たない対価による譲渡としています。通達40-3は、実質的に贈与と認められる金額を、39-1の価額から対価の額を引いた差額とする一方で、価額のおおむね70%から対価の額を引いた金額として差し支えないとしています。
通常の販売価額が10,000円の商品を、5,000円で譲る場合の設例です(架空の数字)。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 70%の金額 | 10,000円×70%=7,000円。5,000円はこれに満たないので、著しく低い価額の譲渡に当たる |
| 実質的に贈与と認められる金額(通達40-3の簡便な方法) | 7,000円−5,000円=2,000円 |
| 総収入金額に入る金額 | 実際の売上5,000円+2,000円=7,000円 |
通達40-2の注には、適用されない場面が示されています。譲渡の形をとっていても、商品の型崩れや流行遅れで値引き販売が行われるのが通常の場合は、40条の対象になりません。実質的に広告宣伝の一環として行うときや、金融上の換金処分として行うときも、この規定は適用されないとされています。
廃業前の在庫処分セールで値引き販売をするときは、値引きの理由(型崩れ・季節遅れ・閉店の換金など)が分かる記録を残しておくと説明しやすくなります。
処分方法別の整理
| 処分方法 | 所得税での扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 自宅で使う・家族に使わせる | 消費した日の年分の総収入金額に、通常の販売価額を加える | 所得税法39条、通達39-1 |
| 知人や親族に無償で渡す | 贈与の時の価額を、その日の属する年分の総収入金額に加える | 所得税法40条1項1号、通達39-1 |
| 通常の販売価額の70%以上で売る | 著しく低い価額には当たらない(実際の売上がそのまま収入になる) | 通達40-2 |
| 70%に満たない価額で、知人などに売る | 差額のうち実質的に贈与と認められる金額を、売上に加える(簡便には70%との差額) | 所得税法40条1項2号、通達40-3 |
| 型崩れ・流行遅れなどで値引き販売する、広告宣伝や換金のために売る | 40条の適用はない | 通達40-2の注 |
贈与や低額で譲った相手が、そのあとその商品を事業で売るときの取得価額も、所得税法40条2項が定めています。贈与の場合は40条1項1号の金額、低額譲渡の場合は対価の額と1項2号の金額の合計額を、取得したものとみなして計算します。
廃棄の場合の費用や損失の扱いは、事業の内容や資産の種類で変わります。この記事では確認できた範囲だけを載せているため、廃棄については所轄の税務署や税理士に確認してください。
消費税は別に確認する
所得税の扱いと、消費税の扱いは別の規定です。課税事業者が事業用の資産を家事のために消費した場合などの消費税は、自家消費・役員への贈与と低額譲渡の消費税で整理しています。廃業した年の消費税の手続きは廃業した年の消費税で確認できます。
次に知りたいこと
個人事業主の廃業:廃業時に必要な手続きの全体像
廃業した年の消費税:事業廃止届出書と最後の申告
廃業した後に生じた費用・損失:63条と更正の請求の2か月
よくある質問
- 廃業のときに残った商品を自宅で使うと、所得税はかかりますか?
- 家事消費に当たり、消費した時の価額が消費した日の属する年分の事業所得などの総収入金額に加わります(所得税法39条)。価額は、販売用の商品なら通常ほかに販売する価額です(通達39-1)。
- 商品を知人にただで譲ったときはどうなりますか?
- 贈与の時の価額が総収入金額に加わります(所得税法40条1項1号)。価額の基準は家事消費と同じ通達39-1です。
- どのくらい安く売ると「著しく低い価額」になりますか?
- 通達40-2では、通常ほかに販売する価額のおおむね70%に満たない対価の譲渡が目安です。ただし、型崩れや流行遅れの値引き販売、広告宣伝や換金処分として行う場合は適用されません。
- 家事消費の金額を、通常の販売価額より低くしてもよいですか?
- 通達39-2に特例があります。取得価額以上の金額を帳簿に所定の記載をして総収入金額に算入していれば、通常の価額のおおむね70%未満でない限り認められます。
- 低い価額で譲ったとき、売上に加える差額はどう計算しますか?
- 通達40-3では、通常の価額と対価の額との差額が原則です。通常の価額のおおむね70%から対価の額を引いた金額として差し支えないとされています。
廃業のタイミングで手取りを比べる
年内に廃業する場合と年明けにする場合で、申告が1年分で済むか2年分になるか、手取りがどう変わるかを試算できます。
公式情報
- e-Gov法令検索「所得税法」(第39条 たな卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入、第40条 たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)
- 国税庁「法第39条(たな卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入)関係・法第40条関係」(通達39-1 価額、39-2 特例、40-2 著しく低い価額、40-3 実質的に贈与と認められる金額)

