自家消費・役員への贈与と低額譲渡の消費税
お金をもらっていなくても消費税がかかる3つの場面を、条文と国税庁の通達で整理します。
国税庁の制度消費税は、代金を受け取った取引にかかるのが基本です。ただし、事業で使っていた物を自分や家族の生活のために使ったときや、法人が役員に物を贈ったときは、代金がなくても「売ったもの」として消費税がかかります。これを「みなし譲渡」といいます。
この記事では、みなし譲渡になる場面、法人が役員に安く売ったときの「おおむね50%」の基準、課税される金額の決め方を、消費税法と国税庁の通達で説明します。
みなし譲渡になる3つの場面
| 場面 | だれが | 根拠 | 課税される金額 |
|---|---|---|---|
| 事業用の物を家事のために消費・使用した | 個人事業者 | 消費税法4条5項1号 | 消費・使用した時のその資産の価額 |
| 役員に資産を贈与した | 法人 | 消費税法4条5項2号 | 贈与した時のその資産の価額 |
| 役員に資産を著しく低い価額で譲渡した | 法人 | 消費税法28条1項ただし書 | 譲渡した時のその資産の価額 |
無償の贈与は、通常は資産の譲渡等に当たらないとされています(消費税法基本通達5-1-2)。みなし譲渡は、その例外として法律で決められているものです。
この記事の内容を申告書に落とすときの本PR
消費税の申告やインボイスの扱いを、申告書の記入まで本で確かめたいとき向けです。
個人事業者の自家消費(家事消費)
個人事業者が、棚卸資産(商品など)や、事業の用に供していた棚卸資産以外の資産(車、パソコン、家具など)を、家事のために消費または使用した場合は、事業として対価を得て行った資産の譲渡とみなされます(消費税法4条5項1号)。
- 商品の自家消費:飲食店が店の食材を家族の食事に使う、雑貨店が店の商品を自宅で使う、など。
- 事業用資産の家事使用:事業用に使っていた車を、事業をやめて家族用にする、など。
事業と家事の両方に使う資産は、事業の部分と家事の部分に合理的に分けます。事業の部分に係る対価が、資産の譲渡等の対価になります(消費税法基本通達10-1-19)。
廃業のときに事業用資産が手元に残る場合も、この考え方が関わります。廃業した年の申告は個人事業を廃業した年の消費税で整理しています。
法人が役員に贈与・低額で譲渡したとき
法人が資産を役員に贈与した場合は、その贈与が資産の譲渡とみなされます(消費税法4条5項2号)。役員とは、法人税法2条15号に定める役員です。
贈与でなくても、役員に売る代金が資産の価額に比べて著しく低いときは、その資産の価額を対価の額とみなします(消費税法28条1項ただし書)。国税庁は、この「著しく低いとき」を、次の目安で取り扱っています(消費税法基本通達10-1-2)。
- 譲渡金額が、譲渡時の資産の価額のおおむね50%に満たない場合は、著しく低いときに当たります。
- 棚卸資産については、譲渡金額が次の2つをどちらも満たすなら、著しく低いときには当たらないものとして扱います。(1) その資産の課税仕入れの金額以上であること。(2) 通常他に販売する価額のおおむね50%以上であること。
- 例外:役員と使用人の全部について、一律の値引率や勤続年数などに応じた合理的な基準で普遍的に定めた値引率で売る場合は、この限りではありません。
たとえば、会社の備品を代表者個人に売る場面が典型です。法人成りで個人の資産を会社に移す場面は、個人事業から法人への資産の引き継ぎで扱っています。
課税される金額の決め方と計算例
みなし譲渡の課税標準は、次のとおりです(消費税法28条3項)。
- 家事消費・家事使用:消費または使用した時の、その資産の価額に相当する金額
- 役員への贈与:贈与した時の、その資産の価額に相当する金額
棚卸資産の家事消費と役員への贈与には、申告を簡単にする取扱いがあります。次の(1)(2)の金額以上の金額を対価の額として確定申告書を提出したときは、それが認められます(消費税法基本通達10-1-18)。
- (1) その棚卸資産の課税仕入れの金額
- (2) 通常他に販売する価額のおおむね50%に相当する金額
2つのうち大きいほうの金額以上であればよいことになります。
計算例(棚卸資産を家事消費した場合)
通常の販売価額が100,000円(税抜き)、課税仕入れの金額が70,000円(税抜き)の商品を、自宅で使った場合を考えます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| (1) 課税仕入れの金額 | 70,000円 |
| (2) 通常の販売価額の50% | 50,000円 |
| 課税売上げに入れる金額((1)(2)のうち大きいほう以上) | 70,000円以上 |
| 70,000円を対価の額としたときの消費税等(10%) | 7,000円 |
時価の100,000円で申告する方法もあり、その場合の消費税等は10,000円です。この計算例は説明用の数字で、実際の取引では品目の税率や帳簿の取扱いを確認してください。
対象にならないもの・注意点
- 使用人への贈与:条文は、みなし譲渡の相手を「役員」に限っています。使用人への贈与は、この規定の対象ではありません。
- 役員への「低額譲渡」は法人だけ:著しく低い価額の譲渡を時価とみなす規定は、法人が役員に譲渡した場合の規定です(消費税法28条1項ただし書)。
- 免税事業者:納税義務が免除されている事業者は、みなし譲渡があっても消費税を納める義務はありません。課税事業者かどうかは特定期間の判定や1,000万円を超えたときの記事で確認できます。
- 生活用の資産の売却:個人事業者が生活の用に供している資産を譲渡しても、「事業として」には当たりません(消費税法基本通達5-1-1の注1)。みなし譲渡とは別の話です。
- 法人税・所得税は別の計算:この記事は消費税の扱いだけです。法人税や所得税では、役員への贈与や低額譲渡の扱いが別に決まっているため、実際の取引は税理士または税務署に確認してください。
取引がそもそも課税・非課税・不課税のどれになるかは消費税の取引区分で整理しています。
次に知りたいこと
- 事業をやめたときの消費税の申告と最後の届出は、個人事業を廃業した年の消費税。
- 課税・非課税・不課税・免税の違いは、消費税の取引区分。
- 売上をいつの課税期間に入れるかは、消費税の売上の計上時期。
公式情報
- e-Gov法令検索「消費税法」(4条5項のみなし譲渡、28条1項ただし書・3項の課税標準)
- 国税庁「消費税法基本通達 第10章第1節」(10-1-2 著しく低い価額、10-1-18 自家消費等における対価、10-1-19 家事共用資産)
- 国税庁「消費税法基本通達 第5章第1節」(5-1-1 事業として、5-1-2 対価を得て行われる)
よくある質問
- 事業用の商品を自宅で使うと、消費税がかかりますか?
- 個人事業者が棚卸資産を家事のために消費した場合は、事業として対価を得て行った譲渡とみなされ、課税の対象になります(出典:消費税法4条5項1号)。免税事業者は納税義務がありません。
- 法人が代表者に会社の物を安く売ると、どうなりますか?
- 譲渡金額が資産の価額のおおむね50%に満たないと、その資産の価額で売ったものとみなされます。棚卸資産は、課税仕入れの金額以上かつ通常の販売価額のおおむね50%以上なら、この扱いになりません(出典:消費税法基本通達10-1-2)。
- 従業員に会社の物をあげた場合もみなし譲渡ですか?
- 条文は、みなし譲渡の贈与の相手を役員に限っています(出典:消費税法4条5項2号)。使用人への贈与は、この規定の対象ではありません。
- 課税される金額は、いくらで計算しますか?
- 原則は、消費・贈与した時のその資産の価額です。棚卸資産の家事消費と役員への贈与は、課税仕入れの金額と通常の販売価額のおおむね50%のうち、大きいほうの金額以上で申告することも認められます(出典:消費税法28条3項、基本通達10-1-18)。

