遺族年金、自営業者(国民年金)と法人化後(厚生年金)の違い
万一のときに遺族が受け取れる遺族年金は、国民年金と厚生年金で対象になる遺族の範囲・金額が大きく異なります。子のある配偶者・子に限られる遺族基礎年金と、範囲の広い遺族厚生年金の違いを、日本年金機構の公式情報にもとづき整理します。
日本年金機構の公式情報にもとづく遺族年金は、亡くなった方が加入していた年金制度によって、対象になる遺族の範囲も金額も変わります。個人事業主が加入する国民年金(遺族基礎年金)と、会社員・法人役員が加入する厚生年金(遺族厚生年金)とでは、特に「子がいない配偶者」の扱いに大きな違いがあります。
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金がある
遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者(または被保険者であった方)が亡くなったときに、生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。亡くなった方の加入状況により、遺族基礎年金・遺族厚生年金のいずれか、または両方が支給されます(出典:日本年金機構)。
個人事業主(国民年金第1号被保険者)が亡くなった場合に遺族が対象になり得るのは遺族基礎年金だけで、会社員・法人役員(厚生年金加入者)が亡くなった場合はこれに加えて遺族厚生年金も対象になり得ます。この違いが、次の「対象となる遺族の範囲」に直結します。
自営業者(国民年金):子のある配偶者・子だけが対象
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者である間に死亡したとき等の要件(保険料納付要件を含む)を満たした場合に、生計を維持されていた遺族へ支給されます。対象になるのは「子のある配偶者」または「子」に限られます(出典:日本年金機構)。ここでの「子」は、18歳になった年度の3月31日までの間にあるか、20歳未満で障害等級1級・2級に該当する子です。
令和8年4月分からの年金額は、配偶者が受け取る場合、847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ)に子の加算額を加えた額です。子の加算額は1〜2人目が1人につき243,800円、3人目以降は1人につき81,300円です(出典:日本年金機構)。
子のない配偶者は、遺族基礎年金の対象になりません。個人事業主に子のない配偶者しかいない場合、国民年金からの遺族年金は受け取れないことになります。
会社員・法人役員(厚生年金):対象範囲が広く優先順位で決まる
遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者である間に死亡したとき等の要件を満たした場合に支給されます。対象になる遺族の範囲は遺族基礎年金より広く、優先順位の高い順に「子のある配偶者」「子」「子のない配偶者」「父母(55歳以上、支給開始は60歳から)」「孫」「祖父母(55歳以上、支給開始は60歳から)」となっており、子のない配偶者や父母も対象に含まれます(出典:日本年金機構)。同一順位に複数の対象者がいる場合は、原則として最も優先順位の高い人だけが受け取ります。
年金額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3に相当する額です(出典:日本年金機構)。報酬比例部分は加入期間・平均の給与水準によって個人ごとに異なるため、遺族基礎年金のような一律の金額は示せません。
子のない30歳未満の妻が遺族厚生年金を受け取る場合は、5年間の有期給付となります(出典:日本年金機構)。この年齢・期間の制限は妻について定められたものです。
中高齢寡婦加算:40歳以上で子のない妻への加算
この制度は妻について定められており、確認できた一次資料の範囲では、夫が遺族となる場合の同種の加算は案内されていません。65歳になり自分の老齢基礎年金を受け取るようになると、中高齢寡婦加算に代えて経過的寡婦加算が加算される場合があります(出典:日本年金機構)。
法人成り後でも死亡時の加入制度で決まる
遺族年金にも保険料の納付要件があり、死亡日の前日時点で未納期間が多いと、要件を満たした場合でも支給されないことがあります。納付が難しいときの免除・納付猶予は国民年金保険料が払えないときを参照してください。
法人成りとあわせて考える
個人事業主のまま老後の年金を上乗せするには付加年金・国民年金基金・iDeCoがありますが、これらは老齢年金の上乗せであり、遺族基礎年金の対象範囲を広げるものではありません。障害年金についても同様の非対称性があります。▶ 障害年金、自営業者は3級だと無支給
法人化して厚生年金に加入すると、加入後に発生する死亡についてはこの対象範囲の違いが解消されますが、社会保険料の負担や加入資格の条件も変わります。マイクロ法人と社会保険で解説しているとおり、老齢年金・障害年金・保険料負担まで含めて比較するのが適切です。
よくある質問
- 個人事業主が亡くなったとき、子のいない配偶者は遺族年金をもらえますか?
- 遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」に限られるため、子のない配偶者は対象になりません。個人事業主(国民年金のみ加入)が亡くなり、遺族に子がいない場合、国民年金からの遺族年金は受け取れません(出典:日本年金機構)。
- 法人成りすれば子のない配偶者も遺族年金をもらえますか?
- 厚生年金加入中(またはその要件を満たした後)に死亡すれば、遺族厚生年金は子のない配偶者も対象になり得ます。ただし適用される制度は死亡時点の加入制度で決まるため、法人成り後に厚生年金へ切り替えても、その前に死亡した場合は遺族基礎年金の要件でしか判定されません(出典:日本年金機構)。
- 遺族厚生年金の金額はいくらですか?
- 亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3に相当する額です。報酬比例部分は加入期間・給与水準で個人ごとに異なるため、一律の金額は示せません(出典:日本年金機構)。
- 中高齢寡婦加算は夫が亡くなった場合限定ですか?
- 本記事が確認した一次資料の範囲では、中高齢寡婦加算は夫が亡くなったときに40歳以上で子のない妻(または夫の死亡当時に子があった妻)に加算される制度として案内されており、夫が遺族となる場合の同種の加算は確認できませんでした。個別の適用は年金事務所にご確認ください。
まとめ
- 遺族基礎年金(国民年金)は「子のある配偶者」または「子」だけが対象。子のない配偶者は対象外。
- 遺族厚生年金(厚生年金)は対象範囲が広く、子のある配偶者・子・子のない配偶者・父母・孫・祖父母の優先順位で支給される。
- 遺族厚生年金の額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。子のない30歳未満の妻は5年間の有期給付。
- 40歳以上で子のない妻には中高齢寡婦加算(年額635,500円、令和8年度)が上乗せされる。妻について定められた制度。
- 適用される制度は死亡時点の加入制度で決まるため、法人成り後の厚生年金加入は将来発生する死亡にしか及ばない。
障害年金の国民年金・厚生年金の違いは障害年金、自営業者は3級だと無支給、社会保険料全体の比較はマイクロ法人と社会保険を参照してください。
公式一次情報
- 日本年金機構「遺族年金」関連ページの入り口(遺族基礎年金・遺族厚生年金の各詳細ページへのナビゲーション。亡くなった方の加入状況で支給される年金が変わるという概要は同機構の「遺族年金ガイド(令和8年度版)」PDFに記載)
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」(受給要件、対象遺族の範囲〈子のある配偶者・子〉、令和8年4月分からの年金額・子の加算額を掲載)
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」(受給要件、対象遺族の優先順位、年金額(報酬比例部分の4分の3)、子のない30歳未満の妻の5年間有期給付を掲載)
- 日本年金機構「中高齢寡婦加算」(40歳以上で子のない妻への加算であること、対象期間〈40歳から65歳になるまで〉を掲載。年額635,500円の金額は上記「遺族厚生年金」のページに記載)
- 日本年金機構「経過的寡婦加算」(65歳到達後、中高齢寡婦加算に代わる加算を掲載)