事業譲受の資産調整勘定|時価純資産を超えて払った分を5年で損金にする条件と計算
会社が他社の事業を譲り受け、対価が受け入れた資産・負債の時価純資産より高い(低い)とき、法人税法62条の8の資産調整勘定(差額負債調整勘定)が生じます。対象になる事業譲受の条件、60で割る計算、月数の数え方を整理します。
法人の運営他社の事業を買うとき、代金が受け入れる資産と負債の時価純資産より高くなることがあります。会計では、この差額を営業権(のれん)として扱うことが多い場面です。法人税では、差額の扱いが条文で決まっています。
対価が時価純資産価額を超える部分は資産調整勘定として、当初計上額を60で割った額に事業年度の月数をかけた金額ずつ、損金の額に算入します。対価が時価純資産に満たない場合は、差額負債調整勘定として同じ方法で益金に入ります。
対象になる事業譲受の条件
法人税法62条の8が対象にするのは「非適格合併等」で、適格に当たらない合併、分割、現物出資、事業の譲受けのうち政令で定めるものです。
事業の譲受けについて、法人税法施行令123条の10第1項は、譲渡した法人が行っていた事業と、その事業に係る主要な資産・負債のおおむね全部が、譲受け法人に移転するものと定めています。一部の資産だけを個別に買う場合は、この規定の前提には当たりません。
会社法の事業譲渡の手続きは会社の事業譲渡の手続き、消費税の扱いは事業譲渡の消費税で整理しています。
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資産調整勘定が生じる場合
法人税法62条の8第1項は、譲り受けた側が金銭などで交付した対価の額が、移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超えるときの超える部分を、資産調整勘定の金額とすると定めています。時価純資産価額は、受け入れた資産の取得価額の合計から、負債の額(負債調整勘定の金額を含む)を引いた額です。
| 場合 | 条文上の名前 | 損益への入り方 |
|---|---|---|
| 対価が時価純資産価額を超える | 資産調整勘定 | 損金の額に算入(62条の8第4項・5項) |
| 対価が時価純資産価額に満たない | 差額負債調整勘定 | 益金の額に算入(62条の8第7項・8項) |
60で割る計算と月数の数え方
資産調整勘定を持つ法人は、当初計上額を60で割った額に、その事業年度の月数をかけた金額を、その事業年度の資産調整勘定の金額から減らします。減らした額は、その事業年度の損金の額に算入されます(62条の8第4項・5項)。60か月は5年に当たるため、毎月同じ額ずつ5年間で償却する形になります。
譲り受けた日が属する事業年度の月数は、その日から事業年度終了の日までの期間の月数です。月数は暦に従って数え、1か月に満たない端数は1か月とします(同条11項)。
仮に、時価純資産価額が2,000万円の事業を3,000万円で譲り受け、その日から事業年度の終了日まで6か月ある場合の計算は次のとおりです。これは仕組みを見るための仮の数字です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産調整勘定の当初計上額 | 3,000万円 − 2,000万円 | 1,000万円 |
| 初年度の損金算入額 | 1,000万円 ÷ 60 × 6か月 | 100万円 |
| 2年目以降の1年分(12か月) | 1,000万円 ÷ 60 × 12か月 | 200万円 |
償却の途中で、自社が消える合併(適格合併を除く)をする場合や、残余財産が確定した場合の定めもあります。この場合は、残っている金額を、合併の日の前日、または残余財産の確定の日の属する事業年度終了の時に一度に減額します。解散の流れは法人の解散と清算の流れで扱っています。
差額負債調整勘定と退職給与債務引受け
対価が時価純資産価額に満たないときは、その満たない部分が差額負債調整勘定の金額になります。計算は資産調整勘定と同じで、60で割った額に月数をかけ、その額を益金の額に算入します。
62条の8第2項は、差額負債調整勘定とは別に、次の2つの場合も負債調整勘定の対象にしています。
- 引き継いだ従業者について、退職給与債務引受けをした場合(その額は政令で定める金額)
- 移転を受けた事業に係る将来の債務で、事業の利益に重大な影響を与え、非適格合併等の日からおおむね3年以内に履行が見込まれるもの(履行すべきことが既に確定しているものを除く)の負担を引き受けた場合。金額は、見込まれる損失が移転を受けた資産の取得価額の合計の20%を超えるときの債務の額(施行令123条の10第8項)
退職給与債務引受けは、事業譲受後の退職などの際に、譲渡前の在職期間などを勘案して退職給与を支給すると約し、その負担を引き受けることです。従業員の引継ぎ自体は、会社法側の個別同意の手続きとは別に整理が必要です。
独立取引営業権の扱い
62条の8第1項では、時価純資産価額に含まれる営業権を、政令で定めるものに限っています。施行令123条の10第3項は、それを、営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの(独立取引営業権)としています。
つまり、独立した資産として取引される慣習のある営業権は、受け入れた資産として時価純資産価額に含まれる側です。資産調整勘定は、そうした営業権を含めて計算した時価純資産価額を、対価が超える部分に生じます。どの営業権がこれに当たるかは、取引の実態によって判断が分かれるため、決算前に税理士へ確認してください。
まとめ
- 事業の譲受けのうち、事業と主要な資産・負債のおおむね全部が移転するものが、62条の8の対象になる。
- 対価が時価純資産価額を超える部分は資産調整勘定で、60で割った額に月数をかけて損金に入れる。
- 対価が時価純資産価額に満たない部分は差額負債調整勘定で、同じ計算で益金に入れる。
- 月数は暦で数え、1か月未満の端数は1か月とする。
- 退職給与債務引受けや、おおむね3年以内に履行が見込まれる重要な債務の引受けは、負債調整勘定の対象になる。
次に確認したい論点は、会社分割の手続きと会社の吸収合併の手続きです。
個人事業を譲渡する側の税金は、個人事業の事業譲渡の税金で扱っています。
公式一次情報
- 法人税法 第62条の8(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等。2026-10-25確認)
- 法人税法施行令 第123条の10(事業の譲受けの範囲・独立取引営業権。2026-10-25確認)
よくある質問
- 他社の事業を買うと、のれんは法人税でどう扱われますか?
- 対価が時価純資産価額を超える部分は、資産調整勘定として、当初計上額を60で割った額に月数をかけた金額ずつ損金に算入します(法人税法62条の8)。対象は、事業と主要な資産・負債のおおむね全部が移転する事業の譲受けです。
- 償却の期間は何年ですか?
- 当初計上額を60で割って月数をかけるため、60か月、つまり5年で全額を減らす形です。譲受けの日が属する事業年度は、その日から事業年度終了の日までの月数で計算します。
- 対価が純資産より安かったときはどうなりますか?
- 満たない部分は差額負債調整勘定になり、同じ計算で益金に入ります(法人税法62条の8第3項・7項・8項)。
- 一部の資産だけを買う場合も資産調整勘定になりますか?
- 施行令123条の10第1項が対象にするのは、事業と主要な資産・負債のおおむね全部が移転するものです。一部の資産だけを個別に買う場合は、この規定の対象かどうか、取引の内容を確認してください。

