会社の吸収合併の手続き|特別決議・債権者異議・登記の期限
2つの株式会社を1つにする吸収合併は、合併契約、株主総会の特別決議、債権者への公告と催告、効力発生、登記の順で進みます。会社法の条文と法務局の申請書例で、省ける手続きと登録免許税の計算まで整理します。
法人の運営グループ内の会社を整理したいときや、事業を引き継いでもらうときに、会社を合併する方法があります。解散して清算する方法と違い、消滅する会社の資産と負債は、存続する会社がまとめて引き継ぎます。
株式会社どうしの吸収合併は、両社の株主総会の特別決議、債権者への官報公告(異議を述べる期間は1か月以上)、効力発生日から2週間以内の登記が基本の流れです。この記事は会社法上の手続きを中心に、合併後に税務署と年金事務所へ出す届出の入口まで整理します。適格合併の判定などの税務上の扱いは扱いません。
吸収合併で何が起きるか
吸収合併では、存続する会社(吸収合併存続会社)が、消滅する会社(吸収合併消滅会社)の権利義務を効力発生日に承継します(会社法750条1項)。消滅会社は清算をせずに消えるため、財産の処分や債務の弁済を一つずつ行う必要がありません。
| 方法 | 消える会社の資産・負債 | 手続きの中心 |
|---|---|---|
| 吸収合併 | 存続会社が包括的に承継する | 合併契約・株主総会・債権者保護 |
| 解散と清算 | 清算人が処分・弁済し、残りを株主に分配する | 清算人・債権申出の公告・清算結了 |
清算の流れは会社を解散・清算する手続きで、会社を手放す方法ごとの手取りは会社を手放す3つの出口の手取り比較で扱っています。
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合併契約に定める事項
株式会社が存続する吸収合併では、合併契約に次の事項を定めなければなりません(会社法749条1項)。
- 存続会社と消滅会社の商号と住所
- 消滅会社の株主に交付する金銭等(存続会社の株式・社債・新株予約権・金銭など)の内容と、その割当てに関する事項
- 消滅会社が新株予約権を発行しているときの取扱い
- 効力発生日
消滅会社の株主に存続会社の株式を交付する場合は、その数または算定方法と、存続会社の資本金・準備金の額に関する事項も定めます。金銭を交付する合併もあり、対価を株式にするか金銭にするかは契約で決まります。
株主総会の承認(特別決議)
消滅会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議で合併契約の承認を受けなければなりません(会社法783条1項)。存続会社も、原則として効力発生日の前日までに株主総会で承認を受けます(会社法795条1項)。
この決議は特別決議で、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します(会社法309条2項12号)。定款でこの割合を引き上げることもできます。
次の場合は、株主総会の承認を省くことができます。
| 場合 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 略式合併 | 相手の会社が、自社の総株主の議決権の10分の9以上(定款で上げた場合はその割合)を持つ特別支配会社であるとき、自社の総会が不要になる | 784条1項・796条1項・468条1項 |
| 簡易合併(存続会社側) | 合併の対価が存続会社の純資産額などと比べて5分の1以下(定款で下げた場合はその割合)のとき、存続会社の総会が不要になる | 796条2項 |
略式合併や簡易合併でも、対価が譲渡制限株式である場合など、例外があります。該当するかは条文のただし書きで確認が必要です。また、消滅会社は効力発生日の20日前までに、登録株式質権者などへ合併をする旨を通知または公告します(会社法783条5項・6項)。
債権者保護手続(公告と催告)
合併すると債務者が変わるため、両方の会社の債権者が異議を述べることができます(消滅会社は会社法789条、存続会社は799条)。会社は次の事項を官報に公告し、知れている債権者には各別に催告します。
- 吸収合併をする旨
- 相手の会社の商号と住所
- 両社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
異議を述べることができる期間は、1か月を下ることができません(会社法789条2項ただし書き)。債権者がこの期間内に異議を述べなかったときは、合併を承認したものとみなされます(同条4項)。
異議を述べた債権者には、弁済するか、相当の担保を提供するか、信託会社等に財産を信託します。合併しても債権者を害するおそれがないときは、この対応は不要です(同条5項)。
官報のほかに、定款の定めに従って日刊新聞紙または電子公告でも公告をした場合は、知れている債権者への各別の催告は不要です(同条3項)。ただし、分割で不法行為による債務の債権者に対する催告は例外です。公告方法の定款の定めは公告方法の変更手続きで確認できます。
効力発生と登記
合併の効力は、契約で定めた効力発生日に生じます。合併による消滅会社の解散は、吸収合併の登記の後でなければ、第三者に対抗できません(会社法750条2項)。
登記は、効力が生じた日から2週間以内に、本店の所在地で行います。消滅する会社は解散の登記を、存続する会社は変更の登記をします(会社法921条)。
登録免許税は、法務局の申請書例では次のように示されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 課税標準 | 合併により増加した資本金の額(消滅会社の合併直前の資本金の額として登録免許税法施行規則に定める額を超える部分は区別する) |
| 税率 | 課税標準の1,000分の1.5。施行規則に定める額を超える部分は1,000分の7 |
| 最低額 | 税額が3万円未満のときは3万円 |
たとえば、資本金が増えない合併であれば、課税標準がゼロでも最低額の3万円がかかる計算になります。合併と同時に商号を変えたり役員を選んだりするときは、その変更の登記に別の登録免許税が必要です(申請書例の注記)。
手続きの順番
- 合併の相手と条件を決め、合併契約を結ぶ
- 契約書などを本店に備え置く(会社法782条。効力発生日後6か月を経過する日まで)
- 株主に通知し、株主総会で特別決議により契約を承認する
- 官報公告と知れている債権者への催告を行い、1か月以上の異議申述期間を置く
- 効力発生日に権利義務が存続会社へ移る
- 効力発生日から2週間以内に、消滅会社の解散の登記と存続会社の変更の登記を申請する
効力発生日は、債権者の異議申述期間が終わったあとに設定する必要があります。登記の添付書類には、合併契約書、両社の株主総会議事録、株主リスト、公告や催告をしたことを証する書面などが並びます(法務局の申請書例)。個別の書類は会社の状況で変わるため、管轄の法務局で確認してください。
登記申請や契約書の作成は、司法書士・弁護士の業務の領域です。この記事は手続きの全体像をつかむためのもので、個別の会社の判断に代わるものではありません。
合併後の税務署・年金事務所への届出
登記が終わっても、税務署と年金事務所への手続きが残ります。2026年10月20日に、国税庁・日本年金機構・e-Gov法令検索で確認した範囲を整理します。
| 届出先 | 届出 | 確認できた内容 |
|---|---|---|
| 税務署 | 異動届出書 | 法人の合併をしたときは、異動後速やかに、異動前の納税地を所轄する税務署長へ提出します。添付書類は不要ですが、定款等の写しを確認されることがあります。 |
| 税務署(消費税) | 合併による法人の消滅届出書 | 課税事業者である法人が合併により消滅した場合の手続きで、手続きの対象者は合併法人です。事由が生じたら速やかに提出します。 |
| 年金事務所(消滅する会社) | 被保険者資格喪失届・適用事業所全喪届 | 全喪届には、解散登記のある登記簿謄本のコピーか、雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピーのいずれかを付けます。 |
| 年金事務所(存続する会社) | 被保険者資格取得届(必要に応じて被扶養者(異動)届) | 消滅する会社から引き継ぐ従業員の分を出します。喪失年月日と取得年月日は同じ日にそろえる必要があります。 |
法人税の面では、会社が事業年度の途中で合併により解散したとき、その会社の事業年度は合併の日の前日に終了します(法人税法14条2号)。消滅する会社の最終の事業年度が合併の日の前日で区切られる、という入口の知識です。最終事業年度の申告を誰がいつ出すか、適格合併に当たるかは、事案ごとの確認が必要なので、税理士か所轄の税務署に相談してください。
従業員の社会保険の側からみた会社の解散の手続きは会社を解散するときの社会保険の手続き、会社の一部だけを移す分割の手続きは会社分割の手続きで整理しています。
まとめ
- 吸収合併では、消滅会社の権利義務を存続会社が効力発生日に承継する(会社法750条1項)。
- 合併契約の承認は株主総会の特別決議。略式合併・簡易合併では総会を省ける場合がある。
- 債権者への官報公告と催告が必要で、異議を述べる期間は1か月以上。
- 登記は効力発生日から2週間以内。存続会社の登録免許税は増加資本金の1,000分の1.5、最低3万円。
- 登記のあとは、税務署へ異動届出書、年金事務所へ消滅する会社の全喪届と存続する会社の資格取得届を出す。
次に確認したい論点は、会社分割の手続き、会社の事業譲渡の手続き、会社の解散・清算の流れと株式の譲渡承認の手続きです。
合併のあとの消費税の免税判定は、会社が合併したときの消費税の納税義務で整理しています。
会社を消さずに100%子会社にする方法は、株式交換の手続きで、自社株式を対価に他社を子会社にする方法は株式交付の手続きで扱っています。
公式一次情報
- 会社法 第749条・第750条・第782条・第783条・第784条・第789条・第795条・第796条・第799条・第921条・第309条(合併契約・承認・債権者保護・登記。2026-10-19確認)
- 法務局 株式会社(吸収合併)の登記申請書の記載例(課税標準・税率・添付書類。2026-10-19確認)
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表(令和8年4月1日現在。2026-10-19確認)
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出(合併時の異動届出書の提出先・時期。2026-10-20確認)
- 国税庁 D1-16 合併による法人の消滅届出手続(対象者は合併法人。2026-10-20確認)
- 日本年金機構 Q&A 法人事業所が合併するときの手続き(全喪届・資格喪失届・資格取得届。2026-10-20確認)
- e-Gov法令検索「法人税法」(14条2号。2026-10-20確認)
よくある質問
- 吸収合併に株主総会の決議は必要ですか?
- 原則として、消滅会社と存続会社の両方で、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議が必要です(会社法783条・795条・309条2項12号)。略式合併や簡易合併に当たる場合は、総会を省ける会社があります。
- 債権者への公告と催告は省けますか?
- 債権者保護手続は、合併する両方の会社で必要です。官報に加えて、定款の定めに従った日刊新聞紙または電子公告でも公告した場合は、知れている債権者への各別の催告を省けます(会社法789条3項)。
- 債権者が異議を述べる期間はどれくらい必要ですか?
- 1か月以上です(会社法789条2項ただし書き)。期間内に異議がなければ、債権者は合併を承認したものとみなされます。
- 合併の登記はいつまでにしますか?
- 効力が生じた日から2週間以内です。消滅会社は解散の登記、存続会社は変更の登記をします(会社法921条)。
- 登録免許税はいくらかかりますか?
- 法務局の申請書例では、合併により増加した資本金の額の1,000分の1.5(施行規則に定める額を超える部分は1,000分の7)で、3万円未満のときは3万円とされています。

