個人事業のときの経営力向上計画は法人成りでどうなるか|認定の単位・申請の順番・税制の選び方
設備投資の税制優遇(中小企業経営強化税制)の入口になる「経営力向上計画」について、認定を受けられる事業者の範囲、申請の順番、提出先、受けられる措置を整理します。そのうえで、個人事業の認定が法人成り後にどう扱われるかを、中小企業庁の資料で確認できた範囲と未確認の範囲に分けて示します。
設備を取得する前に認定を受けるのが原則経営力向上計画は、人材育成やコスト管理、設備投資などで自社の経営力を高める計画を作り、国の認定を受ける制度です。認定を受けると、設備を取得したときの税制の特例や、融資の支援などを使えるようになります。
個人事業主のときに受けた認定を、法人成り後の法人がそのまま使えるとする記載は、中小企業庁の手引きでは確認できませんでした。この記事では、確認できた制度の仕組みを先に示し、法人成りとの関係は「未確認」と明記して、確かめ方まで書きます。
認定を受けられる事業者と、申請できる時点
中小企業庁の「経営力向上計画策定の手引き」では、認定を受けられる事業者を「特定事業者等」と呼び、次のように分けて示しています。個人事業主と会社は、別々の区分として並んでいます。
| 区分 | 手引きの記載 |
|---|---|
| 個人事業主 | 常時使用する従業員数が2,000人以下。開業届が提出されていることが必要 |
| 会社(有限会社・士業法人を含む) | 常時使用する従業員数が2,000人以下。法人設立登記がされていることが必要 |
| その他 | 組合、一般社団法人、医業・歯科医業を主たる事業とする法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人など |
つまり、個人事業主は開業届を出した後、会社は設立登記をした後でないと申請できません。開業前や設立前の段階では、この前提を満たせないため申請できないと読めます。
また手引きは、この制度は事業を向上させる計画であり、開業のための計画は対象にならないと書いています。決算を1期も経ていない場合でも申請自体は可能です。
申請の順番と、認定までの日数
税制の特例を受ける設備投資では、順番が大切です。中小企業庁の「支援措置活用の手引き」は、経営力向上設備等について、経営力向上計画の認定を受けてから設備を取得するのが原則と書いています。
- 事業分野を確認する:日本標準産業分類で、自分の事業の分野を調べます。
- 計画を作る:事業分野別の指針がある分野はその指針に沿って、ない分野は基本方針に沿って作ります。
- 設備の証明書・確認書を取る(設備の税制を使う場合):類型によって、工業会の証明書か経済産業大臣(経済産業局)の確認書が要ります。これらも設備の取得前に申請する必要があります。
- 主務大臣に申請する:認定書と申請書の写しが交付されます。
- 設備を取得して事業の用に供する:認定後に取得するのが原則です。
認定までの日数の目安として、手引きは次のように示しています。
- 所管する省庁が1つの場合:約30日
- 複数の省庁にまたがる場合:約45日
- 電子申請(経営力向上計画申請プラットフォーム)で、経済産業部局宛てのみの申請:約14日(休日等を除く。申請書に不備がなく、許認可承継の特例を使わない場合)
不動産取得税の軽減や許認可承継の特例を使う場合は、上の日数に加えて関係機関の判断の日数がかかります。
計画の遡及申請は2か月が限度で、設備の取得は計画の実施期間内に行う必要があります。ただし、手引きの記載では、E類型の税制と事業承継等に関する支援を使う場合は遡及申請ができません。
様式と提出先
申請書は様式第1(表紙)と別紙(計画書)で構成され、宛名は事業分野を所管する大臣です。手引きによると、所管大臣が権限を委任している場合は地方支分部局の長になり、事業を所管する省庁が複数あるときは連名にします。
提出先は事業分野ごとの主務大臣で、分野によって異なります。提出先の一覧は、中小企業庁の「事業分野と提出先」のページに掲載されています。
計画期間は、計画開始の月から数えて3年・4年・5年のいずれかを選びます。申請は、電子申請のプラットフォームか、紙の郵送等で行います。計画づくりは、商工会議所・商工会・士業・地域金融機関などの認定経営革新等支援機関に相談できると手引きに書かれています。
受けられる措置と、税制の選び方
手引きが挙げる支援措置は、税制・金融・法的支援の3種類です。設備を買う個人事業主や小さな会社に関係が深いのは、税制の中小企業経営強化税制です。
| 項目 | 内容(支援措置活用の手引き) |
|---|---|
| 対象者 | 青色申告書を提出する中小企業者等。個人は常時使用する従業員数が1,000人以下 |
| 対象設備 | 認定を受けた計画に基づいて取得した、一定の設備(1台または1基の取得価額が一定額以上) |
| 措置の選択 | 即時償却、または取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円超の法人は7%)。どちらかを選ぶ |
| どの税金か | 法人は法人税、個人事業主は所得税 |
| 税額控除の上限 | その事業年度の法人税額または所得税額の20%(中小企業投資促進税制の控除との合計で。超えた分は翌事業年度に繰り越せる) |
設備の要件は類型で分かれます。A類型は生産性が年平均1%以上向上する設備(工業会の証明書)、B類型は投資利益率が年平均7%以上となる投資計画の設備(経済産業大臣の確認書)です。D類型は事業承継等を行った後に取得する設備、E類型は売上高100億円超を目指す経営規模拡大設備等で、手引きはE類型について、個人事業主は利用できないと明記しています。
金額や適用期限は税制改正で変わります。手引きの記載と、当サイトの法人の経費で紹介している令和8年度税制改正の内容は、適用期限の日付が食い違って見えるため、この記事では期限の日付を書きません。設備を買う前に、最新の中小企業庁のページと財務省の資料で必ず確認してください。
なお、即時償却と税額控除のどちらを選ぶかは、その年の利益と今後の見通しで変わります。税理士に試算を頼むのが確実です。
固定資産税の軽減など、地方税の措置は今回確認した経営力向上計画の手引きには載っていなかったため、この記事では扱いません。
法人成りとの関係(確認できたこと・未確認のこと)
ここからが、個人事業主が法人成りを考えるときの本題です。確認できたことと、確認できなかったことを分けて示します。
確認できたこと
- 個人事業主と会社は、認定を受けられる事業者の別々の区分として並んでいる(手引き)。
- 個人事業主は開業届の提出、会社は法人設立登記が申請の前提になる(手引き)。
- 税制の税額控除・即時償却は、個人が所得税、法人が法人税として適用される(支援措置活用の手引き)。
- E類型は個人事業主が使えず、法人だけが対象になる(支援措置活用の手引き)。
確認できなかったこと(今回は断定しない)
- 個人事業主のときに得た認定を、新しくできた法人が引き継げるか。中小企業庁の2本の手引きに、法人成りや個人から法人への承継の記載は見つかりませんでした。
- 個人の認定に基づいて取得した設備を法人へ移したとき(個人から法人への資産の引継ぎ)、税制の特例がどうなるか。
- 個人の認定の計画期間が残っている間に法人成りをしたとき、変更の手続きが必要か。
手引きの構成から考えられるのは、個人事業主と会社は別の事業者の区分なので、法人になったあとに設備を取得して税制を使いたいなら、法人として認定を受け直す前提で動くのが安全だという点です。ただしこれは筆者の読み方であり、中小企業庁が明記した扱いではありません。個別の事情は、申請先の主務大臣の窓口か、認定経営革新等支援機関に確認してください。
法人成りを予定している人の進め方
- 設備を買う時期を、法人成りの前後どちらにするか決める。個人で認定を受ける場合は開業届済みであること、法人で受ける場合は設立登記後であることが条件になります。
- 認定の前に設備を発注・取得しない。原則は認定後の取得です。手引きには例外として、設備の取得日から60日以内に計画申請書が行政庁に届く場合を認める記載があります。ただしA類型・B類型の証明書や確認書は設備取得より前に取る必要があり、D類型とE類型は例外を使えず、認定は設備を使い始めた事業年度内に受ける必要があります。例外をあてにせず、先に認定を取る段取りにしてください。
- 法人成りの時期は、認定と設備取得の日程に合わせて相談する。法人設立の手順は法人化の手続き、時期の考え方は法人成りのタイミングで整理しています。
- 個人の事業用の設備を法人へ移すなら、税務の扱いも確認する。移し方は資産の引継ぎを参照してください。
- 不明点は、申請先の窓口か認定経営革新等支援機関へ。「個人の認定が法人に引き継げるか」を、書面またはメールで確認して記録に残すと安心です。
まとめ
- 経営力向上計画は、個人事業主(開業届済み)も会社(設立登記済み)も別の区分で申請できる。
- 設備の税制を使うなら、認定を受けてから設備を取得するのが原則。認定までは約14日〜約45日が目安(条件あり)。
- 提出先は事業分野ごとの主務大臣。
- 税制は即時償却か税額控除(10%、資本金3,000万円超の法人は7%)の選択。E類型は個人事業主は使えない。
- 個人の認定が法人成りで引き継がれるかは、中小企業庁の手引きでは未確認。法人として認定を受け直す前提で、窓口に確認する。
公式一次情報
- 中小企業庁「経営力向上支援」(制度の概要、事業分野と提出先の掲載)
- 中小企業庁「経営力向上計画策定の手引き」(令和7年9月1日版)(特定事業者等の範囲、開業届・設立登記の前提、標準処理期間、遡及申請、提出先)
- 中小企業庁「支援措置活用の手引き」(令和8年度税制改正対応版)(中小企業経営強化税制の内容、認定後に設備を取得する原則、E類型)
- 中小企業庁「経営力向上計画の申請について」(申請方法、記載例)
よくある質問
- 個人事業主でも経営力向上計画の認定を受けられますか?
- 受けられます。中小企業庁の手引きでは個人事業主も認定を受けられる事業者に含まれ、開業届が提出されていることが前提です。従業員数は常時2,000人以下が条件です。
- 設備を買った後に認定を受けても、税制の特例は使えますか?
- 原則は、認定を受けてから設備を取得する流れで、手引きは、工業会の証明書や経済産業大臣の確認書も設備の取得前に申請するよう求めています。例外として、設備の取得日から60日以内に計画申請書が行政庁に届く場合を認める記載が手引きにありますが、A類型・B類型の証明書や確認書は先に必要で、D類型とE類型は例外を使えません。個別の事情は申請先の窓口に確認してください。
- 申請書はどこに出しますか?
- 事業分野ごとの主務大臣です。提出先は中小企業庁の「事業分野と提出先」のページで確認できます。電子申請の窓口として経営力向上計画申請プラットフォームもあります。
- 個人事業主のときの認定は、法人成り後の法人に引き継がれますか?
- 中小企業庁の手引きでは、引き継ぎについての記載を確認できませんでした。個人事業主と会社は別の区分として扱われているため、法人になった後に設備を取得して税制を使うなら、法人として認定を受ける前提で申請先の窓口に確認してください。
- 即時償却と税額控除は、どちらを選べばよいですか?
- どちらかを選べます。税額控除は法人税額または所得税額の20%が上限です(中小企業投資促進税制との合計)。利益の額や今後の見通しで有利な方が変わるため、税理士に試算してもらってください。