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廃業した年の貸倒引当金|繰入はできず、前年の引当金は収入に戻る

青色申告で売掛金の5.5%を貸倒引当金として経費にしていた人が事業をやめると、廃業した年は新しい繰入ができず、前年に経費にした分は廃業した年の収入に戻ります。所得税法52条の条文から、その理由と数字への影響を整理します。

e-Govの条文で確認済み
編集:個人事業主のお金ラボ編集部 / 運営方針・出典

貸倒引当金は、年末の売掛金などが将来回収できなくなる見込みを、先に経費にする仕組みです。廃業の年は、事業の全部を廃止した日の属する年には繰入ができず、前年に繰り入れた金額はその年の総収入金額に入ります(所得税法52条1項・3項)。前年に経費を先取りしていた分が、廃業した年にまとめて戻る形です。

貸倒引当金の基本(5.5%の計算と青色申告の条件)は個人事業主の貸倒引当金にまとめています。この記事は廃業した年に固有の扱いだけを扱います。

廃業した年は繰入ができない

所得税法52条は、貸倒引当金に繰り入れた金額を必要経費にできる「各年」から、事業の全部を譲渡し、又は廃止した日の属する年を除くと書いています。条文の構成は次のとおりです。

種類対象根拠
個別評価の引当金更生計画による弁済の猶予など、政令で定める事実があり一部が回収できない見込みの売掛金・貸付金(白色申告でも対象)所得税法52条1項、施行令144条
一括評価の引当金青色申告の事業所得者の売掛金・貸付金など。年末の帳簿価額の合計に、金融業以外は55/1000(5.5%)、金融業は33/1000(3.3%)を掛けた額まで所得税法52条2項、施行令145条

1項のかっこ書きは「次項において同じ」とあるため、2項の一括評価の引当金にも同じ除外がかかります。つまり廃業した年の12月31日時点で売掛金が残っていても、その年の貸倒引当金は計上できません。

ポイント:「年末に売掛金があるから5.5%を経費にする」は、廃業した年には使えません。繰入ができるのは、事業を続ける年だけです。

前年の引当金は廃業した年の収入になる

52条3項は、繰入れをした年に必要経費に入れた貸倒引当金勘定の金額を、翌年分の総収入金額に算入すると定めています。毎年この「戻入れ」をしたうえで、新しい引当金を繰り入れ直す仕組みです。

廃業した年は、前年末に繰り入れた金額の戻入れだけが残り、繰り入れ直しがありません。引当金の分の経費を前倒しにした効果が、廃業した年にいったん終わる形になります。

  • 戻入れの対象は、前年分の必要経費に入れた貸倒引当金勘定の金額(個別評価・一括評価の合計)です。
  • 前年に繰入れをしていない場合は、戻入れそのものがありません。
  • 廃業した人が年の途中で亡くなった場合は別の定め(52条6項、施行令147条)があり、事業を承継した相続人の収入になります。この記事の対象外です。

数字で見る(架空の設例)

青色申告で、前年12月31日の売掛金の帳簿価額が1,000万円、金融業以外の事業の人を例にします(設例の数字は説明用で、住民税や事業税は含みません)。

項目金額・計算
前年に繰り入れた一括評価の引当金1,000万円×5.5%=55万円(前年の必要経費)
廃業した年の戻入れ55万円を総収入金額に算入
廃業した年の繰入れ0円(廃止した日の属する年のため繰入不可)
廃業した年の事業所得への影響戻入れ55万円ぶん所得が増える

前年は55万円ぶん所得が少なく、廃業した年は55万円ぶん多くなります。2年を通して見ると、同じ売掛金について経費にする年と収入に戻す年が入れ替わっただけで、合計の所得は変わりません。

ただし所得税は累進課税のため、各年の所得の大きさ次第で税額は変わります。廃業した年は事業収入が途中で止まりやすく、戻入れを足しても所得全体が小さいことがあります。逆に、廃業した年に給与所得など合算される他の所得が大きいと、戻入れが高い税率の部分に乗ることもあります。

廃業した後に売掛金が回収できなくなったとき

廃業した年の戻入れは、売掛金が回収できるかどうかとは関係なく決まります。そのあとで実際に回収できなくなった場合は、別の定めを見ます。

  • 廃業した年のうちに貸倒れが確定した場合は、事業の遂行上生じた売掛金などの貸倒れによる損失として、その損失の生じた日の属する年分の必要経費になります(所得税法51条2項)。
  • 廃業した後に、事業を続けていれば必要経費になった費用や損失が生じた場合は、廃止した日の属する年分(その年に総収入金額がなかったときは、総収入金額のあった最近の年分)またはその前年分の必要経費に算入する扱いがあります(63条)。売掛金の貸倒れがこれに当たるかどうかは事実関係で変わるため、所轄の税務署で確認してください。
  • 63条を使うときの更正の請求の期限などは、廃業した後に生じた費用・損失で整理しています。

貸倒損失として経費にするのは、貸倒れ(回収不能の確定)などが生じた金額です。引当金のように見込みで先に経費にすることは、廃業した年にはできません。

廃業の年の申告で見落としやすい点

  • 戻入れの計上漏れ:廃業して帳簿を締めるとき、前年の貸倒引当金の戻入れを収入に入れ忘れると、所得が過少になります。前年の申告書や青色申告決算書で、繰り入れた金額を確認してください。
  • 廃業した年の繰入れ:会計ソフトが前年と同じ設定で、年末に自動で繰り入れていないか確認してください。
  • 赤字を戻す手続きとの関係:廃業した年の所得は戻入れで増えます。赤字の繰戻し還付や繰越控除を使う場合も、この戻入れを含めた所得で考えます(廃業した年の赤字の扱い)。

次に知りたいこと

よくある質問

廃業した年にも貸倒引当金を計上できますか?
できません。所得税法52条は、事業の全部を譲渡し、又は廃止した日の属する年を、繰入れができる「各年」から除いています(1項かっこ書き、2項も同じ)。
前年に計上した貸倒引当金はどうなりますか?
廃業した年の総収入金額に算入します(所得税法52条3項)。前年に必要経費にした金額が、翌年である廃業した年の収入に戻ります。
前年に貸倒引当金を計上していなければ何か必要ですか?
戻入れの対象がないため、この記事の手続きは不要です。廃業した年に実際に貸倒れが確定すれば、別途、貸倒損失として必要経費になります(51条2項)。
白色申告でも貸倒引当金の戻入れはありますか?
個別評価の引当金(52条1項)は白色申告でも対象のため、前年に繰り入れていれば戻入れの対象です。一括評価(2項)は青色申告の事業所得者に限られます。
廃業した後に売掛金が貸倒れになったらどうしますか?
廃業した年のうちなら貸倒損失(51条2項)で、廃業した後に生じた損失は63条で廃止した年分またはその前年分に入れる扱いがあります。該当するかは所轄の税務署や税理士に確認してください。

廃業のタイミングで手取りを比べる

年内に廃業する場合と年明けにする場合で、申告が1年分で済むか2年分になるか、手取りがどう変わるかを試算できます。

公式情報

本記事について。税理士監修前の一般的な整理です。個別の事情は所轄の税務署や税理士へご確認ください。