ガイド

インボイス未登録で値下げ要請|問題になる場合

免税事業者が、取引先からインボイス(適格請求書)を理由に値下げや取引停止を求められたとき、独占禁止法・取適法・建設業法で問題になる場合とならない場合を表で比べます。

インボイス
編集:個人事業主のお金ラボ編集部 / 運営方針・出典

取引先が、インボイスの登録がないことを理由に取引条件を見直すこと自体は、直ちに問題になりません。問題になるのは、たとえば買手が優越した立場を使い、免税事業者が仕入れで払った消費税も払えないような低い価格を一方的に決めたり、応じない相手との取引を止めたりする場合です。

線引きは、公正取引委員会の「インボイス制度関連コーナー」に載る、財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の共同Q&A(令和4年1月19日公表、令和8年1月30日改正)に沿っています。登録するかどうかの判断はインボイス登録の判断で扱っています。登録していない側が請求書に書ける記載は免税事業者の請求書の書き方にあります。

そもそも取引に影響が出ない相手

値下げを求められる前に、売上先が次のどれかに当てはまるかを確認します。Q&Aは、免税事業者のままでも取引への影響は生じないと考えられる売上先として、次を挙げています。

  • 売上先が消費者または免税事業者(仕入税額控除を行わないため、インボイスの保存が要りません)。
  • 売上先の事業者が簡易課税制度を適用している(インボイスを保存しなくても仕入税額控除ができます)。
  • 売上先が2割特例を適用している場合も、同様です。
  • 医療や介護など、消費税が非課税のサービスを提供する事業者に、そのサービスのための物品を販売している場合。

これらの売上先では、Q&Aは取引への影響は生じないと考えています。簡易課税は簡易課税制度の解説、2割特例はインボイスの2割特例を見てください。

問題になる場合とならない場合(早見表)

Q&Aが、買手が免税事業者と取引条件を見直す場面を行為類型ごとに示した内容です。いずれも、買手が取引上優越した地位にあることが前提です。

買手の行為公正取引委員会などの考え方
仕入税額控除ができない分を考慮して価格を再交渉し、双方納得の上で決める結果的に価格が下がっても、独占禁止法上問題にならない
再交渉が形だけで、買手の都合のみで、免税事業者が仕入れ時に払った消費税額も払えないような著しく低い価格にする優越的地位の濫用として問題になる
インボイスがないことを理由に、契約後に商品の受領を拒否する優越的地位の濫用として問題になる
価格の据置きを受け入れる代わりに、協賛金などの金銭負担を求める(算出根拠が不明確、または利益に見合わない範囲)優越的地位の濫用として問題になる
価格の据置きの代わりに、取引と関係ない商品・サービスの購入を求める優越的地位の濫用として問題になる
著しく低い価格を一方的に決め、応じない相手との取引を止める独占禁止法上問題となるおそれがある
課税事業者になるよう要請する(要請だけ)それ自体は問題にならない
課税事業者にならなければ価格を下げる、応じなければ取引を打ち切ると一方的に通告する独占禁止法上・取適法上問題となるおそれがある

独占禁止法で問題になるのは、買手の地位が優越していることと、免税事業者が今後の取引への影響を心配して要請を受け入れざるを得ないことが前提です。個別の事案が当てはまるかは、下の相談先で確認してください。

値下げの再交渉で見るところ

Q&Aは、買手が免税事業者から仕入れる場合、仕入税額控除ができない分の価格を考慮して交渉することを否定していません。一方で、免税事業者も仕入れなどで消費税を払っているため、その分を考えずに下げると問題になりえます。

確認する点は次のとおりです。

  • 値下げの理由と、下げ幅の根拠が説明されているか。
  • 自分の仕入れや経費に含まれる消費税を払えない水準になっていないか。
  • 話し合いなしに、買手の都合だけで決められていないか。

買手側にも留意点があります。仕入税額控除の経過措置で、免税事業者からの仕入れでも支払った消費税相当額の一定割合を控除できるため、買手の納税額への影響はこの経過措置の対象外の分に限られます。割合は免税事業者からの仕入れの経過措置で確認できます。

免税事業者が求めに応じて課税事業者になったときも、注意が必要です。新たに納税が必要になる消費税分について、仕入先と明示的に協議せず価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用または取適法上の買いたたきとして、問題になるおそれがあるとされています。

取引停止と、課税事業者になる要請

事業者がどの事業者と取引するかは、基本的に自由です。ただし、Q&Aは、買手が著しく低い価格を一方的に決めて不当に不利益を与え、応じない相手との取引を止めた場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあるとしています。

課税事業者になるよう求めること自体は問題になりません。問題になりうるのは、課税事業者にならなければ価格を下げる、それにも応じなければ取引を打ち切る、と一方的に通告する場合です。免税事業者が価格の維持を求めたのに、理由を書面やメールで回答せずに価格を下げる場合も、これに当たると例示されています。

登録するかどうかを決めるときは、登録の手続をインボイス登録の方法、登録後の負担を法人成りとインボイスで確認できます。

取適法・建設業法の対象になる取引

買手と免税事業者の取引が、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)の委託事業者と中小受託事業者の取引に当たり、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託のどれかに該当する場合は、取適法の規制の対象です。独占禁止法と取適法の両方が使える行為は、通常、取適法が適用されます。

行為取適法の規定(Q&Aによる)
責めに帰すべき理由がないのに、発注時の代金を減らす5条1項3号の代金の減額(免税事業者であることは、責めに帰すべき理由に当たらない)
通常より著しく低い代金を不当に定める5条1項5号の買いたたき
責めに帰すべき理由がないのに受領を拒む、引き取らせる5条1項1号・4号の受領拒否・返品
指定する物の購入や役務の利用を強制する5条1項6号の購入・利用強制
金銭・役務などの経済上の利益を提供させる5条2項2号の不当な経済上の利益の提供要請

建設工事の請負契約では、取適法でなく建設業法が適用されます。Q&Aは、元請負人が下請負人と合意せず代金を一方的に減額し、通常必要な原価に満たなくなる場合は建設業法19条の3の不当に低い請負代金の禁止、使用資材などの購入先を指定して購入させる場合は19条の4の不当な使用資材等の購入強制の禁止に当たりうるとしています。

フリーランス・事業者間取引適正化等法の考え方は、同法Q&AのQ116にあると、公正取引委員会のページが案内しています。

相談先

取適法・建設業法・優越的地位の濫用についての相談先は、Q&Aの別紙に、公正取引委員会の本局と各地方事務所、中小企業庁などの窓口が載っています。公正取引委員会の「インボイス制度関連コーナー」には、寄せられた相談事例と注意事例のPDFもあります。

消費税の仕組みや税額そのものは、税務署に確認してください。

まとめ

  • 売上先が消費者・免税事業者・簡易課税・2割特例のときは、免税事業者のままでも取引への影響は生じないと考えられる(財務省などのQ&A)。
  • 双方納得の上の価格の見直しは、結果的に下がっても問題にならない。
  • 著しく低い価格の一方的な設定、応じない相手との取引停止、課税事業者にならなければ値下げ・打切りという一方的な通告は、問題となるおそれがある。
  • 課税事業者になる要請だけなら問題にならない。課税転換後の価格の据置きも、協議なしだと問題になりうる。
  • 取適法・建設業法の対象なら、減額・買いたたき・購入強制などが個別に禁止される。迷ったら公正取引委員会などの窓口へ。

よくある質問

取引先から「インボイスがないなら値下げしてほしい」と言われました。応じる義務はありますか?
見直しの要請自体は直ちに問題になりません。ただ、買手の都合だけで、仕入れ時に払った消費税額も払えないような著しく低い価格を一方的に決めることは、優越的地位の濫用として問題になります。話し合いで双方が納得して決めるのが前提です(出典:財務省などのQ&A)。
インボイスに登録しないと、取引を打ち切られても仕方ないのですか?
取引先は誰と取引するかを基本的に自由に決められます。ただし、著しく低い価格を一方的に決め、応じない相手との取引を止めた場合は、独占禁止法上問題となるおそれがあります(出典:同Q&A)。
「課税事業者になって」と頼まれることは、それ自体が問題ですか?
要請すること自体は問題になりません。課税事業者にならなければ価格を下げる、応じなければ取引を打ち切るなどと一方的に通告する場合は、独占禁止法上・取適法上、問題となるおそれがあります(出典:同Q&A)。
課税事業者になった後、価格が変わらないのは問題ですか?
新たに納税が必要になる消費税分について、仕入先と明示的に協議せず価格を据え置くことは、優越的地位の濫用または取適法上の買いたたきとして問題になるおそれがあります。協議を求められたのに応じず一方的に据え置くことは、取適法上の協議に応じない一方的な代金決定として問題になるおそれがあります(出典:同Q&A)。
相談はどこにすればよいですか?
取適法・建設業法・優越的地位の濫用に関する相談は、Q&A別紙の公正取引委員会や中小企業庁などの窓口です。税額の質問は税務署か税理士へ(出典:公正取引委員会 インボイス制度関連コーナー)。

公式一次情報

本記事について。税理士監修前の概説です。制度・期限は改正される場合があります。個別の判断は税理士・税務署へご確認ください。