個人事業主の損益通算|事業所得の赤字を給与と相殺できる範囲
事業所得が赤字のとき、給与所得などの黒字と相殺できるかを説明します。対象になる4つの所得、対象外の所得、相殺の順序、架空の計算例を取り上げます。
確定申告・所得税損益通算は、ある所得の赤字を、ほかの所得の黒字から差し引く仕組みです。事業所得の赤字は、給与所得などと損益通算できます。ただし、赤字になった所得が雑所得だと、損益通算はできません。
会社員が副業で赤字を出した場合や、開業初年度に赤字が出た場合に、この違いが税額を左右します。この記事は、損益通算の対象になる所得と順序を整理します。通算しても残る赤字は純損失の繰越控除の解説で扱っています。
損益通算の対象になる4つの所得
所得税法69条は、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つの所得で計算上の損失が出たとき、ほかの所得から差し引くと定めています。国税庁のタックスアンサー(No.2250)も、この4つを損益通算の対象としています。
個人事業主が日常的に関わるのは、事業所得と不動産所得です。事業所得は、売上から必要経費を引いて計算し、必要経費が売上を上回れば赤字になります。
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赤字を他の所得と相殺できない所得
配当所得、給与所得、一時所得、雑所得は、計算上の損失が出ることはあっても、その損失をほかの所得から差し引くことはできません(国税庁タックスアンサー No.2250)。利子所得と退職所得は、そもそも損失が生じません。
副業の赤字は、所得の区分で扱いが分かれます。
| 副業の所得の区分 | 赤字が出たとき |
|---|---|
| 事業所得 | 給与所得などの黒字と損益通算できる |
| 雑所得 | 損益通算できない |
副業の収入が事業所得と雑所得のどちらに当たるかは、事業所得と雑所得の区分の解説で確認できます。
事業所得や不動産所得の中にも、損益通算の対象外になる損失があります。たとえば、別荘など生活に通常必要でない資産の貸付けから生じた不動産所得の損失は、生じなかったものとみなされ、ほかの所得から差し引けません(国税庁タックスアンサー No.2250)。譲渡所得の損失にも、生活に通常必要でない資産の譲渡損失、株式等の譲渡損失、居住用財産以外の土地建物等の譲渡損失のように、通算の制限があるものがあります。
不動産所得の赤字で通算できない4つの損失は、不動産所得の赤字と損益通算の解説で整理しています。
相殺する順序
どの所得から先に差し引くかは、所得税法施行令198条が定めています。個人事業主に関わる部分は次のとおりです。
- 不動産所得または事業所得の赤字は、まず利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得(施行令では「経常所得」と呼びます)の黒字から差し引く。
- 差し引いても残る赤字は、譲渡所得または一時所得の黒字から順に差し引く。
- それでも残る赤字は、山林所得、退職所得の順に差し引く。
順序は自分で選べません。条文の順に自動で差し引かれるため、確定申告書の計算もこの順で進みます。
すべて差し引いても赤字が残る場合は、青色申告などの要件を満たせば、翌年以後に繰り越せます。
架空条件の計算例
次の表は、説明用の架空条件です。給与所得は給与所得控除を引いたあとの金額、所得控除を引く前の合計額で比べています。
| 架空の条件 | 給与所得 | 副業の赤字 | 通算後の合計 |
|---|---|---|---|
| 副業が事業所得で赤字80万円 | 400万円 | △80万円 | 320万円 |
| 副業が雑所得で赤字80万円 | 400万円 | △80万円(通算不可) | 400万円 |
同じ80万円の赤字でも、事業所得なら合計が320万円になり、雑所得なら400万円のままです。税額は、ここから所得控除を引いた課税される所得金額に税率をかけて決まります。
法人にした場合の赤字の扱い
法人成りをすると、事業の赤字は法人の損益になり、個人の給与所得などとは通算されません。法人は個人とは別の納税者として、法人税の申告を行うためです。赤字でもかかる税は法人住民税の均等割の解説で扱っています。
個人事業のうちに赤字を給与と通算して還付を受けるか、法人にするかは、事業の見込みで判断が変わります。法人成りの全体像は個人事業と法人の違いの解説で確認できます。
次に知りたいこと
純損失の繰越控除(通算しても残った赤字を翌年以後に繰り越す要件)
事業所得と雑所得の違い(副業の赤字が通算できるかを分ける区分)
個人事業主の税金の一覧(所得税・住民税・事業税・消費税の全体)
まとめ
- 損益通算の対象は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つの赤字(所得税法69条)。
- 雑所得・給与所得・配当所得・一時所得の赤字は、ほかの所得から差し引けない。
- 順序は施行令198条で決まっており、事業所得の赤字はまず経常所得の黒字から差し引く。
- 副業の赤字を通算したいときは、収入が事業所得と雑所得のどちらに当たるかを先に確認する。
- 法人にすると、法人の赤字は個人の給与所得と通算されない。
よくある質問
- 個人事業主の赤字は給与所得と相殺できますか?
- 事業所得の赤字は、給与所得を含む経常所得の黒字から差し引けます(出典:所得税法69条、同法施行令198条)。
- 副業が雑所得で赤字のとき、損益通算できますか?
- できません。雑所得の損失は、ほかの所得の金額から差し引けないと定められています(出典:国税庁タックスアンサー No.2250)。
- 損益通算の対象になる所得はどれですか?
- 不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の4つです(出典:国税庁タックスアンサー No.2250)。
- 損益通算の順序は選べますか?
- 選べません。所得税法施行令198条が、控除する順序を定めています。
- 通算しても赤字が残ったらどうなりますか?
- 要件を満たせば、純損失として翌年以後に繰り越して控除できます。要件は純損失の繰越控除の解説で確認してください。
公式一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.2250 損益通算(対象になる4つの所得、対象外の所得。2026-10-17確認)
- e-Gov法令検索 所得税法 第69条(損益通算)(2026-10-17確認)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令 第198条(損益通算の順序)(2026-10-17確認)

