役員社宅は社会保険にも効く|賃貸料相当額と現物給与価額の違い
役員社宅は法人税・所得税の「賃貸料相当額」だけでなく、社会保険の「現物給与価額」にも関わります。2つの金額の違いと、本人からいくら徴収すればどちらも成立するかを整理します。
日本年金機構の制度役員社宅について「家賃をいくら徴収すれば経費にできるか」は賃貸料相当額の計算で説明しています。これとは別に、社宅の貸与は社会保険(健康保険・厚生年金保険)の標準報酬月額にも「現物給与」として算入されます。税務の賃貸料相当額と、社会保険の現物給与価額は、計算のもとになる基準も金額も別物です。
この記事では、社会保険の現物給与価額の仕組みと、本人から家賃を徴収している場合の扱いを、日本年金機構の一次資料で整理します。
税務と社会保険で別々に計算する金額(賃貸料相当額と現物給与価額)
役員社宅を貸与すると、次の2つの金額が別々に発生します。
- 税務(所得税)の賃貸料相当額:会社が受け取るべき最低限の家賃。物件の固定資産税課税標準額と床面積から国税庁の算式で計算します。役員がこの金額以上を負担していれば、給与として課税されません。
- 社会保険の現物給与価額:標準報酬月額に算入する社宅の利益額。都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額から計算します。
計算の基準となる資料(物件個別の固定資産税課税標準額か、都道府県一律の価額表か)が違うため、同じ社宅でも税務の賃貸料相当額と社会保険の現物給与価額は一致しません。役員から家賃を徴収する場合、税務・社会保険それぞれの基準を満たしているかを別々に確認する必要があります。
社会保険の現物給与価額(住宅)とは
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」は、住宅の現物給与について次のように定めています。事業主が被保険者に社宅や寮を提供している場合は、都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額に換算して報酬を算出します。
価額を算出する対象になるのは居間、茶の間、寝室、客間等の居住用の室で、玄関、台所、トイレ、浴室、営業用の室(店、事務室等)等は含めません。税務の賃貸料相当額の算式が建物全体の床面積を使うのに対し、社会保険の現物給与価額は居住用の室だけを対象にする点が異なります。
都道府県ごとの価額と、令和8年10月からの変更
住宅の現物給与価額は、都道府県ごとに厚生労働大臣が告示で定めています。令和8年10月1日から、算出方法そのものが変わります。それまでは「居住面積1畳当たりの価額」で計算していましたが、10月1日以降は「総面積1平方メートル当たりの価額」に切り替わります。
価額は都道府県ごとに異なり、告示のたびに改定されます。実際の計算では、その時点で有効な最新の一覧表を必ず確認してください。
価額はどの都道府県で計算するか(勤務地基準)
社宅の所在地と勤務先の都道府県が異なる場合、現物給与価額は社宅の所在地ではなく、被保険者の勤務地(人事・労務・給与の管理を行っている事業所の所在地)の価額で計算します(日本年金機構「全国現物給与価額一覧表」Q&A)。本社と支店が別の適用事業所になっている場合は、それぞれの取り扱いが変わることがあるため、複数事業所がある法人は個別に確認が必要です。
本人負担額の扱い(税務と社会保険の違い)
役員が家賃の一部を負担している場合、都道府県の価額から本人負担分を差し引いた額が、社会保険上の現物給与として報酬に算入されます。負担額が価額と同額以上であれば、住宅の現物給与はゼロになります。
つまり、税務上は「賃貸料相当額以上を徴収すれば給与課税されない」、社会保険上は「都道府県の価額から本人負担分を引いた残額が現物給与として算入される」という、判定の仕組みそのものが異なります。賃貸料相当額を徴収していても、都道府県の現物給与価額の方が高ければ、その差額は社会保険上の現物給与として残ります。
逆に賃貸料相当額を下回る家賃しか徴収していなければ、税務上は給与課税の対象になります。徴収額を決める際は、どちらか一方の基準だけで判断せず、両方を確認してください。
算定基礎届・月額変更届への反映
算定基礎届(4〜6月の報酬をもとに標準報酬月額を決める定時決定)の様式には、通貨で支払われた報酬を記入する欄と、現物で支払われた報酬を記入する欄が分かれており、その合計額が報酬月額になります。住宅の現物給与価額(本人負担分を差し引いた後の額)は、この現物給与の欄に金銭の報酬と合算して記入します。こうして決まった標準報酬月額にもとづく保険料が、役員本人の産前産後休業中に免除されるか、育児休業中はどうなるかは、「一人社長・役員の産休と育休で社会保険料は免除されるか」で整理しています。
社宅の貸与を新たに始めたときや、家賃の徴収額を変えたときに、固定的賃金の変動として月額変更届(随時改定)の対象になるかは、「役員報酬を変えると社会保険はいつ・どう変わる?算定基礎届・月額変更届」で解説しています。現物給与価額の告示自体が改定された場合の扱いは、出典に挙げた算定基礎届のガイドブックでは「固定的賃金の変動」に該当するとされており、月額変更届が必要になる場合があります。
まとめ
- 役員社宅は、税務の「賃貸料相当額」と社会保険の「現物給与価額」という別々の金額が発生する。基準となる資料(物件個別の固定資産税課税標準額か、都道府県一律の価額表か)が違うため、金額は一致しない。
- 社会保険の現物給与価額(住宅)は、都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額を、居住用の室の面積に当てはめて計算する。玄関・台所・浴室・営業用の室は対象に含まない。
- 令和8年10月1日から、住宅の現物給与価額の算出方法が「畳1畳あたり」から「総面積1㎡あたり」に変わる。
- 現物給与価額は、社宅の所在地ではなく勤務地の都道府県の価額で計算する。
- 本人が家賃の一部を負担している場合は、価額から本人負担分を差し引いた額が現物給与になる。食事にある「本人負担が2/3以上ならゼロ」という免除の記載は、住宅には確認できなかった。
- 現物給与価額は、算定基礎届・月額変更届で通貨の報酬と合算して届け出る。
賃貸料相当額の具体的な計算例は役員社宅で家賃を経費にする方法、標準報酬月額の決め方全体は、「役員報酬を変えると社会保険はいつ・どう変わる?」で解説しています。社会保険料全体の目安は社会保険料シミュレーターも参照してください。
公式一次情報
- 日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」(令和8年度)(住宅の現物給与の対象範囲〈居住用の室のみ・玄関等は含まない〉、本人負担分を差し引いた額を算入する扱い、食事にのみ本人負担2/3以上で算入しないとする扱い、算定基礎届の通貨・現物の記入欄の構成。2026-09-19確認)
- 日本年金機構「全国現物給与価額一覧表」(令和8年度)(都道府県ごとの住宅の現物給与価額、令和8年9月30日までと10月1日からの算出方法の違い〈畳1畳あたり→総面積1㎡あたり〉、東京都の価額(2,830円/畳→1,330円/㎡)、社宅の所在地と勤務地が異なる場合は勤務地の価額で計算する扱い。2026-09-19確認)
よくある質問
- 役員社宅の賃貸料相当額を徴収していれば、社会保険の保険料には関係ありませんか?
- 関係します。賃貸料相当額(税務の基準)と現物給与価額(社会保険の基準)は別々に計算され、賃貸料相当額を徴収していても、都道府県の現物給与価額の方が高ければ、その差額は社会保険上の現物給与として標準報酬月額に算入されます。
- 社会保険の現物給与価額はどう計算しますか?
- 都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額を、居間・寝室・客間等の居住用の室の面積に当てはめて計算します。玄関・台所・トイレ・浴室・営業用の室は対象に含みません。令和8年10月1日から、算出方法が「畳1畳あたり」から「総面積1㎡あたり」に変わります。
- 社宅が別の都道府県にある場合、どちらの価額を使いますか?
- 社宅の所在地ではなく、被保険者の勤務地(人事・労務・給与の管理を行っている事業所の所在地)の価額を使います。
- 役員から家賃を徴収していれば、現物給与はゼロになりますか?
- 徴収額が都道府県の現物給与価額と同額以上であればゼロになります。それより少ない場合は、価額から徴収額を差し引いた額が現物給与として算入されます。食事にある「本人負担が価額の2/3以上ならゼロ」という免除の記載は、住宅には確認できませんでした。