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法人の繰延資産:開業費・創立費との違いと、支出の効果が及ぶ期間での償却

繰延資産は、支出した年にまとめて費用にせず、効果が続く期間に分けて費用にする支出です。創立費・開業費など5つの費用と、支出の効果が1年以上に及ぶ費用の違い、償却限度額の計算、20万円未満の特例を、法人税法施行令と法人税基本通達にそって整理します。

法人税
編集:個人事業主のお金ラボ編集部(合同会社フューチャープロンプト) / 運営方針・出典

法人の決算書に「繰延資産」という資産が出てくることがあります。建物を借りるときに払った権利金のように、支出した後も長く効果が続く費用を、いったん資産として計上して、あとから少しずつ費用にしていく考え方です。

法人税の繰延資産は、創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費の5つと、「支出の効果が1年以上に及ぶ」6つ目のグループに分かれ、償却のしかたが違います。前の5つは未償却の残り全額まで、6つ目は効果が及ぶ期間で割った額までが、その年度に費用にできる上限です。

繰延資産に当たる費用の範囲

法人税法施行令14条1項は、法人が支出する費用のうち、資産の取得に要した金額とされるべき費用と前払費用を除いたものから、繰延資産を次のように定めています。

区分内容(条文の定義)
創立費発起人に支払う報酬、設立登記の登録免許税など、法人の設立のために支出する費用で、その法人の負担に帰すべきもの
開業費法人の設立後、事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用
開発費新たな技術・新たな経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓のために特別に支出する費用
株式交付費株券等の印刷費、資本金の増加の登記の登録免許税など、自己の株式の交付のために支出する費用
社債等発行費社債券等の印刷費など、債券の発行のために支出する費用
6号の費用上の5つのほか、支出の効果が支出の日以後1年以上に及ぶもの。公共的施設・共同的施設の設置や改良の費用、資産を賃借するための権利金や立ちのき料、役務の提供を受けるための権利金、広告宣伝用の資産を贈与した費用、その他自己が便益を受けるための費用

前払費用は、一定の契約にもとづき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、事業年度の末日にまだ提供を受けていない分のことです(同条2項)。繰延資産とは別の扱いなので、「1年以上の効果」という言葉だけで両者を混ぜないでください。

設立にかかった費用を会社の負担とすることが定款に書かれていなくても、設立のために通常必要と認められる費用なら創立費に当たります(通達8-1-1)。創立費と開業費の違いや登録免許税の例は法人の創立費・開業費の経理処理、個人事業の開業費は開業費の経費計上で扱っています。

償却限度額の違い(任意償却と均等償却)

法人税法32条1項は、繰延資産の償却費として損金に入れられる金額を、その事業年度に損金経理(決算で費用として経理すること)した金額のうち、支出の効果の及ぶ期間を基礎に政令で計算した償却限度額までとしています。損金経理が前提なので、申告書の上だけで費用にすることはできません。

償却限度額は、施行令64条1項で次の2通りに分かれます。

区分償却限度額特徴
創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費(14条1項1〜5号)繰延資産の額から、すでに損金に入れた償却額を引いた残り全額いつ・いくら費用にするかを選べる(任意償却)
6号の費用繰延資産の額 ÷ 効果の及ぶ期間の月数 × その事業年度の月数毎年の上限が決まる(均等償却)

6号の費用で、支出をした日が属する事業年度の月数は、支出した日から事業年度の末日までの月数で数えます。月数は暦に従って計算し、1か月に満たない端数は1か月にします(同条4項)。

効果が及ぶ期間の決め方

効果の及ぶ期間は、通達8-2-1で、固定資産を利用するために支出した繰延資産ならその固定資産の耐用年数、一定の契約をするために支出した繰延資産ならその契約期間を基礎に、適正に見積もった期間とされています。ただし、通達8-2-3の表に載っている費用は、表の償却期間によります。主なものは次のとおりです。

費用償却期間
建物を賃借するための権利金等で、新築時に建設費の大部分に相当する額を払い、建物の存続期間中賃借できる状況のものその建物の耐用年数の7/10
建物の賃借の権利金等で、契約や慣習で借家権として転売できるもの賃借後の見積残存耐用年数の7/10
上記以外の建物の権利金等5年(契約の賃借期間が5年未満で、更新時に再び権利金の支払が必要なことが明らかなら、その賃借期間)
ノウハウの頭金等5年(設定契約の有効期間が5年未満で、更新時に再び頭金が必要なことが明らかなら、その期間)
同業者団体等の加入金5年

償却期間に1年未満の端数があるときは切り捨てます(8-2-3の注2)。表にない費用や、賃借期間などが個別事情で変わる場合の見積りは、税理士に確認してください。

なお、建物を賃借するときに支払った仲介手数料は、繰延資産ではなく、支払った事業年度の損金に入れられると通達の注意書きにあります(8-1-5の注)。

計算例:建物の権利金を支払ったとき

次は、償却限度額の仕組みを見るための仮の設定です。3月決算の法人が、事務所の賃借に際して、転売できる借家権の定めのない権利金120万円を、10月1日に支払ったとします。通達8-2-3の「上記以外の建物の権利金等」にあたり、契約の賃借期間は5年以上とします。

  • 効果の及ぶ期間:5年 = 60か月
  • 初年度(10月1日〜3月31日):6か月 → 1,200,000円 ÷ 60 × 6 = 120,000円
  • 2年目以降(12か月):1,200,000円 ÷ 60 × 12 = 240,000円

これは費用にできる上限です。決算で損金経理した額が上限を下回れば、損金に入るのはその損金経理した額です。損金経理が上限を超えた部分は、その年度の損金に入りません。

同じ120万円が創立費や開業費であれば、上限は未償却の残り全額です。初年度に120万円を全部費用にしても、数年に分けても、損金経理した金額の範囲で決められます。利益の大きさに合わせて費用にする年を選べるのは、この5つのグループだけです。

20万円未満の費用の特例

施行令134条は、6号の費用(均等償却を行う繰延資産)で、支出する金額が20万円未満のものを、支出した日の属する事業年度に損金経理したときは、その金額を損金に入れるとしています。たとえば15万円の加入金は、5年に分けず、その期に全額を費用にできます。

この特例の対象は6号の費用です。創立費・開業費などは、もともと残り全額を限度に償却できるので、この特例を使う場面はありません。個別の支出が特例の対象になるかは、税理士へご確認ください。

少額の資産を一括で費用にする別の特例は、法人の少額減価償却資産と一括償却資産で整理しています。

まとめ

  • 繰延資産は、施行令14条1項の創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費と、効果が1年以上に及ぶ6号の費用の2系統がある。
  • 5つのグループは、未償却の残り全額まで好きな年に費用にできる(任意償却)。
  • 6号の費用は、額 ÷ 効果の及ぶ期間の月数 × 事業年度の月数が上限(均等償却)。
  • どちらも決算で損金経理することが前提。
  • 効果の及ぶ期間は通達8-2-3の表に定めがあり、建物の権利金は多くの場合5年。
  • 6号の費用で20万円未満なら、支出した期に全額を損金にできる。

決算全体の流れは法人の決算と申告、経費の考え方は法人の経費を確認してください。

公式一次情報

よくある質問

繰延資産とは何ですか?
支出した年にまとめて費用にせず、効果が続く期間に分けて費用にする支出です。法人税法施行令14条1項が、創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費と、支出の効果が1年以上に及ぶ費用を定めています。
開業費と、建物の権利金では、償却のしかたはどう違いますか?
開業費は未償却の残り全額を限度に、好きな年に費用にできます。建物の権利金などの6号の費用は、額を効果の及ぶ期間の月数で割り、事業年度の月数をかけた額が上限です。
賃貸の仲介手数料は繰延資産ですか?
通達8-1-5の注意書きは、建物の賃借に際して支払った仲介手数料は、支払った事業年度の損金に入れられるとしています。繰延資産としては扱いません。
10月に支払った権利金は、初年度に何か月分を償却しますか?
支出した日から事業年度末までの月数です。3月決算で10月1日に支払った場合は6か月分で、1か月に満たない端数は1か月に数えます。
20万円未満の加入金は、分けて償却する必要がありますか?
6号の費用で支出額が20万円未満なら、支出した事業年度に損金経理すれば、その全額を損金に入れられます(施行令134条)。
本記事について。専門家監修前の概説です。2026年10月12日時点の法令・通達と国税庁の公開情報にもとづく一般的な案内で、個別の税務判断に代わるものではありません。実際の判定は、所轄の税務署または税理士へご確認ください。