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法人成りで売掛金・買掛金・取引先はどうなる?債権譲渡と債務引受の考え方

個人事業の売掛金と買掛金を法人へ移す場合と個人に残す場合の違い、債権譲渡の対抗要件、債務引受に債権者が関わる理由、取引先への案内の順番を民法と国税庁の情報で整理します。

民法・取引実務
編集:個人事業主のお金ラボ編集部 / 運営方針・出典

個人事業主と設立した法人は、代表者が同じでも別の権利義務の主体です。法人成りの日に個人の売掛金や買掛金が法人へ自動的に移ることはなく、何もしなければ、個人事業のときに生じた売掛金と買掛金は個人に残ります。

資産の移し方と税務は個人事業から法人への資産引継ぎで扱っています。本記事は、そこで「個人に残す、または債権譲渡」と一言で触れている売掛金と、買掛金・取引先への案内の進め方に絞ります。

売掛金・買掛金・契約・在庫の移し方

取引先まわりで移す対象は4つに分かれます。それぞれ、詳しい解説ページが別にあります。

対象何もしなかったとき詳しい解説
売掛金(回収する側)個人の債権のままこのページ
買掛金(支払う側)個人の債務のままこのページ
継続中の契約個人が契約当事者のまま業務委託契約・賃貸借契約
在庫・設備個人の所有のまま資産引継ぎ

売掛金は個人に残すか債権譲渡か

個人事業の期間に発生した売掛金には、法人成り後の扱いとして2つの選択肢があります。

  • 個人に残す:個人事業の売掛金は個人が回収します。取引先には、期日までは個人名義の請求書と振込先で支払えばよいことを伝えます。
  • 法人へ債権譲渡する:個人が法人へ売掛金を譲り渡します。民法466条1項は、債権は譲り渡すことができると定めています。
判断の目安:回収時期が近い少額の売掛金は、個人に残して回収したほうが取引先への連絡が少なく済みます。回収が長引く売掛金や、法人の資金繰りに組み込みたい売掛金は債権譲渡を検討します。どちらを選ぶかは、取引先ごとの金額と回収時期、帳簿の整理のしやすさで決めます。

個人に残す場合は、法人成り後も個人の預金口座が使えることが前提です。個人口座を閉じる予定があるなら、回収が終わってからにします。

注意:譲渡禁止の特約:取引基本契約に売掛金の譲渡を禁止または制限する定めがあっても、民法466条2項により債権譲渡そのものの効力は妨げられません。ただし、同条3項は、特約を知っていた、または重大な過失で知らなかった譲受人に対して、債務者が履行を拒めると定めています。特約があるかどうかは契約書で確認し、あるときは取引先に事前に相談します。

債権譲渡の対抗要件|通知・承諾と確定日付

民法467条1項は、債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をするか、債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗できないと定めています。法人成りに当てはめると次のとおりです。

立場法人成りでの当事者必要なこと
譲渡人個人事業主売掛金を法人へ譲る合意をし、取引先へ通知する
譲受人新設法人売掛金を譲り受ける
債務者取引先(売掛金を払う側)通知を受ける、または承諾する

同条2項は、この通知または承諾は、確定日付のある証書によらなければ、債務者以外の第三者に対抗できないと定めています。個人が同じ売掛金を別の相手にも譲ったり、個人の債権者が差し押さえたりする場面を想定した規定です。

取引先本人に対しては通知か承諾があれば足り、確定日付が必要になるのは債務者以外の第三者に対抗する場面です。代表者本人と法人の間だけの譲渡であっても、通知か承諾を後から確認できる形(書面または電磁的記録)で残しておくと、入金先を巡る食い違いを避けられます。

買掛金は債権者が関わらないと個人の債務のまま

買掛金や未払金は、取引先(債権者)に対する個人の債務です。売掛金と違い、債務を負う人を、債権者の関与なしに個人から法人へ入れ替えることはできません。

民法472条は、免責的債務引受(債務者が債務を免れ、引受人が同一内容の債務を負担する)の要件を次のように定めています。

  • 債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に効力を生じる(2項)。
  • 債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもできる(3項)。

いずれも債権者が関わる形です。個人と法人の間で「買掛金は法人が払う」と決めても、債権者が関与しない限り、債権者に対しては個人の債務が残ります。実務上は次のどちらかになります。

  • 個人に残して払い切る:個人事業の期間の仕入れや外注費は、期日まで個人の口座から支払う。
  • 債権者と相談して引受にする:取引先が法人への切り替えを望む場合は、債権者を交えた書面で、引き受ける債務の範囲と効力発生日を特定する。

個人名義の借入金は取り扱いが別です。個人名義の借入金はどうなるで金融機関との確認事項を整理しています。

取引先への案内の順番

売掛金・買掛金・継続契約の整理は、次の順で進めると取引先の混乱が少なくなります。

  1. 取引先ごとの一覧を作る:法人成りの日付時点の売掛金、買掛金、継続中の契約、今後の発注予定を取引先ごとに並べる。
  2. 個人に残すものと法人へ移すものを分ける:売掛金は残す・譲渡する、買掛金は払い切る・引受にする、契約は承諾を得て移す・再契約する、のどれかを決める。
  3. 取引先へ案内する:法人名、法人番号、所在地、法人の振込先、切替日、切替日より前の分の請求・支払先を書面で伝える。
  4. 承諾や通知の控えを残す:債権譲渡の通知、債務引受の承諾、契約の移転合意を、日付が分かる形で保存する。

法人番号の確認方法は法人番号とはで整理しています。

請求書とインボイス登録番号の案内

個人事業主のインボイス登録番号は、法人へ引き継げません。法人が適格請求書を発行するには、法人名義で登録申請をし、新しい登録番号の通知を受けます。国税庁の「新たに事業を開始した場合の登録方法」では、法人の場合、事業を開始した課税期間中に登録申請書を提出すれば、その課税期間の初日(原則として設立日)に遡って登録を受けられる方法があるとされています。

取引先に案内するときは、次の点を書面にそろえます。

  • 切替日より前の取引の請求書は個人の氏名・登録番号で、切替日以後は法人名・法人の登録番号で発行すること。
  • 法人の登録番号が通知される前の期間に請求書を出す場合の記載方法を、事前に取引先と確認しておくこと。

個人事業の廃止に伴い、適格請求書発行事業者の登録を取り消す場合は、国税庁によれば、登録の取消しを求める旨の届出書ではなく事業廃止届出書を提出します。登録の手順と免税への影響はインボイス制度と法人成り、法人成りのインボイス登録の効力で扱っています。

次に知りたいこと

公式一次情報

よくある質問

法人成りすると、個人の売掛金は自動で法人のものになりますか?
なりません。個人と法人は別の権利義務の主体なので、何もしなければ個人事業の期間に生じた売掛金は個人に残ります。法人へ移すには、債権譲渡の合意と、取引先への通知または取引先の承諾が必要です(民法466条・467条)。
債権譲渡の通知には確定日付が必要ですか?
取引先本人に対抗するだけなら、通知または承諾があれば足ります。確定日付のある証書が必要になるのは、取引先以外の第三者に対抗する場合です(民法467条2項)。
買掛金を法人が払うことにすれば、個人の支払い義務はなくなりますか?
個人と法人だけの取り決めではなくなりません。免責的債務引受は、債権者と引受人の契約(債務者への通知で効力発生)、または債務者と引受人の契約に債権者が承諾する形で成立します(民法472条)。
取引基本契約に債権譲渡禁止の定めがあるときはどうなりますか?
譲渡制限の特約があっても債権譲渡の効力は妨げられませんが、特約を知っていた、または重大な過失で知らなかった譲受人に対して、債務者は履行を拒めます(民法466条2項・3項)。取引先への事前確認が確実です。
個人のインボイス登録番号は法人で使えますか?
使えません。法人は法人名義で登録申請をし、新しい登録番号の通知を受けます。取引先には切替日と、切替日以後の請求書に載る法人の登録番号を案内します。
本記事について。弁護士等の専門家監修前の概説です。2026年10月25日時点のe-Gov法令検索・国税庁の情報にもとづく一般的な整理であり、個別の契約や債権の扱いを判断するものではありません。金額の大きい債権譲渡・債務引受は弁護士・税理士へご確認ください。