居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限と調整
賃貸アパートやマンションを買ったときの消費税が、なぜ仕入税額控除の対象にならないのかを整理します。対象になる建物の条件(高額特定資産と、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物)、一部が店舗の建物の扱い、取得から調整期間内に課税賃貸へ転用・譲渡したときの加算の計算を順に説明します。
2026年時点の制度課税事業者が、国内で住宅の貸付けに使う建物を1,000万円(税抜)以上で取得した場合、その建物の購入や建築にかかった消費税は、仕入税額控除の対象になりません。さらに、調整期間(取得から第三年度の課税期間の末日まで。おおむね3年)のうちに事業用の賃貸へ切り替えたり売却したりすると、いったん控除しなかった税額の一部が、後から控除できる側に加算されます。
課税事業者になるか免税事業者のままにするかの判断は課税事業者選択届出書の提出期限と2年縛り、固定資産の取得に伴う3年間の制限は高額特定資産を取得したときの3年縛りで説明しています。
制限の対象になる建物の条件
国税庁の「消費税法改正のお知らせ(令和2年4月)」によると、仕入税額控除の対象としない建物は、国内で行う居住用賃貸建物の課税仕入れ等です。居住用賃貸建物とは、次の2つを両方満たす建物をいいます。
- 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であること
- 高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当すること
高額特定資産とは、1つの取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜)が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産です。建物を自分で建てる場合は、建設等に要した課税仕入れの額の累計が1,000万円以上になった調整対象自己建設高額資産が対象になります。
住宅の貸付けは消費税が非課税です。家賃に消費税がかからない一方で建物の購入や建築にかかった消費税だけを控除する形を防ぐため、この制限が設けられたとされています。
この制限は令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入れ等から適用されます。令和2年3月31日までに契約を結んだ建物は、令和2年10月1日以後に仕入れ等があっても制限されません。
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対象外になる建物と、一部が店舗の建物
住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物は、居住用賃貸建物にあたりません。国税庁は、建物の構造や設備などの状況から、住宅の貸付けに使わないことが客観的に明らかなものとしています。たとえば、全部が店舗である建物が該当します。
建物の一部が店舗になっている場合は、構造や設備の状況から、住宅の貸付けに使わないことが明らかな部分とそれ以外の居住用賃貸部分に、合理的に区分しているときは、居住用賃貸部分以外の課税仕入れ等の税額は、これまでと同じく仕入税額控除の対象になります。
1,000万円未満の建物は、高額特定資産に該当しないため、この制限の対象外です。判定は1つの取引単位ごとに行います。
調整期間内に課税賃貸へ転用したときの加算
制限を受けた建物でも、調整期間のうちに事業用など課税される賃貸に使うと、いったん控除しなかった税額の一部を取り戻せます。消費税法第35条の2第1項の内容は次のとおりです。
- 第三年度の課税期間:建物の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間
- 調整期間:建物の仕入れ等の日から、第三年度の課税期間の末日までの間
- 課税賃貸用:非課税となる住宅の貸付け以外の貸付けの用(事務所や店舗として貸すことなど)
第三年度の課税期間の末日に建物を持っていて、かつ調整期間に建物の全部または一部を課税賃貸用に供した場合は、その建物の課税仕入れ等の税額に課税賃貸割合を掛けた額が、第三年度の課税期間の仕入控除税額に加算されます。課税賃貸割合は、調整期間の貸付けの対価の合計のうち、課税賃貸用の貸付けの対価が占める割合です。
国税庁が示す計算例
令和3年4月1日に2億円(税抜)で建物を取得し、消費税額は2,000万円でした。取得の日から居住用として貸し、令和5年6月1日から事業用に貸した場合です。調整期間の家賃は、居住用が600万円、事業用が400万円で、合計は1,000万円になります。
| 項目 | 金額・割合 |
|---|---|
| 取得時に控除できなかった消費税額 | 2,000万円 |
| 課税賃貸割合 | 400万円 ÷ 1,000万円(調整期間の家賃のうち事業用の割合) |
| 令和6年3月期の仕入控除税額に加算する額 | 2,000万円 × 400 ÷ 1,000 = 800万円 |
調整の対象になるのは、第三年度の課税期間の末日に建物を持っている場合です。第9条第1項本文により納税義務が免除される事業者は、この調整の対象外です(消費税法第35条の2第1項・第2項のかっこ書)。
調整期間内に売却したときの加算
調整期間のうちに、建物の全部または一部を他の者に譲渡した場合は、譲渡した課税期間の仕入控除税額に加算します(同条第2項)。加算する額は、その建物の課税仕入れ等の税額に、課税譲渡等割合を掛けて計算します。
課税譲渡等割合は、取得の日から譲渡の日まで(課税譲渡等調整期間)の貸付けの対価と譲渡の対価の合計のうち、課税賃貸用の貸付けの対価と譲渡の対価の合計が占める割合です。建物の譲渡は課税売上になるため、売却価格が高いほど割合が大きくなります。
国税庁が示す計算例
令和3年4月1日に1億円(税抜)で建物を取得し、消費税額は1,000万円でした。居住用として貸し、令和5年4月1日に7,200万円で譲渡した場合です。譲渡までの家賃の合計は800万円でした。
| 項目 | 金額・割合 |
|---|---|
| 取得時に控除できなかった消費税額 | 1,000万円 |
| 課税譲渡等割合 | 7,200万円 ÷ 8,000万円(家賃800万円+譲渡7,200万円のうち、譲渡の割合) |
| 令和6年3月期の仕入控除税額に加算する額 | 1,000万円 × 7,200 ÷ 8,000 = 900万円 |
どちらの計算も、家賃や譲渡の対価は税抜きの金額で、値引きなどがあれば差し引いた残額を使います。課税期間の区分や貸付けの内訳によって計算が変わります。
場面別の早見表
| 場面 | 仕入税額控除 |
|---|---|
| 全部が店舗の建物を取得した | 制限なし。住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物にあたる |
| 居住用の賃貸マンションを1億円で取得した | 制限される(高額特定資産) |
| 建物の一部が店舗で、構造や設備の状況から合理的に区分している | 居住用賃貸部分以外は控除できる。居住用賃貸部分は、高額特定資産の要件を満たせば制限される |
| 支払対価が1,000万円未満の建物を取得した | 高額特定資産ではないため、この制限は適用されない |
| 居住用で取得し、調整期間内に事務所として貸した | 第三年度の課税期間に、課税賃貸割合に応じた税額を加算 |
| 居住用で取得し、調整期間内に売却した | 譲渡した課税期間に、課税譲渡等割合に応じた税額を加算 |
| 令和2年3月31日までに契約した建物 | 経過措置で制限されない |
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