不動産賃貸を個人から法人にする前の確認(事業的規模の5棟10室・建物移転の登録免許税と不動産取得税)
アパートや貸家の賃貸を法人で行う形にする前に、個人側で確認することと、建物を法人へ移すときにかかる税を整理します。事業的規模の基準、登録免許税の税率、不動産取得税の税率と計算例、個人と法人の税率の違いを、国税庁と東京都主税局の案内にもとづいて説明します。
国税庁・東京都主税局の案内にもとづく不動産の貸付けによる所得は、事業所得ではなく不動産所得として申告します。法人成りを考えるときの個人と法人の違いは、不動産賃貸でも基本は同じです。ただし不動産賃貸では、建物を法人へ移すときにかかる税が、判断の大きな材料になります。
この記事では、法人化の前に確認する3点を扱います。個人側で貸付けが事業として扱われる規模か、建物を移すときの税、所得に対する税率の違いです。資産を移す3つの方法(売買・現物出資・賃貸)の一般的な違いは個人事業から法人への資産引継ぎを参照してください。
個人側:事業的規模の基準(5棟・10室)
国税庁は、不動産の貸付けが事業として行われているかを、社会通念上、事業と称するに至る程度の規模かどうかで判定するとしています(タックスアンサーNo.1373)。形式的な基準として、貸間やアパート等は、貸与できる独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋の貸付けはおおむね5棟以上と示されています。
事業として行われている場合は、青色事業専従者給与の適用があります。青色申告特別控除は、最高55万円で、電子帳簿保存またはe-Taxなどの要件を満たすと65万円です(令和8年分まで)。控除の要件は青色申告特別控除65万円の条件で整理しています。
一方、事業的規模に当たらない小規模の貸付けでは、専従者給与の適用はありません(No.2075)。この場合は、法人にして家族へ役員報酬を払う形が検討の対象になります。ただし、報酬の額が適正かどうかは別に確認が必要です。
建物を法人へ移すときにかかる税
建物を法人へ売る場合、主にかかる税は次の3つです。
| 税 | 税率・扱い | 出典 |
|---|---|---|
| 登録免許税(所有権移転登記) | 建物の売買は不動産の価額の1,000分の20(2%)。土地の売買は1,000分の20だが、令和11年3月31日までは1,000分の15 | 国税庁No.7191 |
| 不動産取得税(法人側) | 令和9年3月31日までの取得は、土地3%、住宅3%、住宅以外の家屋4%。宅地等の課税標準は価格の2分の1。有償・無償や登記の有無にかかわらず課税 | 東京都主税局 |
| 消費税 | 住宅の貸付けは、契約で人の居住の用に供することが明らかなものが非課税。土地の譲渡・貸付けも非課税。建物の売買の消費税は、この表の出典では確認していないため、税務署または税理士に確認が必要 | 国税庁No.6201 |
不動産取得税の課税標準は、購入価格ではなく、固定資産課税台帳に登録されている価格を原則とします(東京都主税局)。登録免許税の課税標準は不動産の価額です。
なお、建物を法人へ現物出資で移す場合の登録免許税や不動産取得税の扱いは、今回の確認範囲の公式ページでは特定できていません。出資で移す形を考えるときは、法務局と、不動産がある都道府県の税事務所に事前に確認してください。
移転コストの計算例
次の例は、当サイトの計算例です。免税点、軽減措置、評価額の違いは考えていません。実際の額は法務局と都道府県税事務所の判断によります。
| 設例 | 建物の価額(課税標準と同額と仮定) | 登録免許税(2%) | 不動産取得税(住宅3%) | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 例1:アパート1棟 | 2,000万円 | 40万円 | 60万円 | 100万円 |
| 例2:貸家3棟 | 1,500万円(合計) | 30万円 | 45万円 | 75万円 |
例1では、建物を移すだけで合計100万円の税が先にかかります。法人にして減る所得税や社会保険料の差額がこの額を上回るまで、何年かかるかを見積もる必要があります。
このため、移転コストが大きい場合は、建物を移さずに個人が所有を続ける形も選択肢になります。その形の注意点は資産引継ぎの賃貸の節を参照してください。
所得に対する税率の違い
個人の所得税は、課税される所得金額に応じて5%から45%の7段階です(No.2260)。たとえば、195万円以下の部分は5%、900万円以上1,800万円未満の部分は33%です。別に復興特別所得税として、基準所得税額に2.1%が加わります(令和9年1月以後は率が変わる旨が、国税庁の同ページに注記されています)。
法人税は、資本金1億円以下の普通法人で、年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です(No.5759。適用除外事業者などは別の率)。法人にはこのほか、地方税や社会保険の負担が別にかかります。
法人化の前に確認する順番
- 賃貸物件の数(棟数・室数)と、現在の申告が事業的規模の扱いかどうかを確認する。
- 建物を売る・出資する・移さないの3案で、移転コスト(登録免許税・不動産取得税)を見積もる。
- 賃貸物件に借入金が付いている場合は、借入先の銀行に、名義を法人へ変えてよいかを事前に確認する。
- 個人と法人の手取りを、役員報酬と社会保険料まで含めて比べる。
どの案が有利かは、物件の評価額、借入、所得の大きさで変わります。個別の判断は税理士に相談してください。
まとめ
- 不動産貸付けが事業的規模かは、貸間・アパートはおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上が形式基準(国税庁No.1373)。
- 建物を法人へ売ると、登録免許税(建物は2%)と不動産取得税(住宅3%、住宅以外4%)が先にかかる。
- 不動産取得税の課税標準は購入価格ではなく、固定資産課税台帳の価格が原則。
- 個人の所得税は5%〜45%、中小法人の法人税は年800万円以下の部分が15%。税率の差だけで判断せず、手取りで比べる。
- 建物を移さずに個人が所有を続ける形も選択肢になる。
公式一次情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」(独立家屋5棟、貸間・アパート10室の形式基準、専従者給与、青色申告特別控除を掲載。2026-10-08確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」(事業的規模でない貸付けでは専従者給与の適用がない旨を掲載。2026-10-08確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.7191「登録免許税の税額表」(建物・土地の売買の所有権移転の税率を掲載。2026-10-08確認)
- 東京都主税局「不動産取得税」(税率、課税標準、有償・無償の別なく課税される旨を掲載。2026-10-08確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」(住宅の貸付け、土地の譲渡・貸付けの非課税を掲載。2026-10-08確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」/No.5759「法人税の税率」(2026-10-08確認)
よくある質問
- アパート何室から事業的規模になりますか?
- 国税庁は、貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上を形式的な基準として示しています。基準に届かなくても、実態で判断される場合があります。
- 建物を法人に売ると、どんな税がかかりますか?
- 主に、登録免許税(建物の売買は価額の2%)と、法人側に課される不動産取得税(住宅3%、住宅以外4%)です。額は、建物の価額と評価額によって変わります。
- 不動産取得税は購入価格にかかりますか?
- 購入価格ではなく、固定資産課税台帳に登録されている価格が原則の課税標準です(東京都主税局)。
- 建物を移さずに法人化できますか?
- 資産引継ぎの方法として、売買や現物出資のほかに、個人が所有を続けて法人へ貸す形があります。方法ごとの違いは、資産引継ぎのガイドで整理しています。
- 法人にすれば税金は必ず安くなりますか?
- 決まりません。移転コスト、役員報酬にかかる所得税、社会保険料を含めた手取りで比べる必要があります。