役員報酬の期中改定(増額・減額)が認められる条件|臨時改定事由・業績悪化改定事由
役員報酬を期の途中で変えても経費(損金)のままにできる3つの場合を、法人税法施行令69条と国税庁の通達・タックスアンサーで整理します。増額と減額の違い、認められない例、届出が要る場面、架空条件の例つき。
法人化(法人成り)法人の役員報酬は、毎月同額を払う「定期同額給与」でなければ、原則として経費(損金)になりません。ただし、期の途中で金額を変えても定期同額給与として扱われる例外が、施行令に決まっています。
この記事は、その例外の3類型、増額と減額で使える類型の違い、通達が挙げる具体例と除外例、届出が必要になる場面を整理します。報酬額の決め方は役員報酬の決め方、賞与のような不定期の支給は事前確定届出給与で扱っています。
定期同額給与の原則と、改定が認められる3類型
法人が役員に払う給与のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のどれにも当たらないものは、損金の額に算入されません(出典:国税庁タックスアンサーNo.5211)。小さな会社の毎月の役員報酬は、多くが定期同額給与に当たります。
定期同額給与は、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、その事業年度の各支給時期の支給額が同額の給与です。源泉所得税・住民税の特別徴収額・社会保険料などを引いた後の金額が同額であれば、同額とみなされます(法人税法施行令69条1項1号・2項)。
期の途中で金額を変えても、次の3つの改定であれば、改定前の期間と改定後の期間のそれぞれが同額なら定期同額給与として扱われます(施行令69条1項1号イ・ロ・ハ)。
| 類型 | 改定の内容 | 増額 | 減額 |
|---|---|---|---|
| 1 3月経過日等までの改定 | 事業年度の開始から3か月を経過する日までにされた改定 | 可 | 可 |
| 2 臨時改定事由 | 職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更などのやむを得ない事情による改定 | 可 | 可 |
| 3 業績悪化改定事由 | 経営の状況が著しく悪化したことなどによる改定 | 不可 | 可 |
3類型のどれにも当たらない期中の改定で支給額が変わると、その事業年度の役員給与は定期同額給与の要件を満たさなくなります。この場合の損金不算入の範囲は事案で変わるため、個別の判断は税理士へ確認してください。
類型1:事業年度開始から3か月以内の改定
事業年度が4月1日に始まる会社なら、3か月を経過する日は6月30日です。この日までにされた改定は、期首から改定までと、改定から期末までの2つの期間がそれぞれ同額であれば足ります(施行令69条1項1号イ)。
確定申告書の提出期限の延長の特例について税務署長の指定を受けている場合は、指定に係る月数に2を加えた月数を経過する日までです(出典:国税庁タックスアンサーNo.5211)。
毎年決まった時期に行う改定が、この期限より後になることについて特別の事情があると認められる場合は、その改定の時期まで認められます。通達9-2-12の2は、役員給与の額が親会社の役員給与の額を参酌して決まる常況にあり、親会社の定時株主総会の終了後でなければ改定の決議ができない場合を例に挙げています。
類型2:臨時改定事由による改定(増額・減額)
臨時改定事由は、施行令69条1項1号ロに「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」と定められています。この事由によってされた、その役員に係る定期給与の改定は、増額でも減額でも認められます。
通達9-2-12の3は、例として次の2つを挙げています。
- 定時株主総会後、次の定時株主総会までの間に社長が退任し、臨時株主総会の決議で副社長が社長に就任する場合
- 合併に伴い、その役員の職務の内容が大幅に変更される場合
ここでいう役員の職制上の地位は、定款等の規定、または総会・取締役会の決議等により付与されたものをいいます(通達9-2-12の3の注)。肩書きを名刺に載せただけでは、この「地位」に当たらないと読めます。
条文は「これらの役員に係る定期給与の額の改定」と書いており、対象はその事由に係る役員の定期給与です。他の役員の報酬も同時に改定するときの扱いは、税理士へ確認してください。
類型3:業績悪化改定事由による減額
業績悪化改定事由は、施行令69条1項1号ハに「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」と定められています。減額した改定に限られ、増額には使えません。
通達9-2-13は、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうと説明し、法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどは含まれないとしています(タックスアンサーNo.5211の注も同旨)。
| 場面 | 通達の読み方 |
|---|---|
| 経営状況が著しく悪化し、やむを得ず減額する | 業績悪化改定事由に当たりうる |
| 一時的な資金繰りの都合で減額する | 含まれない(通達9-2-13) |
| 業績目標値に届かなかったため減額する | 含まれない(通達9-2-13) |
どの程度の悪化が「著しい」に当たるかは、条文や通達に数値の基準がありません。個別の判断は税務署や税理士へ確認してください。この記事も、数値の線引きは示しません。
架空条件の例:期中に月額を変えた場合の見方
以下は説明のための架空の条件で、実在の会社や個別の事案とは関係ありません。4月1日から3月31日までの事業年度で、社長1人の会社が毎月末に役員報酬を払うとします。
| パターン | 内容 | 見方 |
|---|---|---|
| A | 4月〜6月は月額50万円、6月中の決議で7月分から月額40万円にし、翌年3月まで据え置く | 改定が6月30日(3月経過日)までにされており、類型1に当たりうる。改定前(3か月分150万円)と改定後(9か月分360万円)が各期間で同額。年間合計は510万円 |
| B | 9月の決議で、10月分から月額50万円を60万円に増額する。地位や職務に変更はない | 3月経過日の後で、臨時改定事由もなく、増額には業績悪化改定事由を使えないため、3類型のどれにも当たらない |
| C | 11月に社長が退任し、副社長が臨時株主総会の決議で社長に就任して月額を増額する | 通達9-2-12の3の例に近く、臨時改定事由に当たりうる |
実際に類型に当たるかは、決議の日付・議事録・改定の理由を含めて判断されます。改定を決議したときは、株主総会や取締役会の議事録に理由を書き残しておくと、後から経緯を説明する材料になります。この点は条文が求める手続きではなく、実務上の工夫です。
事前確定届出給与と組み合わせるときの届出期限
期中の事由をきっかけに、事前確定届出給与の定めを新設・変更する場合は、通常と届出期限が変わります(施行令69条4項2号・5項。出典:国税庁タックスアンサーNo.5211)。
| 場面 | 届出期限 |
|---|---|
| 臨時改定事由が生じたため、その役員の職務について事前確定届出給与の定めをする | 通常の届出期限と、臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日のうち、いずれか遅い日 |
| すでに届け出た定めを、臨時改定事由により変更する | 臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日 |
| すでに届け出た定めを、業績悪化改定事由により減額する | 変更を決議した日から1か月を経過する日(その前に支給日が来る場合は、その支給日の前日) |
届出期限までに届出がなくても、届出がなかったことについてやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、期限内に届出があったものとして扱われます(施行令69条7項)。この扱いを当てにせず、期限内の届出を前提に準備するのが基本です。
役員報酬を期中に改定しても、社会保険の標準報酬月額が自動で見直されるわけではありません。社会保険の改定時期は別の要件で決まります。詳しくは算定基礎届と月額変更届を参照してください。
まとめ
- 期中に役員報酬を変えても定期同額給与として扱われるのは、3か月以内の改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由の3類型(施行令69条1項1号)。
- 増額が認められるのは、3か月以内の改定と臨時改定事由の場合。業績悪化改定事由は減額に限られる。
- 臨時改定事由の例は、社長の退任に伴う副社長の昇格や、合併に伴う職務の大幅な変更(通達9-2-12の3)。
- 一時的な資金繰りの都合や、業績目標値に届かなかっただけの減額は、業績悪化改定事由に含まれない(通達9-2-13)。
- 事前確定届出給与を期中に定める・変える場合は、事由ごとに届出期限が変わる(施行令69条4項・5項)。
- 個別の判断は、税務署または税理士へ確認する。
よくある質問
- 期の途中で役員報酬を増やしても、経費になりますか?
- 事業年度開始から3か月以内の改定か、役員の地位の変更などの臨時改定事由による改定であれば、定期同額給与として扱われます。それ以外の増額は、業績悪化改定事由では認められません(出典:法人税法施行令69条1項1号)。
- 業績が悪いので減額するのは、いつでも認められますか?
- 経営の状況が著しく悪化したことなどによる減額が対象です。一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことは含まれません(出典:法人税基本通達9-2-13)。
- 臨時改定事由の具体例は何ですか?
- 通達は、社長の退任に伴い臨時株主総会の決議で副社長が社長に就任する場合や、合併に伴い役員の職務の内容が大幅に変更される場合を例に挙げています(出典:法人税基本通達9-2-12の3)。
- 3か月以内の改定とは、いつまでのことですか?
- 事業年度開始の日の属する会計期間の開始の日から3か月を経過する日までです。4月1日開始なら6月30日です。確定申告期限の延長の特例の指定を受けている場合は、指定に係る月数に2を加えた月数になります(出典:国税庁タックスアンサーNo.5211)。
- 期中に事前確定届出給与を定めるときの届出期限は?
- 臨時改定事由が生じたため定める場合は、通常の期限と、事由が生じた日から1か月を経過する日のうち遅い日です(出典:法人税法施行令69条4項2号、国税庁タックスアンサーNo.5211)。
公式一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(定期同額給与の改定3類型・事前確定届出給与の届出期限。2026-10-05確認)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」69条(定期同額給与の範囲等。2026-10-05確認)
- 国税庁 法人税基本通達 第3款 定期同額給与(9-2-12〜9-2-13)(2026-10-05確認)