欠損金の繰戻しによる還付とは|法人成り後の赤字で前期の法人税を取り戻す
法人成りした2期目以降に赤字になったとき、前期に納めた法人税の一部を取り戻せる「欠損金の繰戻しによる還付」を、適用要件・手続き・繰越控除との違いから整理します。
法人税法・租税特別措置法の制度法人成りして事業が軌道に乗ってきても、2期目以降に赤字(欠損金)が出ることはあります。個人事業のときの純損失は繰越控除・繰戻し還付が使えましたが、法人の欠損金にも、前期の税金を取り戻す仕組みがあります。
これが「欠損金の繰戻しによる還付」です。使える条件と、設立1期目には使えない注意点、個人時代の赤字との違いを整理します。
適用できる法人・要件
欠損金の繰戻しによる還付の対象は、青色申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた法人です。適用を受けるには、次の2つが必要です(法人税法80条1項・3項)。1つ目は、還付を受ける事業年度(還付所得事業年度)から赤字の前の事業年度まで、青色申告書で確定申告を続けていることです。2つ目は、赤字の事業年度の申告書を提出期限までに出していることです。
もう1つ条件があります。租税特別措置法66条の12により、中小企業者等以外の法人は、令和8年3月31日までに終了する事業年度について、この制度が使えません(時限的な不適用措置)。中小企業者等とは、資本金1億円以下の法人のことです(資本金5億円以上の大法人に完全支配されている法人などは除きます)。法人成りしたばかりの法人は資本金1億円以下がほとんどのため、この制約に該当することはまれです。
対象になる事業年度(還付所得事業年度)
還付の対象になるのは、赤字が出た事業年度(欠損事業年度)の1つ前の事業年度(還付所得事業年度)の所得に対する法人税です(法人税法80条1項)。法律上は「欠損事業年度の開始の日前1年以内に開始した事業年度」と書かれています。つまり、対象にできるのは直前の1事業年度分だけで、2期前・3期前にさかのぼって還付を受けることはできません。
還付される金額の計算例
還付額は、還付所得事業年度の法人税額に、その所得金額のうちに欠損事業年度の欠損金額が占める割合を掛けて計算します(法人税法80条1項)。欠損金額が前期の所得金額を超える場合は、前期の法人税額全額が上限です。
| 項目 | 金額(例) |
|---|---|
| 前期(還付所得事業年度)の所得金額 | 400万円 |
| 前期の法人税額 | 60万円(仮定) |
| 今期(欠損事業年度)の欠損金額 | 200万円 |
| 還付される法人税額(60万円×200万円÷400万円) | 30万円 |
前期の法人税額・所得金額は決算内容によって変わるため、上の数字はあくまで計算の仕組みを示す仮定例です。実際の還付額は、前期の確定申告書の内容にもとづき所轄税務署が調査したうえで決まります(法人税法80条10項)。
手続き(還付請求書の提出)
還付を受けるには、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を、欠損事業年度の確定申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長へ提出します(法人税法80条1項・9項)。決算が確定してから別途申請するのではなく、申告と同時に手続きする点に注意してください。
繰越控除との選択
欠損金には、繰戻し還付のほかに繰越控除(10年間、翌期以後の黒字と相殺)という選択肢もあります。同じ欠損金を両方に使うことはできず、繰戻し還付に使った欠損金額は繰越控除の対象から除かれます(法人税法57条1項・80条1項)。
当期に現金で還付を受けたいか、将来の黒字と相殺して将来の税負担を軽くしたいかは、資金繰りの状況や翌期以降の業績見込みによって判断が分かれます。個別の判断は税理士に相談してください。
青色繰越欠損金が生じた事業年度の帳簿書類は、10年間の保存が必要です(国税庁タックスアンサーNo.5930)。保存期間は法人の帳簿書類の保存期間で整理しています。
設立1期目は使えない
設立したばかりの1期目に赤字が出ても、この制度は使えません。還付所得事業年度(欠損事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度)が定義上必要ですが、設立1期目には前事業年度そのものが存在しないためです(法人税法80条1項)。設立1期目の赤字は、繰越控除(10年間)で将来の黒字と相殺する方法だけが選択肢になります。
個人事業時代の赤字は引き継げない
法人成りする前、個人事業主として青色申告をしていたときの純損失(繰越控除・繰戻し還付)は、法人の欠損金として引き継ぐことはできません。個人(所得税の納税者)と新設した法人(法人税の納税者)は別人格であり、法人税法上の欠損金の引継ぎ規定(57条2項)は適格合併など法人間の組織再編に限られ、個人事業からの法人成りは対象になっていないためです。
個人事業のときの赤字の繰越控除・繰戻し還付については個人事業主の純損失の繰越控除を参照してください。法人成りのタイミングで個人時代の赤字を使い切れるかどうかも、法人成りの時期を決める材料になります。
まとめ
- 欠損金の繰戻しによる還付は、青色申告を続けている資本金1億円以下等の中小企業者等が対象。
- 対象になるのは、赤字が出た事業年度の直前1期分の法人税額のみ。
- 還付請求書は、欠損事業年度の確定申告書と同時に提出する。
- 繰越控除(10年間)とは選択制で、同じ欠損金を両方には使えない。
- 設立1期目の赤字には使えず、繰越控除だけが選択肢になる。
- 個人事業時代の赤字(純損失)は、法人の欠損金として引き継げない。
法人成り後の決算・申告の流れは一人法人の決算・申告、法人成り全体の流れは法人成りの手続きガイドを参照してください。
公式一次情報
- 国税庁「No.5763 欠損金の繰戻しによる還付」(適用要件、還付所得事業年度の定義、還付額の計算方法)
- 国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」(繰越控除は10年間)
- e-Gov法令検索「法人税法」第80条・第57条(還付所得事業年度の定義、連続申告要件、繰越控除との重複排除規定)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」第66条の12(中小企業者等以外は令和8年3月31日までに終了する事業年度について不適用であること)
- 国税庁「欠損金の繰戻しによる還付請求」手続案内(還付請求書は確定申告書と同時に提出すること)
よくある質問
- 欠損金の繰戻しによる還付は誰でも使えますか?
- 青色申告を続けている法人のうち、資本金1億円以下等の中小企業者等が対象です。資本金1億円超の法人などは、令和8年3月31日までに終了する事業年度についてこの制度を使えません(出典:租税特別措置法66条の12)。
- 設立1期目の赤字でも使えますか?
- 使えません。対象になる還付所得事業年度(欠損事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度)が、設立1期目には存在しないためです(出典:法人税法80条)。
- 個人事業のときの赤字を、法人成り後の欠損金として引き継げますか?
- 引き継げません。個人と新設法人は別の納税者で、引継ぎ規定は法人間の組織再編に限られます。個人時代の赤字の扱いは別ガイド「個人事業主の純損失の繰越控除」を参照してください。
- 繰越控除と繰戻し還付はどちらがお得ですか?
- 同じ欠損金を両方には使えません(出典:法人税法57条・80条)。当期に現金で還付を受けたいか、将来の黒字と相殺したいかで選びます。個別の判断は税理士に相談してください。