医業の個人事業税|社会保険診療は非課税・自由診療は課税
医師・歯科医師・薬剤師・あん摩マッサージ指圧師などが払う個人事業税で、社会保険診療の所得が外れる仕組みと、自由診療の所得の出し方、経費の按分を、地方税法と都道府県の案内で整理します。
2026年時点の制度個人で医業などを営む人の個人事業税は、社会保険診療に係る収入と経費を計算から外し、自由診療などの所得にだけ課税する仕組みです。地方税法72条の49の12第1項が定めています。確定申告書の事業所得には社会保険診療の分も入っているため、そのまま使うと個人事業税の所得とずれます。
- 対象は、医業・歯科医業・薬剤師業と、あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復などの事業です。
- 社会保険診療の収入は総収入金額に入れず、それに係る経費も必要経費に入れません。
- 労災・自賠責の診療や健康診断、美容整形、差額ベッド代などは自由診療等として課税側に残ります。
- 経費が社会保険診療分と自由診療分に分かれていないときは、収入の割合で按分します。
非課税が使える事業
地方税法72条の49の12第1項のただし書きは、72条の2第10項1号から5号の事業を行う個人が社会保険診療につき支払を受けた金額を、総収入金額に算入しないと定めています。同じ条文で、その社会保険診療に係る経費も必要経費に算入しません。
1号から5号の事業は、条文では次の並びです。
| 号 | 事業 |
|---|---|
| 1号 | 医業 |
| 2号 | 歯科医業 |
| 3号 | 薬剤師業 |
| 4号 | 削除(現在は空き) |
| 5号 | あん摩、マッサージ又は指圧、はり、きゅう、柔道整復その他の医業に類する事業 |
獣医業は同じ第三種事業ですが、1号から5号には入っていません。獣医業の収入は、この非課税の対象として扱われません。
東京都主税局の税率表では、医業・歯科医業・薬剤師業などは5%、あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業は3%です。事業主控除は年290万円(事業の期間が1年に満たないときは月割り)です。
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社会保険診療と自由診療等の分け方
社会保険診療の範囲は、地方税法72条の23第3項が定めています。健康保険法・国民健康保険法・高齢者医療確保法などによる療養の給付のほか、生活保護法の医療扶助、介護保険法による一部のサービス、障害者総合支援法の自立支援医療などが並びます。患者の一部負担金や初診料も、社会保険診療に基づいて受け取った金額に含まれます。
和歌山県の案内は、確定申告書上は事業所得になる収入を、次の3つに分けています。
| 区分 | 主な内容 | 個人事業税 |
|---|---|---|
| 社会保険診療収入 | 健康保険・国民健康保険などの診療、初診料、患者の一部負担金 | 非課税(計算から外す) |
| 自由診療等に係る収入 | 労災保険診療、公害健康被害補償診療、自賠責保険診療、健康診断、予防接種、美容整形、正常分娩、歯列矯正などの歯科自由診療、差額ベッド代、証明書の作成料 | 課税 |
| その他の収入(雑収入) | 上の2つに当てはまらない収入 | 課税 |
労災保険の診療は、名前に「保険」が付いても社会保険診療ではなく、自由診療等の側に入ります。保険外併用療養費の差額徴収部分(評価療養・選定療養)も自由診療等の例に挙げられています。
課税される所得と税額の出し方
鳥取県の案内では、医業等を行う人の税額を次の式で示しています。
- 自由診療等の収入と雑収入を足す。
- そこから、自由診療等に係る経費(専従者控除、貸倒引当金の繰入額・戻入額などを含む)を引く。
- 自由診療等の繰越控除などがあれば引く。
- 事業主控除290万円を引く。
- 税率(医業等は5%)を掛ける。
通常の個人事業税の所得の出し方は個人事業税の所得計算と事業主控除290万円にあります。医業では、その前に社会保険診療の分を外す手順が加わります。所得税で使える青色申告特別控除は、個人事業税では使えません。
経費が分かれていないときの按分
経費を社会保険診療分と自由診療分に区分して経理していれば、区分された経費で計算します。区分していないときは、収入の割合で按分します。
鳥取県の按分率は、自由診療等収入を、社会保険診療収入と自由診療等収入の合計で割った割合です。和歌山県は、分子と分母に雑収入を足す形で示し、小数点以下第6位未満を切り捨てます。
数字の入った例を置きます。仮の数値で、他の控除や端数処理は考えません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 社会保険診療収入 | 2,500万円 |
| 自由診療等収入 | 1,500万円 |
| 経費の合計(区分なし) | 2,800万円 |
| 按分率 | 1,500万円÷4,000万円=0.375 |
| 自由診療等の経費 | 2,800万円×0.375=1,050万円 |
| 課税される所得 | 1,500万円−1,050万円=450万円 |
| 事業主控除後 | 450万円−290万円=160万円 |
| 税額(5%) | 8万円 |
この例では、確定申告の事業所得は1,200万円ですが、個人事業税が掛かるのは160万円分です。逆に、自由診療が少なければ、事業主控除に収まって税額が出ないこともあります。
租税特別措置法26条(社会保険診療報酬の所得計算の特例)を使っている人は、この按分と扱いが異なります。和歌山県は、26条の適用を受けている場合は、その規定で計算した自由診療等に係る合計所得金額を課税所得にするとしています。鳥取県も、この場合は県税事務所への問い合わせを案内しています。
申告書の書き方と注意点
和歌山県の案内では、確定申告をする人は、事業税が非課税になる社会保険診療報酬に係る所得金額を、確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」の「非課税所得など」欄に書きます。所得税の確定申告書を出していれば、個人事業税の申告書を別に出す必要はありません。
課税と非課税の所得が区分されて申告されていれば、その数字が適正と認められる限り、課税所得に使われます。区分が明確でないときは、前の章の按分率で計算されます。社会保険診療と自由診療の収入と経費は、帳簿の段階で分けておくと按分に頼らずに済みます。
税額が決まったあとの納め方は個人事業税はいつ・どう納める?、対象の事業一覧は個人事業税の対象70業種の一覧に載せています。医療法人にするかどうかの比較は個人クリニックと医療法人の違いで扱っています。
法人でも同じ考え方があります。地方税法72条の23第2項は、医療法人が社会保険診療につき受け取った金額を、法人事業税の所得の計算で益金に入れないとしています。
よくある質問
- 医師の個人事業税は社会保険診療の分もかかりますか?
- かかりません。地方税法72条の49の12第1項は、医業などを営む個人が社会保険診療につき受け取った金額を総収入金額に入れず、その経費も必要経費に入れないと定めています。
- 自由診療の所得には個人事業税がかかりますか?
- かかります。健康診断、予防接種、美容整形、差額ベッド代、労災保険や自賠責保険の診療などは自由診療等の側に入り、事業主控除を引いたあとの所得に税率が掛かります。
- 経費を社会保険診療と自由診療に分けていないときはどうしますか?
- 鳥取県の案内では、自由診療等収入を社会保険診療収入と自由診療等収入の合計で割った按分率で、自由診療等の経費を出します。区分して経理している場合は、その区分した経費を使います。
- 確定申告のとき、社会保険診療の所得はどこに書きますか?
- 和歌山県の案内では、確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」の「非課税所得など」欄に、事業税が非課税になる社会保険診療報酬の所得金額を書きます。
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