法人成りで小規模企業共済はどうなる|同一人通算の1年期限と非営利法人の役員の扱い
個人事業主として小規模企業共済に入っている人が法人成りすると、個人事業の廃止が共済事由になり、そのままでは契約を続けられません。共済金等を請求するか、1年以内に新しい会社の役員として加入資格を満たして「掛金納付月数の通算(同一人通算)」で続けるか。中小機構の公式案内にもとづいて整理します。
中小機構の制度個人事業主として小規模企業共済に加入している人が法人成りすると、個人事業の廃止(法人成り)が共済事由になります。個人事業を廃止した後は共済契約を続けられないため、原則は共済金等の請求ですが、共済事由の発生から1年以内に新しい会社の役員などとして加入資格を満たせば、共済金等を請求せずに納付月数を引き継いで契約を続けることもできます。この記事では、その分かれ目と、一般社団法人や医療法人の役員になったときの扱いを整理します。
小規模企業共済そのものの仕組みは「小規模企業共済のメリット・デメリット」を参照してください。廃業で共済金Aを受け取るときの手取りは「廃業タイミング&手取り最大化シミュレーター」で試算できます。この記事は、法人成りをきっかけにした契約の扱いに絞ります。従業員向けの退職金制度は別で、中退共(事業主と役員は加入できない)で整理しています。
法人成りの後に選べる道は2つ
中小機構の案内では、個人事業の廃止・法人成り・事業の全部譲渡が共済事由にあたり、共済金等を請求できるとされています。一方で、すでに個人事業を廃止した場合や役員を退任した場合などは、共済契約を続けることができないため共済金等を請求するよう案内されています。
- 共済金等を請求する:共済契約はそこで終わります。受け取れる共済金等の種類は後述のとおり、法人成りの形や加入時期で決まります。
- 同一人通算で続ける:新しい会社の役員などとして加入資格を満たせば、共済金等を請求せずに新たな共済契約を結び、これまでの掛金納付月数を引き継げます。
同一人通算で契約を続ける(期限は事由発生から1年)
同一人通算を申し出られるのは、共済事由の発生(個人事業の廃止・法人成り・事業の全部譲渡)から1年以内で、申し出る人が加入資格を満たしていることが条件です。個人事業を廃止して法人成りし、設立した会社の役員に就任して、会社等役員としての加入資格を満たすなら、個人事業主として加入していた期間の納付月数を通算して契約を続けられる、と中小機構は例示しています。
- 手続きの様式:「納付月数通算申出書兼契約申込書 同一人通算用(様式小141)」を使います。法人成りでは、設立した法人がこの様式の「8 事業上の地位」欄の21〜29のいずれかに該当することが必要です。
- 役員にならなくても通算できる場合:法人成りした会社の役員にならなかった場合でも、新たに個人事業を始めたり、共同経営者や別の法人の役員になったりして加入資格を満たすなら、通算の手続きができます。
- 加入資格を満たさないとき:法人成りした法人の役員になっても、加入条件を満たしていなければ通算はできず、共済金等の請求になります。
- 税務上の扱い:将来共済金等を受け取るときの、退職所得にかかわる勤続年数の起算日は加入日になると案内されています。
新しい会社の役員として加入資格を満たすか
中小機構の加入資格の案内では、加入できる「会社等役員」は次のとおりです。
- 株式会社・有限会社・特例有限会社の取締役または監査役
- 合名会社・合資会社の業務執行社員
- 「業務執行社員」として登記されている合同会社の社員
- 企業組合・協業組合の理事または監事
- 営利目的の農事組合法人の理事または監事(非営利を主とするものは除く)
- 士業法人の業務執行社員
判断の基準は、常時使用する従業員の数が要件を満たしていることと、役員登記をして事業に従事していることの2点です。従業員数の上限は、建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)などが20人以下、商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)が5人以下です。会社の役員の場合、この人数から外れるのは法人(会社など)の役員、家族従業員、パート、アルバイトで、共済加入時点の正社員の数で見られます。
取締役などの登記がない人は対象外です。相談役や顧問など実質的な経営者とみなされる立場でも、履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)に役員登記がされていなければ加入できません。法人成りのときは、代表者本人が役員として登記されていることを設立時に確認しておくと安心です。
一般社団法人・医療法人などの役員は通算できない
医療法人や一般社団法人など、直接営利を目的としない法人の役員は、小規模企業共済への加入資格が認められません。そのため、法人成りでこうした法人の役員になると、同一人通算(契約を法人側へ引き継ぐ手続き)はできません。個人事業の廃業による共済金の請求(請求事由コード1101)になり、加入年月を問わず共済金Aを請求できると案内されています。
- 一般社団法人:「非営利型法人」と「非営利型法人以外」のどちらの一般社団法人でも、役員は加入資格が認められません。
- そのほかの例:協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、財団法人、社団法人、NPO法人などが、中小機構の案内で挙げられています。
通算しないときに受け取る共済金等の種類
通算しない場合の共済金等の種類は、請求事由ごとに決まっています。中小機構の請求事由の案内と、制度改正に関するFAQから整理すると次のとおりです。
| 法人成りの状況 | 共済金等の種類 |
|---|---|
| 個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなった | 準共済金 |
| 個人事業を法人成りしたが、加入資格はなくならず、解約した | 解約手当金 |
| 直接営利を目的としない法人(一般社団法人・医療法人など)の役員になった | 共済金A(加入年月を問わない) |
| 平成22年12月以前に加入した個人事業主が、全額金銭出資により法人成りした | 共済金A(経過措置) |
上の最後の行は、平成23年1月1日施行の制度改正の前からの加入者にだけ残っている扱いです。平成23年1月以降に加入した場合は、全額金銭出資の法人成りであっても準共済金または解約手当金になります。平成22年12月以前の加入者でも、平成23年1月以降に共済事由が発生して掛金納付月数の通算(同一人通算・承継)の手続きをすると、この経過措置は使えなくなります。その後に法人成りに伴う共済金を請求しても、受け取れるのは準共済金または解約手当金だけと案内されています。
なお、共済金Bは老齢給付で、65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ人が対象です。法人成りの請求事由とは別の枠です。
受け取る金額の計算は本稿では扱いません。請求の前に、中小機構の案内で具体的な金額と手続きを確認してください。
まとめ
- 法人成り(個人事業の廃止)は共済事由になり、個人事業を廃止した後は共済契約を続けられない。共済金等を請求するのが原則。
- 共済事由の発生から1年以内に新しい加入資格を満たせば、共済金等を請求せずに同一人通算で契約を続けられる。会社の役員として加入するには、役員登記と従業員数の要件が必要。
- 一般社団法人・医療法人などの直接営利を目的としない法人の役員になると通算できず、個人事業の廃業による共済金Aの請求になる。
- 通算しない場合の共済金等は、加入時期と法人成りの形で準共済金・解約手当金・共済金Aに分かれる。通算すると平成22年12月以前加入者の経過措置は使えなくなる。
法人成りの時期の判断は法人成りのタイミングを判断する4つの軸を、個人事業を廃止するときの届出や確定申告は個人事業主の廃業|廃業届と必要な手続き・確定申告を、小規模企業共済・経営セーフティ共済・iDeCoの並びは積立で節税する3制度を参照してください。経営セーフティ共済に加入している場合は、法人成りで経営セーフティ共済はどうなるかで、契約を法人へ引き継ぐ手続きと3か月の期限を整理しています。法人になった後に役員が退職金を受け取る場合の手取りは役員退職金シミュレーターで試算できます。
公式一次情報
- 中小機構「契約内容変更 - 掛金納付月数の通算(同一人通算)」(共済事由の発生から1年以内に新たに加入資格を満たせば共済金等を請求せずに通算できる旨、法人成りして設立した会社の役員に就任する例。2026-09-20確認)
- 中小機構FAQ ID:514「個人事業を法人成りして、その法人の役員に就任した後に共済契約を続ける場合、どのような手続きをすればよいですか」(新たな共済契約を結んで納付月数を引き継ぐ旨、加入条件を満たさない場合は通算できない旨、役員にならなくても通算できる場合、退職所得の勤続年数の起算日。2026-09-20確認)
- 中小機構FAQ ID:515「個人事業を法人成りして、その法人の役員に就任しました。共済契約を継続できますか」(様式小141と事業上の地位欄、直接営利を目的としない法人の役員は加入資格がなく共済金Aを請求できる旨。2026-09-20確認)
- 中小機構FAQ ID:516「個人事業を法人成りして、一般社団法人の役員となった。共済契約を継続(同一人通算)できますか」(非営利型法人・それ以外の一般社団法人のいずれも加入資格がない旨。2026-09-20確認)
- 中小機構「加入資格」(会社等役員の範囲、従業員数の上限、役員登記が必要な旨。2026-09-20確認)
- 中小機構「共済金等請求・解約」(個人事業主の請求事由と共済金等の種類、法人成りの場合の準共済金・解約手当金、共済金Bの要件。2026-09-20確認)
- 中小機構FAQ ID:296「法人成りによる廃業請求の際の共済金等の種類が、平成23年1月以降加入と、平成22年12月以前加入とで異なるのはなぜですか」(制度改正と経過措置、通算すると経過措置が使えなくなる旨。2026-09-20確認)
- 中小機構「小規模企業共済の資格要件について(よくあるご質問)」(個人事業を廃止した後は契約を続けられず共済金等を請求する旨と、別の事業や法人の役員になった場合の通算。2026-09-20確認)
よくある質問
- 法人成りすると、小規模企業共済はどうなりますか?
- 個人事業の廃止(法人成り)は共済事由になり、個人事業を廃止した後は契約を続けられないため、原則は共済金等の請求です。ただし、共済事由の発生から1年以内に新しい会社の役員などとして加入資格を満たせば、共済金等を請求せずに納付月数を通算して契約を続けられます。
- 同一人通算はいつまでに申し出ればよいですか?
- 共済事由の発生から1年以内です。申し出る人が加入資格を満たしていることも必要です。
- 一般社団法人を作って役員になると、共済を続けられますか?
- 続けられません。一般社団法人は、非営利型法人でもそれ以外でも、役員は小規模企業共済の加入資格が認められないため、同一人通算ができず、個人事業の廃業による共済金Aの請求になります。医療法人・NPO法人なども同じ扱いです。
- 法人成りして会社の役員にならないと、通算はできませんか?
- 役員にならなくても、新たに個人事業を始めたり、共同経営者や別の法人の役員になったりして加入資格を満たせば、通算の手続きができます。
- 通算しないで請求すると、共済金Aがもらえますか?
- 直接営利を目的としない法人の役員になった場合や、平成22年12月以前に加入した個人事業主が全額金銭出資で法人成りした場合は共済金Aです。法人成りの結果加入資格がなくなった場合は準共済金、加入資格はなくならず解約した場合は解約手当金と案内されています。