法人成り前後の電子帳簿保存法と保存期間
個人事業の帳簿とデータをいつまで持つか、法人になった後は何が変わるかを、条文で整理します。
法人化と前後の手続き法人成りをしても、個人事業の時代の帳簿や、メール・ネットで受け取った請求書・領収書のデータは、定められた期間は保存し続ける必要があります。一方、法人を設立した後の電子取引データは、法人が保存義務者として電子のまま保存します。個人と法人は別の納税者なので、保存期間の数え方も、検索機能を省ける売上の判定も別々です。
個人事業主向けの基本は個人事業主の電子帳簿保存法で扱っています。この記事は、法人成りの前後でどこが変わるかに絞って、電子帳簿保存法と所得税法・法人税法の施行規則の条文から確認できる範囲を整理します。
個人時代と法人で変わる点
電子取引データを保存する義務は、個人事業者にも法人にもあります。電子帳簿保存法第7条は、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)と法人税に係る保存義務者が電子取引を行った場合は、その取引情報の電磁的記録を保存しなければならないと定めています。法人成りで義務そのものがなくなることはなく、保存義務者が個人から法人に切り替わる、という整理になります。
| 項目 | 個人事業者(法人成り前) | 法人(設立後) |
|---|---|---|
| 電子取引データの保存義務 | あり(第7条) | あり(第7条) |
| 帳簿・書類の保存期間(青色申告) | 帳簿・決算書類は起算日から7年。取引書類のうち現金預金取引等関係書類以外は5年 | 帳簿・決算書類・取引書類とも起算日から7年 |
| 保存期間の起算日 | 帳簿の閉鎖日、書類の作成・受領日の属する年の翌年3月15日の翌日 | 帳簿の閉鎖日、書類の作成・受領日の属する事業年度終了の日の翌日から2か月を経過した日 |
| 検索機能を省ける売上の判定(基準期間) | その年の前々年 | その事業年度の前々事業年度 |
保存期間の細かい違いは、法人の側から整理した法人の帳簿書類の保存期間でも確認できます。
この記事の内容を申告書に落とすときの本PR
個人から法人に切り替える手続きと、設立後の税金・経理を一冊で確かめたいとき向けです。
個人時代の帳簿・書類の保存期間
所得税法施行規則第63条は、青色申告者について、帳簿と決算関係書類を起算日から7年間、取引に関して受け取った注文書・契約書・領収書などの書類を原則として5年間(現金の収受・払出し、預貯金の預入・引出しに際して作成されたものは7年間)保存するよう定めています。起算日は、帳簿は閉鎖の日、書類は作成または受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日です。
青色申告でない個人事業者も、同施行規則第102条第4項で、帳簿は起算日から7年間、請求書・領収書などの書類は5年間の保存が定められています。
手元の帳簿・書類は、廃業や法人設立の日ではなく、起算日から数えた期間が過ぎるまで残します。廃業後の保存の細かい扱いは、所轄の税務署で確認してください。
帳簿のつけ方と保存期間は個人事業主の帳簿のつけ方にまとめています。
個人時代の電子取引データはどうなるか
電子帳簿保存法施行規則第4条第1項は、電子取引のデータを、書面でやり取りしたとした場合に、その書面を保存すべき期間、保存すると定めています。つまり、個人事業の時代にメールやネットで受け取った請求書・領収書のデータも、上の「書面なら5年(現金預金取引等関係書類は7年)」などの期間は、電子のまま保存します。印刷して紙で持つだけでは、電子取引の保存を満たしません。
- メールに添付されたPDFの請求書・領収書
- ネット通販・クラウドサービスが発行した領収書・利用明細のダウンロードデータ
- 銀行・カード・決済アプリなどからダウンロードした利用明細データ(取引書類に当たるもの)
保存の方法(タイムスタンプ、訂正・削除の履歴が残るシステム、または訂正・削除の防止に関する事務処理規程の備付け)は、規則第4条第1項に定められた4つの措置のいずれかです。具体的な進め方は個人事業主の電子帳簿保存法と電子取引データの検索要件に書いています。
紙で受け取った書類をスキャンして紙を処分したい場合は、別の要件(スキャナ保存)が必要です。条件はスキャナ保存の要件で整理しています。
法人側の保存義務
法人を設立した後は、法人が保存義務者です。法人税法施行規則第59条は、青色申告法人について、帳簿、棚卸表・貸借対照表・損益計算書などの決算関係書類、取引の相手方から受け取った注文書・契約書・領収書・見積書などを、起算日から7年間保存するよう定めています。起算日は、帳簿は閉鎖の日、書類は作成または受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から2か月を経過した日です。
設立後に法人として行った電子取引(法人名義での請求書・領収書のデータなど)は、電子帳簿保存法第7条により、法人が電子のまま保存します。個人事業を続けながら法人も持つ場合は、個人の取引と法人の取引で保存義務者が別になるため、データも分けておくと探しやすくなります(分け方は法令で決まっているものではなく、実務上の工夫です)。
法人税の欠損金の繰越控除の関係で保存期間が延びるケースは法人の帳簿書類の保存期間を確認してください。
検索機能を省ける売上の判定は別々
電子取引データは、原則として日付・金額・取引先で検索できる状態で保存します。ただし施行規則第4条第1項は、判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者などは、この検索機能の要件を省けると定めています。基準期間の意味は同条第2項が次のように分けています。
- 個人事業者:その年の前々年
- 法人:その事業年度の前々事業年度(前々事業年度が1年未満の場合は、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)
法人の基準期間は「法人の前々事業年度」と条文に書かれているため、個人時代の売上高が法人の基準期間に入るとは読めません。個人時代のデータの検索要件は個人事業者としての基準期間(前々年)で、設立後のデータは法人の基準期間で、それぞれ判定します。設立直後の事業年度のように、前々事業年度にあたる期間がない場合の具体的な扱いは、条文からは読み切れないため、国税庁の電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)または所轄の税務署で確認してください。
なお、検索機能を省ける場合も、データそのものの保存義務は残ります。
法人成りの前後でやっておくこと
次の順番で進めると、保存の抜けを防げます。条文が求めているのは「保存すること」で、フォルダの作り方は自由です。
- 廃業・設立の前に、個人名義のデータを洗い出す。メール添付の請求書、通販・クラウドの領収書、決済アプリの明細など、個人名義で受け取ったデータの保存場所を確認します。サービスの利用をやめるとダウンロードできなくなるものは、解約前に保存します。
- 個人時代の分は、起算日から数えて期限を決める。帳簿・決算書類は7年、書類は原則5年(現金預金取引等関係書類は7年)で、起算日は翌年3月15日の翌日です。
- 設立後の分は法人のフォルダへ分ける。契約名義の変更が済むまでは、個人名義と法人名義の請求書が混ざります。名義の変更は取引先との契約の引き継ぎや法人成り1年目の期限カレンダーも合わせて確認します。
- 法人の訂正・削除防止の規程を用意する。タイムスタンプや履歴の残るシステムを使わない場合は、訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて備え付けます(規則第4条第1項第4号)。
- 個人事業の最後の確定申告のあとも、帳簿は捨てない。最後の申告の流れは法人成りの最後の確定申告で扱っています。
まとめ
- 電子取引データの保存義務は個人にも法人にもある(電子帳簿保存法第7条)。法人成りで保存義務者が個人から法人に変わる。
- 個人時代の帳簿・決算書類は起算日から7年、取引書類は原則5年(現金預金取引等関係書類は7年)。法人設立で短くなる定めは、確認した条文にはない。
- 個人時代の電子取引データも、書面なら保存すべき期間は電子のまま保存する(施行規則第4条第1項)。
- 法人の帳簿書類(青色申告法人)は起算日から7年。起算日は事業年度終了の翌日から2か月を経過した日。
- 検索機能を省ける売上5,000万円以下の判定は、個人は前々年、法人は前々事業年度で別々に行う。
法人の決算書の種類は法人の決算書の種類と見方、契約書と領収書の印紙税は法人の印紙税(契約書・領収書)で扱っています。
次に知りたいことは、取引先との契約の引き継ぎ、法人成りの最後の確定申告、法人の帳簿書類の保存期間です。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(第7条:電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存。2026-10-29確認)
- e-Gov法令検索「同法施行規則」(第4条:電子取引データの保存の措置・保存期間・基準期間と売上高5,000万円以下の検索要件。2026-10-29確認)
- e-Gov法令検索「所得税法施行規則」(第63条:青色申告者の帳簿書類の整理保存、第102条:事業所得等に係る帳簿書類の保存。2026-10-29確認)
- e-Gov法令検索「法人税法施行規則」(第59条:青色申告法人の帳簿書類の整理保存。2026-10-29確認)
よくある質問
- 法人成りをしたら、個人事業の帳簿は捨ててよいですか?
- いいえ。所得税法施行規則は、帳簿と決算関係書類を起算日(翌年3月15日の翌日)から7年間保存すると定めており、法人設立で短くなる定めは確認した条文にありません。廃業後の扱いの細部は税務署で確認します。
- 個人時代にメールで受け取った請求書のPDFも保存が必要ですか?
- 必要です。電子取引のデータは、書面なら保存すべき期間、電子のまま保存します(電子帳簿保存法施行規則第4条第1項)。印刷だけでは足りません。
- 法人の検索機能の要件は、個人時代の売上で判定しますか?
- 条文上、法人の基準期間は前々事業年度とされており、個人時代の売上高が入るとは読めません。設立直後の事業年度の細かい扱いは、国税庁の一問一答か税務署で確認してください。
- 法人の帳簿書類は何年保存しますか?
- 青色申告法人は、帳簿・決算関係書類・取引書類とも起算日から7年間です(法人税法施行規則第59条)。起算日は事業年度終了の日の翌日から2か月を経過した日です。

