個人事業を子・配偶者へ引き継ぐ手続き(廃業届・開業届・青色承認・消費税)
親が元気なうちに個人事業を子や配偶者へ引き継ぐときの、税務署へ出す届出と、取得費・消費税の扱いです。
国税庁・所得税法・消費税法個人事業には、法人のような「会社ごと渡す」手続きがありません。生前に子や配偶者へ引き継ぐときは、引き継ぐ側が事業をやめる届出を出し、引き継がれる側が新しく事業を始める届出を出す形になります。
この記事では、税務署への届出の種類と期限、事業用の資産を引き継ぐときの取得費、消費税の判定の考え方を整理します。亡くなったあとの相続による承継は、手続きが異なります。
親から子へ「名義変更」はできるか
国税庁のタックスアンサー(No.2090)に載っている事業の開始・廃止の届出書は、個人事業の開廃業等届出書です。同ページに「名義変更」や「承継」の届出は載っていません(2026年10月21日確認)。親の事業所得と子の事業所得は、それぞれの確定申告で別に計算します。
| 引き継ぐもの | この記事での扱い |
|---|---|
| 事業そのもの(税務上の事業主) | 名義変更でなく、親の廃業届と子の開業届に分かれます。 |
| 青色申告の承認 | 子が改めて申請します。引き継がれる記載は確認できませんでした。 |
| 建物・車両などの設備 | 贈与などで子の所有に移します。将来売るときの取得費は親のものを引き継ぐ形です。 |
| 屋号・事業用の口座・車の登録・賃貸借契約 | 税務署の届出とは別の手続きです。口座は金融機関、車は運輸支局、賃貸借は貸主が窓口になります。 |
屋号・口座・車・賃貸借の名義の移し方は、個人から法人への場合を例に自動車の名義変更、事務所の賃貸借契約、屋号と銀行口座で整理しています。親から子への場合は移す先が個人になるため、必要書類が異なることがあります。窓口に確認してください。
事業用の建物の火災保険の契約者変更は、個人から法人へ移す場合を火災保険・地震保険の契約者変更で整理しています。
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生前の引継ぎで必要な届出
国税庁のタックスアンサー(No.2090)では、事業の開始や廃止の手続きに使う書類は「個人事業の開廃業等届出書」の1種類です。新たに事業を開始したときも、事業を廃止したときも、この届出書を出します。提出期限は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています。
| 立場 | 出す届出 | 国税庁の案内にある期限 |
|---|---|---|
| 引き継ぐ側(親) | 個人事業の開廃業等届出書(廃業) | 廃止した日の属する年分の確定申告期限まで |
| 引き継がれる側(子・配偶者) | 個人事業の開廃業等届出書(開業) | 開始した日の属する年分の確定申告期限まで |
| 引き継がれる側 | 所得税の青色申告承認申請書(青色にする場合) | 1月16日以後に始めたときは、業務開始日から2か月以内 |
| 引き継がれる側 | 青色事業専従者給与に関する届出書(家族に給与を払う場合) | 1月16日以後に開業したときは、開業日から2か月以内 |
廃業そのものの手続きは、個人事業主の廃業手続きの記事で、開業届の書き方は開業届の記事で整理しています。
青色申告の承認は引き継がれない
国税庁のタックスアンサー(No.2070)に載っている青色申告の申請期限は、次の3つです。
- 原則:青色申告をしようとする年の3月15日まで。
- その年の1月16日以後に新規に業務を始めた場合:業務を開始した日から2か月以内。
- 相続で業務を承継した場合:承継した日から2か月以内(被相続人が青色申告の承認を受けていた場合は別の期限がある)。
生前に引き継ぐ場合の専用の期限は、同ページに載っていません。親の承認を子が引き継ぐと定めた記載も確認できませんでした。引き継ぐ側と引き継がれる側は別の納税者なので、子や配偶者が青色申告を使いたいときは、新規開業と同じ2か月以内の申請を基本に、税務署へ確認してください。
期限や承認の仕組みは、青色申告承認申請書の提出期限の記事で詳しく整理しています。
事業用資産を引き継ぐときの取得費
建物や車両など、事業で使ってきた資産を子や配偶者へ移すときの税の扱いは、所得税法の条文で決まります。所得税法第59条は、資産を法人に贈与したときなどに、その時の価額で譲渡があったものとみなす特例を定めています。条文の贈与の対象は法人に対するものに限られており、個人への贈与は含まれません。
個人への贈与は、第60条が扱います。贈与、相続、遺贈で取得した資産を譲渡したときの所得の計算では、取得した人が、贈与した人が引き続き所有していたものとみなされます。つまり、将来その資産を売るときの取得費や取得の時期は、贈与した親のものを引き継ぐ形です。
減価償却資産の扱いや、贈与税がかかるかどうかは、税理士または税務署に確認してください。
消費税の判定は引き継ぐ側と別々
消費税の納税義務の免除は、課税期間の基準期間における課税売上高で判定します。国税庁のタックスアンサー(No.6501)によると、個人事業者の基準期間はその年の前々年で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務が免除されます。ただし、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合は免除されません。
消費税法第10条は、相続があった場合の特例を定めています。生前の贈与による引継ぎについて、同じ趣旨の特例は条文で確認できませんでした。そのため、子や配偶者の基準期間は、本人自身の課税売上高で見るのが基本です。
引継ぎ前の親の売上が基準期間に入るかは、税務署または税理士に確認してください。
親が適格請求書発行事業者の登録を受けていた場合の、引継ぎ後の登録の扱いは、この記事では確認できていません。取引先への請求書に影響するため、引継ぎ日の前に確認しておくことをお勧めします。廃業時の消費税の手続きは廃業時の消費税の記事にあります。
公式一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.2090 個人で事業を始めたときの届出など(2026-10-16確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度(2026-10-16確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.6501 納税義務の免除(2026-10-16確認)
- e-Gov法令検索「所得税法」第59条・第60条(2026-10-16確認)
- e-Gov法令検索「消費税法」第9条・第10条(2026-10-16確認)
まとめ
生前に個人事業を引き継ぐときは、親が廃業の届出を、子や配偶者が開業の届出を、それぞれ出します。青色申告は新規開業と同じ扱いで、2か月以内の申請が基本です。
事業用資産は、個人への贈与なら、取得費などを贈与した人から引き継ぐ形になります。消費税は、本人の基準期間の課税売上高で判定し、適格請求書発行事業者の登録の扱いは別に確認が必要です。
よくある質問
- 親の廃業届と子の開業届は、同じ日に出す必要がありますか?
- 国税庁の案内にある期限は、事実があった日の属する年分の確定申告期限までです。同じ日に出す決まりは確認できませんが、青色申告の申請期限が2か月以内なので、開業届と同時に出す方法が分かりやすいです。
- 親の青色申告の承認は、子が引き継げますか?
- 国税庁の案内に、生前の引継ぎで承認が引き継がれると定めた記載は確認できませんでした。子が青色申告を使うなら、新規開業と同じ2か月以内を基本に申請し、税務署に確認してください。
- 贈与した事業用資産を、子が将来売ったときの取得費はどうなりますか?
- 所得税法第60条により、贈与で取得した資産を譲渡したときの所得の計算では、贈与した人が引き続き所有していたものとみなされます。贈与税の扱いは別に確認してください。
- 消費税の免税は、親の売上を引き継ぎますか?
- 相続の場合は消費税法第10条の特例があります。生前の贈与による引継ぎについては条文で確認できませんでした。税務署または税理士に確認してください。
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