本店移転登記とは|自宅・バーチャルオフィスから移すときの期限・費用・決議
法人成りで自宅やバーチャルオフィスを本店にした後、事務所を借りるなどして本店を移すときの登記期限・登録免許税・決議方法と、契約日と登記日のずれに関する注意点を整理します。
会社法・登録免許税法の制度法人成りしたときは自宅やバーチャルオフィスを本店にして、事業が軌道に乗ってから賃貸事務所へ本店を移す、という順番はよくあります。本店所在地を決めるときの注意点は別ガイドで扱いましたが、このガイドは実際に移すときの登記手続きを整理します。
期限・費用・決議の方法という一般的な論点に加え、自宅・バーチャルオフィスから移す人に固有の注意点(契約日と登記日のずれ、個人事業を併存させている場合の届出)もあわせて解説します。
登記の期限
本店を移転したときは、変更が生じた日から2週間以内に変更登記をしなければなりません(会社法915条1項)。移転先が別の登記所(法務局)の管轄区域内である場合も同様に2週間以内で、旧所在地では移転の登記、新所在地では設立事項の登記をそれぞれ行います(会社法916条)。
「変更が生じた日」は、実際に本店として使い始めた日ではなく、取締役会・取締役の決定または株主総会で移転を決議した日を起点に考えるのが一般的です。契約の解約日・入居日と登記上の移転日がずれるケースは後述します。
登録免許税額(管轄内・管轄外)
本店移転登記の登録免許税は、同じ登記所(法務局)の管轄区域内での移転なら3万円、別の登記所の管轄区域外への移転なら合計6万円(各3万円)です(登録免許税法別表第一・二十四号(一)ヲ)。管轄区域外への移転は、旧所在地・新所在地それぞれの登記所に申請書を提出する必要があり、旧所在地・新所在地宛ての2通の申請書を、いずれも旧所在地の登記所へ同時に提出します。
株主総会決議が必要になる場合
定款に本店所在地を「最小行政区画(市区町村。東京23区は区)」までしか記載していない会社が、その最小行政区画の中で本店を移す場合は、株主総会の決議は不要で、取締役会の決議(取締役会を置かない会社では取締役の過半数の一致)だけで移転先を決められます(法務局の登記申請書式の注記による)。
一方、定款に番地まで具体的に本店所在地を記載している場合や、最小行政区画を超えて移転する場合(例:渋谷区から新宿区への移転)は、定款の本店所在地の記載自体を変更する必要があるため、株主総会の決議(定款変更)が必要になります。設立時の定款で本店所在地をどこまで具体的に書いたかを、まず確認してください。
自宅・バーチャルオフィスから移す人の注意点
自宅を本店にしていた場合、賃貸物件であれば、退去の手続きは登記とは別に進める必要があります。登記上は本店移転登記だけで完結しますが、賃貸借契約の解約予告期間(多くは1〜3か月前)を先に確認し、退去日と新しい事務所の契約開始日・登記上の移転日が無理なくつながるよう調整しておくと、二重家賃や空白期間を避けられます。
バーチャルオフィスを本店にしていた場合も同様に、解約手続きとは別に本店移転登記が必要です。バーチャルオフィスの利用契約を解約しただけでは登記上の本店所在地は変わらず、逆に移転登記だけ先に済ませてバーチャルオフィスの契約を残していると、無駄な利用料が発生します。バーチャルオフィス側の解約日と、新しい本店への移転登記の申請日を近い時期にそろえておくと管理しやすくなります。
個人事業を法人成り後も一部併存させている場合(複業などで個人の屋号を残しているケース)、法人の本店移転登記と、個人事業側の手続きは別物です。法人側は上記の登記と税務署・自治体への異動届で完結します。個人事業の事業所所在地が変わる場合、令和5年1月1日以後は届出書の提出自体が不要で、次に提出する所得税・消費税の申告書に異動後の納税地を記載すれば足ります(年の途中で税務署からの送付先だけ変えたい場合は、任意で「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」を提出できます)。
株式会社の代表取締役の自宅住所が登記事項証明書に出る点については、令和6年10月から、一定の要件で市区町村までの表示にする申出ができる制度があります。要件と注意点は代表取締役等住所非表示措置で整理しています。
登記後に必要な届出
本店移転登記が完了したら、税務署・都道府県税事務所・市区町村・年金事務所への異動届もそれぞれ必要です。
- 税務署:「異動事項に関する届出書」を、異動前の納税地の所轄税務署長へ、異動後速やかに提出します。
- 都道府県税事務所:異動届出書の提出期限は自治体ごとに異なります(東京都は「廃止又は変更の日から10日以内」)。移転先の都道府県税事務所の案内を確認してください。
- 市区町村:都道府県と同様に、提出先の市区町村の案内で期限・様式を確認してください(自治体により異なります)。
- 年金事務所:従業員を雇っている場合、「適用事業所所在地・名称変更(訂正)届」を、事実発生から5日以内に提出します。管轄区域外への移転では、変更前の事業所所在地を管轄する年金事務所へ提出します(新所在地の年金事務所への再提出は不要です)。
まとめ
- 本店移転登記は、変更が生じた日から2週間以内に行う。
- 登録免許税は、管轄登記所内での移転なら3万円、管轄区域外への移転なら合計6万円。
- 定款に最小行政区画までしか書いていなければ区画内の移転は取締役決定でよいが、番地まで記載・区画外への移転は株主総会決議が必要。
- 自宅・バーチャルオフィスからの移転は、賃貸借契約の解約日・バーチャルオフィスの解約日と登記日のずれに注意する。
- 個人事業を併存させている場合、法人の異動届と個人の納税地異動届は別の手続き。
- 登記後は税務署・都道府県税事務所・市区町村・(従業員がいれば)年金事務所への異動届が必要。
本店をどこにするか決める段階の注意点は、「法人の本店所在地は自宅?バーチャルオフィス?」を参照してください。
自宅を本店にしたときの固定資産税は、「自宅を法人の本店にすると固定資産税はどうなるか」で解説しています。
公式一次情報
- e-Gov法令検索「会社法」第915条・第916条(変更が生じた日から2週間以内の登記義務、管轄区域外への移転時は旧所在地・新所在地それぞれで登記)
- e-Gov法令検索「登録免許税法」別表第一・二十四号(一)ヲ(本店移転登記の登録免許税は1箇所につき3万円)
- 法務局「株式会社(本店移転・管轄登記所内)」申請書式(登録免許税3万円、最小行政区画内の移転は株主総会決議不要である旨の注記)
- 法務局「株式会社(本店移転・管轄登記所外)」申請書式(旧所在地・新所在地それぞれ登録免許税3万円、合計6万円、両申請書を旧所在地の登記所へ同時提出)
- 国税庁「異動事項に関する届出」(異動後速やかに、異動前の納税地の所轄税務署へ提出)
- 東京都主税局「事業を行う方の申告手続」(本店所在地の廃止・変更の日から10日以内に異動届出書を提出)
- 日本年金機構「管轄区域外への事業所所在地変更」(事実発生から5日以内、変更前の事業所を管轄する年金事務所へ提出)
- 国税庁「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続」(令和5年1月1日以後、納税地の異動・変更の届出書は提出不要。次の申告書に異動後の納税地を記載すれば足りる)
よくある質問
- 本店移転登記はいつまでにする必要がありますか?
- 変更が生じた日から2週間以内です(出典:会社法915条)。管轄区域外への移転も同じく2週間以内で、旧所在地・新所在地の両方で登記します。
- 登録免許税はいくらかかりますか?
- 同じ登記所の管轄区域内での移転なら3万円です。管轄区域外への移転は、旧所在地・新所在地それぞれの登記所への申請が必要になり、合計6万円かかります(出典:登録免許税法別表第一)。
- 株主総会を開かずに本店を移転できますか?
- 定款に本店所在地を最小行政区画(市区町村)までしか記載していない場合、その区画内での移転なら取締役会の決議(取締役会がなければ取締役の過半数の一致)で足り、株主総会は不要です。番地まで記載している場合や区画を超える移転は、定款変更のための株主総会決議が必要です。
- バーチャルオフィスの解約と登記のどちらを先にすべきですか?
- 決まった順序はありませんが、解約日と移転登記の申請日を近づけておくと、無駄な利用料の発生や本店所在地の空白期間を避けられます。新しい本店の利用開始日に合わせて登記の申請日を調整するのが実務的です。